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k-1K-1 WORLD GP 2000 in 名古屋
7月30日(日)名古屋市総合体育館 レインボーホール

第7試合 トーナメント準決勝 
× ニコラス・ペタス
(デンマーク/極真会館)
1R 3'00"

TKO(2D)
ジェロム・レ・バンナ
(仏/ボーアボエル&トサ・ジム)

「KはケンカのK〜極真VS暴走サイボーグ」

Text By 高田 敏洋 & 井田英登

ンナが畏れられるのは、その破壊力のあるパンチだけによるものではないのかも知れない。
 

「人間嫌い」を公言するこの男が、ドン・キング・プロモータの元で1年あまりのボクサー生活を経てK-1に戻ってきたとき、その瞳に宿っていたのはハングリー精神のみではなく、怒り(アングリー)の炎でもあった気がする。四月の大阪ドームで、極真王者として勇躍凱旋復帰してきたF・フィリョを一撃で轟沈したその拳に、その怒りの炎を垣間見たといったら、あまりにセンチな見方だろうか。


かしそうした荒ぶるバンナとの対戦を、「やりたかったんですよ、僕は」と公言したのがフィリョの極真同門であるペタスだった。
「仲間が倒されたというのは悔しいですね。借りを返したいんですよね。」
 試合前の質問にペタスはハッキリとそう答えている。彼は自分の出自である「極真」という場に、明確な誇りと拘りを持っている選手だ。ペタスは、己の拳以外何者にも頼ろうとしないバンナとは、いわば対極に立っていた。同門の友情、武道精神、おそらくそういったものが一々、バンナの琴線を刺激し続けていたのかもしれない。試合前にリング中央でジャッジの注意を聞く間、傲然と見下ろすバンナを、下から半眼で睨み返していたペタス。ゴング前から、この試合にはピリピリとした緊張感が満ち満ちていた。


ングと同時に、怒濤のようなパンチ・ラッシュで襲いかかったバンナ。第一試合のマーク・ハント戦とは全く別人のようなラフな攻撃だ。

「(バンナに)速い連打が出る時は、物凄い迫力はあるから」と試合後語った通り、怒濤のラッシュを受けると、ペタスはガードを固めたまま前屈みになり、コーナーやロープ際に押し込まれるような体制は避けられない。

「これは喧嘩だと思ってたから。気持ち的には絶対負けられないと思った」と言うペタスは、何とか蹴りを中心に反撃の隙を伺い続けた。頭を下げて、パンチの暴風に耐えながら、必死に反撃のチャンスを探す。バンナのラッシュに押し込まれて転倒した際も瞬時に立ち上がって全く怯んだ素振りを見せない。かさに掛かって振り回してくるバンナのフックをダッキングし、スルリとその背後に抜け出す。
「大きいの振ってるから、パンチは見えてました。ガードがあると、衝撃はかなり違うんですよ。ガードの上から殴られて、これは重い、とは感じたけど、これなら我慢できる、と」
2年前のステファン・レコ戦から格段に進歩したパンチ技術を証明するように、ペタスのガードはしっかりしたものだった。だが最初のダウンは、やはりそのガードの上からテンプルに叩き付けられたバンナの左フックだった。

れで勝負あったか、と思われたが、立ち上がったペタスの目はまだ闘志を失っていない。右ハイやローキックで反撃を試みるその動きに、場内が大声援を送る。だがバンナはガードの上からでもお構いなしだ。叩き伏せてやる、と言わんばかりの怒濤の右フックを3度、4度と打ち込み続ける。ペタスが崩れるようにダウンしたのは、ラウンド終了を告げるゴングが鳴る一瞬前のことであった。
 

両手をクロスさせて試合終了を場内に告げる島田レフェリー。

撃的な事件が起こったのは、その直後のことだった。フラフラと立ち上がったペタスが、目の前に立っているバンナを見て、瞬間的に臨戦態勢を取って身構えたのだ。「倒されちゃいけない、ちょっとでも(ポイントを)取り返したい、という気持ちがあって。」と試合後振り返ったペタスだが、あの状況下で、まだ自分のKO敗北を認識できていなかったのはやむを得ないだろう。


 確かに試合はペタスの2ダウン目で決着がついているのだが、それはあくまで合法的なルールに管理された「試合」が終わったに過ぎない。そのルールの檻に閉じ込められた野生の魂は、誰も止めることは出来ない。レフェリーが試合を止め、一方の手を上げた後でさえ、選手の身に宿った闘争心だけは、スポーツとしての「勝敗」に関りなく走り続ける。島田レフェリーは、本来この二人を引き離し、身を挺してでもその溢れだす闘争心を止めなければならない立場にあったのだが、不幸にして、ペタスが立ち上がった視線の正面には、バンナしかいなかった。


