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[PRIDE.21] 6.23 さいたま (7):シュルト vs ヒョードル


DSE "明治生命L.A. presents PRIDE.21" 6月23日(日) さいたまスーパーアリーナ [ → カード一覧に戻る]

第7試合 「ロシアの最終兵器、VTのリングに恐るべき全貌を現す」
×セーム・シュルト(オランダ/ゴールデン・グローリー)
○エメリヤエンコ・ヒョードル(ロシア/ロシアン・トップチーム)
判定3-0

 本来の意味でのスポーツエリートが総合格闘技の門を潜ることはまだまだ少ない。少年時代から身体能力の突出した人間は、野球、サッカー、NBAといったメジャープロスポーツを目指すし、そうでない逸材も結局オリンピック競技のエリアでその進路を固めてしまうことがほとんどだ。よって“それ以外のスポーツ”でしかない総合格闘技には、そのフルイにひっかからなかったレベルの人材が流れ込んでくる。決してこれは格闘技を卑下して言っているのではなく、冷静な現実分析としての事実である。まだまだ総合格闘技の世界には、サミー・ソーサもマイケル・ジョーダンもモハメド・アリも現れていない。

 その意味で、この日の第一試合に登場した元NFLの花形選手だったボブ・サップは例外といってもいい。だが、ここにもう一人、スポーツエリートの宝庫で格闘技畑にも属する柔道界からトップエリートが登場した。96年の欧州選手権、97年のロシア選手権を制覇したエメリヤエンコ・ヒョードルがその人である。99年のリングスロシア大会を観戦したのを機にヴォルク・ハン門下に入り、リングスでヘビー級、無差別級の二冠王に就く活躍を見せたのはフロックでもなんでもない。基礎の出来上がったスポーツエリートの運動能力というのは、群を抜いていて当然だからだ。リングスの活動休止は、プロ格闘家としての人生を歩み始めたばかりのヒョードルにとっては誠に不幸な事件だったが、逆に日本での興行規模では遥にビッグプロモーションにあたるPRIDE参戦の道が開けたのだから、人生何が幸いするかは判らない。一部では今回の参戦が初VTという報道もなされていたが、既にロシア国内のアブソリュート大会で2回も優勝した実績があり、むしろ準備万端の参戦と言ってもいい。

 北斗旗覇者でありパンクラス無差別級王者のセーム・シュルトも、その経歴や2メートルを誇る身長など“規格外”の存在であることは言うまでもない。だが、運動能力で言えば決してバランスのいい選手ではない。リーチがものを言う打撃系の世界では頭角を現してきたが、ヒョードルのようなスポーツエリートと対してもその優位性を維持できるかと言えば、実際のところ難しいところだろう。

【1R】
 シュルトのリーチの有るパンチを如何にかいくぐるかがこの勝負の分かれ目であったはずだが、対人競技は間合いの勝負でも有る。パンチで出る様なモーションを見せながら、あっさり胴タックルに成功したヒョードルの動きは、UFCで見せパンチを武器に同じくシュルトの打撃を制したジョシュ・バーネットのそれをも上回る、見事なものだった。速いわけでも隙をついたのでもない、むしろ視線とモーションを盗んだだけのドタドタしたステップだったが、だからこそ虚を突かれたのである。身長差30センチの相手を軽々と担ぎ上げ、フロントスープレックスを成功させた能力はおそるべしとしか言いようが無い。そのままサイド、上四方とすいすいポジションを変え、もがくシュルトからマウントを奪ってしまった。あわや秒殺かと思われた腕十字こそ返されたものの、その積極性、舞台度胸、いずれもたいしたものだ。怪力をもってなるシュルトが、裏返ったまま肘を抜けずにもがいていたシーンこそ、ヒョードルの怖さを感じさせるシーンと見るべきであろう。

 なんとか体を返したシュルトの頭が目の前にあると見るや、ヒザを迷い無くぶち込めるあたり、ルールの把握も完全で、これまでのリングスからの移籍組にはなかった特徴と言えるだろう。そのままマウントに戻ったヒョードルの、腰だめの右のパンチのストロークもあまりに堂に入っている。軌道も威力も、すべてアゴを打ち抜く一撃必殺の意図を秘めたものであるのが見て取れる。必死にもがくシュルトが、長い足を使ってブリッジをしても崩れないマウントのバランスも、素晴らしい以外の言葉が見つからない。180センチ100キロを越えるロデオライダーが存在することに、僕は驚いた。
 ポジションを変えていくヒョードルは、流れの中でシュルトに蹴り離されても、まったく安定感を失わなかった。長いカカトの砲火をかいくぐって、インサイドガードから、シュルトの頭を抱え込み“大好き固め((C)矢作祐輔)”に取ったのも、そのボディのサイズが逆に拷問の武器になることを熟知したうえでのことだろうし、その後簡単にマウントを奪い返し、ゴングが鳴るまでマット上にシュルトの巨体を釘付けにしてしまったポジション維持能力に到るまで、まさにヒョードルのプロモーションビデオのような10分間であった。

