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Report
 
k1 99.10.3 K-1 GP'99 開幕戦 大阪ド−ム
 
第7試合 K1 ル−ル3分5R 
× 佐竹雅昭
5R フルタイム
判定
(0-3)
武蔵

「こんな所では闘えない!」佐竹、大激怒!


 
 「試合判定、48-46,48-46,48-46。3-0で武蔵の勝ち!」
 記者席後方でこのアナウンスを聞いたとき、佐竹の判定勝ちを予想していた筆者は驚いた。武蔵が失った2ポイントは第1ラウンドのダウンによるものである。とするとこの採点は、2ラウンドから5ラウンドまでの都合4ラウンドに対して、3人のジャッジが3人ともフル・マ−クで武蔵にポイントを与えたことを意味している。
 この試合結果に驚いたのは筆者やその他多くの観戦者だけではなかった。誰よりも、自分の仕事をきっちりこなしたつもりでいた佐竹雅昭の怒りはこれまで例を見ないほど激しいもので、ついには「やってられるか」「(K-1の)リングに上がるのが嫌になった」という爆弾発言まで飛びだした。事はK-1界全体を揺さぶるような重大事件に発展する危険すらはらんでいる。ジャッジの判定と佐竹の状況判断にここまで大きな乖離を生んだ要因は一体どこにあったのか?

round1
  間距離で睨みあう両者。この距離はお互いに攻撃を出せば相手に有効打がヒットする間合いだ。両者共にやる気だな、という気配がリング上に充満する。佐竹が踏み込みながらワン・ツ−を放つ。武蔵ステップバックしてこれをかわそうとする。ところがこの日の佐竹のワン・ツ−には明らかにこれまでとは違う点があった。前足をステップインしながら左ジャブ、その足を支点にして上体の回転で右ストレ−トを放つのがこれまでの佐竹だったが、この日は最初のステップインの後、さらに送り足を進めながら空手の追い突きの要領で右をまっすぐに相手の顎めがけて打ち込んだのだ。このため武蔵の距離感を大きく突き破って拳が顔面を正面から捉えた。ダウン!

 この序盤の予想外の展開に武蔵の中に焦りが生まれる。相手との間合いを測り、自分の有利なテリトリ−を守りながら技術で相手を封殺する彼本来のスタイルを破り、自分から前へ出て攻めようとし始めたのだ。このまま武蔵がこの戦法を続ければ、試合の展開は大きく異なるものとなっただろう。だが武蔵もまた、多くの経験を積むことで常に冷静さを備えたクレバ−なファイタ−になっていた。佐竹が何度となく「来い、来い」と促すが、一旦落ち着きを取り戻した後、むしろ武蔵はそれまで以上に自分の距離を保つ闘い方に固執するようになっていく。


round2
  竹がプレッシャ−をかけながらジリジリと前に出れば、武蔵はサイドステップでスルリと回り込む。そしてそこからスピ−ドのあるカウンタ−。佐竹の内股を狙ったロ−が武蔵の股間に入って30秒のインタ−バル。佐竹の右の攻撃が良いと見て取った武蔵は、ここからサウスポ-に構え、踏み込んでくる佐竹に対して得意にしている左ミドルと、左膝蹴りで迎撃する戦法を多用し始める。

「最初から想定していた戦法じゃありません。佐竹先輩が右を使ってくるのが予定外だったんで、それに対処しようと。」

 この武蔵の臨機応変な戦略の組み替え、左ミドルと左膝による攻撃がジャッジの判断に大きく作用した。「全然ダメ−ジなんかなかった」と憤懣やる方ない佐竹だが、3人のジャッジは踏み込んでくる佐竹の動きをストップする武蔵の技術を評価のポイントとした。


round3
  「そろそろ仕事に掛かろうか」セコンドとそんな会話を交わして、佐竹はこのラウンド、リングに出ていった。プレッシャ−をかけているのは自分の方、武蔵は下がりながらのカウンタ−だけで距離が詰れば徹底してクリンチしてくる。前に出ている自分に攻勢点が与えられることこそあれ、これで武蔵にポイントが渡るわけがない。それが佐竹サイドの判断だった。

 しかしジャッジの判断は、踏み込んでくる佐竹のボディに的確にヒットする武蔵の左ミドル、左膝に一定の評価を置いていた。佐竹は身体の芯をずらし、これらの攻撃を流すことでディフェンスしていた。少なくともこれでダメ−ジは受けていない。ダメ−ジのない攻撃に評価が与えられるとは考えてもいなかった。