 にらみ付けたぺタス。それを一瞬遅れで受け止めたバンナ。


タスはこの瞬間を振り返ってこう語る。
「相手(バンナ)が『何やってんの』みたいな感じで(ジェスチャーするのを見て)アレッ?て思った」
 しかし、この一瞬の躊躇が命取りになった。
 バンナの目に自分の負けを悟って棒立ちになったペタス。
 ペタスの目にさらなる闘争心の吹き上がりを見たバンナ。
 二人の闘争心に時差が生じてしまったのだった。


が、再び野獣と化したバンナは止まらない。渾身の右ストレートを、問答無用とばかりにぶち込んでしまったのだ。無防備のペタスはそのままがっくりと三度目のダウンを喫し、マットに大の字に横たわる。
 バンナの暴挙に、場内は悲鳴とブーイングに包まれた。


 この一発について、試合後バンナはこう語っている。
 「(挑発されたと思って)頭に来たから、ブッ倒してやろうと思った。試合終了してたこと?気付いてなかったな。とにかくこれは戦争みたいなもんだ。ファイターとしての怒り?そうじゃない。アニマル(野獣)の、だよ。」と
 コメントの最中も苛立った表情を隠そうともしないバンナからは、未だ鎮まることを知らない荒ぶる男の魂が湯気のように発散され続けていた。

一方、リング上に昏倒したペタスは、その後しっかりと立ち上がると、悔しさに満ちた表情で退場していった。だが、その後しばらくしてインタビュー・ブースに現れたときは、まるで何事もなかったかのような屈託のない表情を見せて記者達を驚かせた。試合直後こそ怒り心頭に達していたとはいえ、いまや極真の宿敵と化したバンナとK-1ルールで堂々渡り合ったという事実の前で、ペタスの怒りはより前向きなエネルギーに昇華されたらしいことが感じられる。


「喧嘩は先に当たった方が勝ちだってことで、もし次そういうコトがあったら、お先に、自分からいきますよ(笑)」と笑顔さえ浮かべて語るペタスに、ケンカマッチ後の罵倒合戦を覚悟していた記者達の緊張が一気にほぐれる。

「今回僕の中では、キックはデビュー戦だと思ってたんで、今日から始まる、っていうことで。実戦っていうのは、やっぱり経験積まないと。自分を思い切りぶつけてどうなるか、というのは自分でもまだ判らなかったんですよ。でも今回、やっちゃえば、ああ、イケルじゃん、て。2Rに入れば自分のペースが取れる、と本気で信じてましたから。(じゃあ今後もK-1への参戦は続ける?)ええ、もう勿論。しばらくは(空手の方は)やらないです。こっち(K-1)に絞って。」
「今日何を見せたかったと言われたら、極真っていうのは、何があってもその壁を乗り越えようと思ったら、努力するんですよ。その極真の、皆さんが見たがった精神っていうのは、自分自身としては見せたと思うんですよ。またこれからも、応援して下さい。」
 

場の観衆も一時はバンナの暴挙の意味が掴めずブーイングで騒然としたのだが、試合後の一撃に対してレッドカード提示され、角田ルールディレクターの「試合後の攻撃は厳重注意」という処置がくだされた事で、怒りを収めることになった。その後、行われたホーストVSバンナ戦のトーナメント決勝では全くその遺恨が残らなかった事から見ても、この試合に込められた「試合結果以上の価値」というものが、観客に十分な説得力を持って伝わったからに他なるまい。


 試合翌日の記者会見で、喜色満面の笑みを浮かべた石井館長が、特別に敗者であるペタスを呼び寄せ「僕はうれしいんですよ。ペタス選手が凄いものを見せてくれたことに感謝したいと思ってます。K-1のKはケンカのKであることを思い出させてくれましたからね。まさにあれは極真魂ですよ」と語ったのも無理はないだろう。


闘技選手は、ルールの中で、そのルールを越えた闘志やエネルギーをぶつけあうものである。しかし競技が進歩し洗練されてくると、とかくルールに閉じ込められ、ルールに監禁されてしまう、”優秀なスポーツ選手”が増えてしまいがちである。しかし、K-1には、そんな枠組みを平気で踏み越える、ケンカ魂の持ち主や、野獣がまだまだ闊歩しているのだ。そのエネルギーの吹き上がりだけが、格闘技ファンに熱い魂の興奮を伝えることが出来るのである。石井館長の笑顔はそのエネルギーを受け止めたゆえに生まれた、会心の笑みだったのである。
 

後に、この一戦で男を上げたペタスの、いかにも“男前”なコメントをお届けしてこの一文の結びとしよう。試合終了後のインタビュウの結びとして、「バンナに一言」というリクエストを受けた答えが、これである。
 
「ありがとう(笑)、楽しかったよ、またやりましょう。今度は俺が勝つ!」

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写真:井田英登

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