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Report

日本キックボクシング連盟 4月22日 後楽園ホール大会
“2000年感動シリーズ”
第10試合 日本キック連盟・NJKF交流戦 トップ・オブ・ウェルターリーグ67kg契約/5回戦
これぞ2000年ベストバウト最右翼!小野瀬激戦を制す
日本ライト級王者
小野瀬邦英
(渡辺)
2R1分44秒

KO
NJKFウェルター級4位
松浦信次
(東京北星)
×

小野瀬入場小野瀬は日本キック連盟のライト級王者。「血祭り男」の異名を誇り、常に強い相手に餓え、連盟のモットーである「倒し合い」を体現する男。通算成績は21戦18勝3敗16KO。実に89%とキックボクサーとしては異例ともいえる高いKO率を誇り、ここまで足掛け6年間に14連勝、8連続KO勝ちを続行中。規格外の破壊力を誇る左フックと、信じられないような頑丈なボディを持つ日本キック連盟不動のエース。
連盟ファンの間では知らぬ者はない存在ではあったがキック界においては立嶋篤史や鈴木秀明、小野寺力といった華やかな存在に比べると最近まで今ひとつ知名度で劣っていた。
そんな彼を一気にメジャー・シーンに押し上げたのが今年3月の青葉繁(仙台青葉)戦。NJKFとの合同企画「トップ・オブ・ウェルター・リーグ」の緒戦として組まれたこの試合で、1階級上の王者と真正面から打ち合い、文字通り粉砕してのけた。

対する松浦信次。全日本、NJKF2団体で王者に君臨。松浦入場抜群の防御カンと多彩な攻撃テクニックで1時代を築いたが1997年7月の青葉繁戦(KO負け)を最後に1998年引退を表明。しかし1999年5月に現役復帰、今回が3戦目となる。
バリバリのムエタイスタイルだが打ち合いにも強く、ここまで11勝のうち7KO。KO率64%と小野瀬のインパクトに隠れがちだがこちらも十分に驚異的な数字を持つ。
得意の右ストレートがヒットすれば、いかに小野瀬といえどもキャンバスにひれ伏す可能性は高い。
NJKF3月大会では大谷浩二(横浜征徳会)と対戦し、本来の動きからは遠かったがそれでも中盤の打ち合いを制し判定勝利をおさめ小野瀬とともにリーグ戦1勝を挙げている。この試合で勝利した方が優勝に王手をかけることになる。

両者は青葉繁とチャイナロンという共通した対戦相手がいるが、月日が離れているため参考外。小野瀬の勢いか、松浦のテクニックか。小野瀬の左フックか、松浦の右ストレートか。
どちらにしてもゴングがなればすぐにでもわかることだ。そして試合は我々の想像を超えた壮絶な打撃戦となった。

松浦がロープに追い込むゴング。前回の青葉戦では左フックを生かすためにサウスポーに構えていた小野瀬だが、松浦がサウスポーを得意だという情報が入ったため今回は本来のオーソドックス・スタイル。松浦はいつもと同じくオーソドックスに両腕を若干広めに構えるムエタイスタイル。
松浦が様子見に出したローに小野瀬左フック、さらに右を返すがこれはスウェーでかわす松浦。

今度は小野瀬がワンツーから右アッパーのコンビネーション。松浦被弾しつつもカウンターでローを合わせる。だが早くも顔を腫らす松浦。しかし小野瀬がパンチを打った拍子にバランスを崩すと松浦が一気にラッシュ。右ストレートで後退させロープまで詰め、パンチの連打で攻めると場内もヒートアップ。
しかし小野瀬も負けていられない。このピンチを凌いだ

1R松浦のダウン直後 2分過ぎ、松浦の出鼻に左を合わせると松浦まさかのダウン、一発で不利の戦局をひっくり返してみせた。
しかし松浦もさるもの、まだダメージの抜けきらないだろう状態でじりじり前進しプレッシャーをかけ、ガードを解いて声を出し、挑発して見せた。
さらに距離を詰め左フック、小野瀬が左を返したところにカウンターの右クロスをヒットさせ小野瀬を後ずさりさせる。果敢に左フックを連打する小野瀬だがこれをスウェーでかわす松浦。

