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kick 99.10.10 MA日本キック「ADVANCE-II」袖ヶ浦臨海スポーツセンター

第10試合(ダブルメインイベント フライ級タイトルマッチ/5回戦) 
MA日本フライ級王者
西村鋼太
(花澤)
判定3-0
[50-45,50-45,50-45]
MA日本フライ級1位
田中信一
(山木)
×
※西村が防衛成功するも引退のため返還。王座空位に
 A日本キックボクシング連盟は27の加盟ジムを持つ、国内最大規模の興行体。活発な交流戦を行っており、タイの現役ランカーや他連盟の有力選手がリングに上がる機会も多い。国内強豪との対戦や国際戦を経て選手が育っていくためには格好の土壌といえる。
 逆にあまりにも多い選手層の中で、チャンピオンでありながらその存在を知らしめる機会がないまま、引退の日を迎える選手もいる。
 西村鋼太は1996年10月に戴冠、3年間タイトルを保持。
 今日の試合で、結果にかかわらず引退すると表明。戦績は12戦12勝(7KO)無敗。

 赤コーナーから登場する西村に対して、会場から大きな声援が送られる。地元というだけではない。戦績が裏付けるように、西村の実力はフライ級屈指であり、試合を待ち望んでいたファンは多い。攻守バランスが取れており、特に攻撃ではパンチ・キック・ヒジ・ヒザ全てを有効に使うオールマイティなタイプ。
 王者に挑戦するのは田中信一。ボクシング日本王者の経歴を持つ、パンチ型のベテラン選手。キックのタイトルとは無縁だったが、今年全日本キック連盟のフライ級王者山田隆博を逆転KOで下した後ランキング1位に。攻撃はパンチに大きく傾いている田中だが、その一発が怖い。
 スタイルが大きくかけ離れた両者。そして1年間試合をしていない西村。試合展開の予想がつかない。

 Rは両者様子見か、静かに過ぎる。田中はタイトル挑戦という大舞台で若干力んでいるのか、西村の軽いローにバランスを崩す場面も。
 2Rからは活発な打ち合いとなる。
 右のミドルで攻める西村に田中は左フックを振り回して対抗。そこに西村のカウンターの右ストレートがヒットして田中がダウン。田中のダメージはそれほどでは大きくないものの、これで西村がリズムを掴む。
 これ以降のラウンドは一方的な西村ペースとなっていく。
 ワンツーで相手を下がらせ、距離を詰めて首相撲からのヒザ。これを軸にしてロー、ミドル、ハイを自在にヒット、またはボディへの正確な打ち分け。
 そして過去の闘いでも見せた鋭い肘。防御の方も間合いの取り方が抜群にうまい。田中のダイナマイトパンチ(左フック)をなんなくかわしていく。
 田中としてはなんとか打開したいところだが、後半になると足が止まり、パンチは空を切る。タイトル挑戦が決定して以来練習漬けとなっていた田中だが、西村はそれを軽々と突き放してみせた。

 結局、ほとんど危なげないまま試合は終わった。
 ジャッジ3者ともフルマークでチャンピオンの勝利を告げる。
 西村は防衛に成功した。そして試合後すぐにベルトを返上、その場で引退式が行われた。

「家庭も、仕事もあるし、年齢や体力のこともあって」引退するという西村。

 この1年試合がなかったが、練習はずっとしていたという。
 これだけ強い王者が世界を見ずに引退してしまうのは、いかにも惜しい。大きな損失である。
 しかし周囲がいくら惜しんでも、現実は厳しい。
 いくら実力があってもそれだけで食えなければ、どうしても仕事との兼ね合いが厳しくなる。そして、試合がなければ、現役を続ける意味はなくなってしまう。今までにも西村と同じ事情で辞めていった選手は多くいる。「食えない」構造であるかぎり、また同じことが起こるだろう。それは競争の厳しさなのか、単なる運不運なのか。

 今後は花澤ジムで後進の指導にあたる。
「できれば、一度タイ人とやりたかったですね」
 試合後そう語った西村。無傷でリングを降りたが、完全燃焼は得られないままである。

 

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メインイベント2 山上健吾 vs. 永田健一