 この試合では、日本人同士の対決に公平を期すため3人のジャッジとレフェリ−いずれも外国人を起用していた。結果的にはこのことが佐竹サイドと審判団との間に、皮肉な判定に対する考え方のズレを生んでしまったのではないか。

 国際式ボクシングの世界を筆頭に、近年特に外国では対戦する両者の間に各ラウンド毎必ずポイントの優劣を付ける傾向が強い。対して日本では、ある程度明らかな差が認められないかぎりそのラウンドはイ−ブン、という判定が容認されている。特にボクシングと比較してキック・ル−ルでその傾向はより強い。石井館長の弁によれば、審判団は佐竹の攻勢を「前には出ているが、有効な攻撃対象部位に対する的確なヒットが認められない」ため評価の対象とせず、逆に武蔵のミドルと膝を(それがたとえ佐竹にダメ−ジをもたらさなくても、それ以上優先すべき両者の評価対象がないので)ポイントとしたのだという。K-1のオフィシャル・ル−ルは、攻勢点=アグレッシブ度よりもクリ−ンヒットの数に、より高い評価を与えるよう定めている。

 これが佐竹の試合後の抗議に対して石井館長が回答した「外国人ジャッジだから」という言葉の意図だったのではないかと筆者には思える。


round4
  接的な攻撃を出さず、じわじわと前に出ることで威圧する佐竹と、ステップワ−クで自分の間合を保つ武蔵。レフェリ−から「もっと打ち合うように」という注意が両者に与えられる。しかし一度固まってしまった試合のリズムはもはや容易には変わらない。

 はっきりした白黒を付けたい佐竹としては武蔵に前に出て打ち合ってほしいところだが、武蔵には武蔵のスタイルがある。しかしこの日の武蔵の戦法、クリンチを厳しくチェックするというK-1のル−ルにおいては注意や警告の対象になるところまでいっていたはずだ、というのが今回佐竹サイドのセコンドに付いた湊谷コ−チの言い分である。大会前にもこの点に関して出場選手間ではコンセンサスの確認が行われたにもかかわらず、この試合においてはクリンチに対するチェックを厳しくするようレフェリ−に促す事前の連絡が不徹底だったとしか思えない。それにも関らず採点だけは厳密なK-1ル−ルが、しかもこの日の他の試合においては採用されていなかった強制振分け式の採点法が適用されていたとすれば、ジャッジに関してダブル・スタンダ−ドが通用していたことになる。

 そもそも「採点基準をどう考えるかで試合の評価が著しく変化する」ということは格闘技では常識である。K-1はこの部分を明文化しあいまいなジャッジを出来るだけ払拭しようという試みを続けてきたが、それでも大騒動の火種に繋がる危険を避けきれなかったというところか。


round5
 終ラウンドということで、両者積極的に前に出る。しかしそうなると今度はどちらから仕掛けるでもなく距離が密着してクリンチ状態が増える。組みあってはレフェリ−のブレイク、組みあってはブレイクの繰り返し。そのなかでどちらにクリ−ンヒットが多かったかと考えれば、飛び膝蹴りやレバ−ブロ−など多彩な攻撃を見せた武蔵にやや歩があった、というのがこのラウンドに対する「外国人」ジャッジの判断だったのだろう。しかし一方でこれまでのK-1の慣例にしたがった判断基準で考えれば、このラウンドもイ−ブンという判断もありえただろう。



 
  竹の怒りは心情的には理解できる。湊谷コ−チの言うように、この試合のレフェリングに関して他の試合とは異なるスタンダ−ドが適用された可能性は否定しづらく、もしその結果こうした軋轢が産み出されてしまったとすれば、対戦した両選手、コミッションの不徹底を背負わされた格好になってしまったジャッジやレフェリ−、そして後味悪い尾を引く試合を観戦させられたファン、すべての人々にとって不幸なことだと言わざるを得ない。


  「もし再戦ということであれば、自分はやります。」折角の勝利に水を差された格好の武蔵には、気の毒なことである。「自分は自分の闘いをやっただけ。その結果ジャッジがああいう結果を出して、僕はそれに従っただけです。でも、自分の闘いとして納得いくものではなかった、という不満は残ってます。」武蔵の心情が試合結果にまつわる周辺状況よりも、自分がした「仕事」の内容そのものの評価に向かっていることは、好ましいことだと感じる。湊谷コ−チも「武蔵に対して怒ってるんじゃない。佐竹と相対した場合の武蔵の戦法がああいうものになることは理解できる。」と述べている。だとすればなおさら、この両者がお互いに対して心情的な遺恨を残したりすることのないよう、事態が納得できる結末に向かうことを願わずにはおれない。

 

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レポート:高田敏洋 カメラ:井田英登