 

ここで1ラウンドのゴング。

いきなりの打ち合いに場内のボルテージは上がる一方。足を使ってくると予想していた松浦が打ち合いに応じてきたため、どちらがいつ倒れてもおかしくない、一時も目の離せない展開になったのだから無理もない。
2R松浦のハイ

2R、左を空振った小野瀬に松浦が右で追撃。思わず後退する小野瀬にハイキックで追い打ち、場内から思わず悲鳴が上がる。
さらに松浦得意の右ヒジを叩き付けると、小野瀬の右目上が裂け、見る間に流血。あせる小野瀬、左フックを振り回すが松浦余裕のスウェー。
ストップの基準の甘い連盟だが、それにしてもいつ止められてもおかしくないような大流血となる。しかし試合は続行。そしてここからが小野瀬の真骨頂だった。

小野瀬は松浦のディフェンスを無視するかのように前進、左フックをボディに集めたたき込む。この連打に思わず顔をしかめ効いたそぶりを見せる松浦。
ここぞとボディブローを重ねると、ついに松浦ダウン。そのまま10カウントが数えられ、耳をつんざくような歓声の中、小野瀬の勝利が確定した。

この試合後の熱狂はどう表現していいのかわからない。とにかく我々も「信じられないものを見た」というしかない。
たった2ラウンド、5分にも足りない試合の中で、両者の巧守がめまぐるしく入れ替わり、そのどれもが決定打になるようなスリリングな展開。
倒しにいくということは、倒される危険性を孕んでいる。4名で争われるリーグ戦の中で、1勝は貴重だ。観客の熱狂は、両者の「1敗のリスクを恐れない」ファイトが呼び起こしたものだ、といえばありがちだろうか。

もしどちらかがディフェンシブであったり、実力差がありすぎたりしたら、この名勝負はなかった。松浦が小野瀬と同じタイプだと評価されていたら、また試合展開は変わっていただろう。二人が初対決であったこと、松浦がいぶし銀タイプの選手、と思われていたことが試合内容に新鮮味を与えた。
実力、コンディション、タイミング・・・あらゆる条件が噛み合いこの試合は屈指の名勝負となった。
おそらくこの二人がまた対戦しても、こういった試合は二度と行えないのではないか。
貴重な、たった1つの試合であったことは間違いない。



試合後の小野瀬は 「甘く見ていた。相手が玉砕覚悟で来たのがわかった。途中コーナーに詰められた時は意識が飛んだ。5年前の(全盛期の)松浦だったらやられていたかもしれない」 とコメント。 しかし最後の部分は余裕の裏返しか。

一方の松浦。
「足を使うつもりだったので打合いは予定外。ただいけるとは思っていたし、(小野瀬が)パンチが効いているのはわかっていた。しかし相手のパンチは予想以上に強くて早かった。最後はボディが効いた。この後はちょっとゆっくりしたい」

  男として、或いはキックボクサーとしての誇りをかけて勇敢な打ち合いに応じた松浦も見事だったが、ここは勝利した小野瀬の底知れぬ力を賞賛したい。これで現役王者の青葉に続きNJKFに3人いる歴代のウェルター級王者の2人目を撃破したことになる。

リーグ戦2勝目を挙げ優勝に王手をかけた小野瀬の次の相手は3人目のウェルター級王者、大谷浩二。これまでの相手は打ち合って来たため小野瀬も自分の領域に持ち込む事が出来たが、大谷はディフェンス主体でどんな局面でもマイペースを崩さないタイプ。もしかすると、小野瀬にとって最大の難敵かもしれない。そうすると、他の3選手にもチャンスは残っているとも言える。いずれにせよ、この1戦によりキック界で最もセンセーショナルな存在になった小野瀬から目を離すことは出来なくなった。

刮目して今後の小野瀬邦英に注目しよう。

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レポート:新小田哲 カメラ:薮本直美 

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