【2R】
 開始早々、再びヒョードルマジックは、シュルトに一発のパンチも許さない。蹴りのタイミングを踏み込みで外されたシュルトは、真っ正面から突っ込んでくるヒョードルの胴タックルをまともにもらってそのままテイクダウンされてしまった。バランスとタイミングで人間を投げる柔道家にとって、このモーションスチールはお家芸といってもいいモノなのかもしれない。なんとか長い足のクロスガードをがっちり固めて、ヒョードルの動きを止めたシュルトは、下からグローブで擦るようなパンチを打ち上げていく。すでに1R中盤で見えていたヒョードルの左眉の上の傷を広げて、流血ストップを狙う作戦だろう。しかし、上半身の左右のストロークだけで強烈なパンチを振れるヒョードルは、意に介さずパンチを落としていく。1Rのようなダイナミックな展開はなかったが、このラウンドも上を制したヒョードルの強さが印象にのこる。

【3R】
 三度目のスタンドコンタクト。
 シュルトは、遠間合いからの前蹴りを繰りだした。2回続けて足を振ることも出来なかったシュルトにすれば、間合いを維持するためのかすりもしない牽制の意味を込めた蹴りだったはずだが、またもやヒョードルはこのモーションを盗んでしまった。シュルトの足がマットに着くか着かないかタイミングで、胴タックルを仕掛けて、ロープまで押し込んでしまったのだ。腰だめにしてこらえたシュルトだが、結局捻るような外掛けでテイクダウンを喫してしまう。そのままサイドポジションを奪ったヒョードルは、ボディへのヒザ、フロントギロチンで首を固定してのロングフックと攻め手を休めない。下からのヒザで頭部を蹴り、半身になって袈裟のような姿勢で首を取って抵抗するシュルトだが、首を抜いたヒョードルはそのままマウントを奪取してしまう。首を取って密着しても側頭部にショートフックを打ち込まれ、突き放すとロングフックが振ってくる。いくらブリッジではね上げようとしても、腰の重いヒョードルのロデオ姿勢はかわらない。結局、シュルトは20分に渡った試合時間のほとんどを、マットに背を着けたままで終わってしまった。

 試合後、マイクを取ったヒョードルは「私にノゲイラに挑戦するチャンスをください。彼のベルトを奪いたい」と宣言。この試合の勝者を次期のヘビー級王者挑戦者に推すとしていた森下社長の構想を裏付けた。
 もしこの対戦が実現すれば、ブラジリアン柔術VSコマンドサンボの構図が浮上してくるが、この対決は初めてのものではない。今をさかのぼること7年前、1995年にロシアで開催された「アブソリュート大会」に乗り込んできたブラジリアン柔術家ヒカルド・モラエスが、イリューヒン・ミーシャら並居るコマンドサンビストを次々に下し、事も有ろうに世界コマンドサンボ王者のタイトルを奪い去った“事件”を覚えておられるオールドファンも居ると思う。リングスロシア勢にとって、あれ以来ブラジリアン柔術は運命の宿敵となったのだ。ロシアントップチームと名を変え、PRIDEへと活躍の舞台を移した今、はたして最終兵器ヒョードルを擁した彼等は、あの日どん底にたたき落とされたコマンドサンボの威信を取り戻すことが出来るだろうか。

■ヒョードル 「出血してしまったので派手な技を控えた」

「良い試合でした。シュルトは大変背が高かったし、強くてタフでした。彼は打撃を
狙っていたようだったので接近して投げることを心がけました。
(初のPRIDEルールでの試合だが?)リングスルールと違うところはやはり激しさですね。どうしても用心深く試合を進めなければならなくなってしまいます。1つでもミスを犯したらそれが最後になる可能性が高いですから。今日は目の上を切って出血してしまい、その怪我のせいで負けてしまう危険性があったため、派手な技を控えめにせざるを得ませんでした。
(ノゲイラの印象は?)ノゲイラ選手は世界で最も強い選手の1人、現時点では世界最強かもしれないと思っています。グラウンドが非常にうまいですね。ぜひ戦ってみたい相手です。今日の試合内容には正直言って満足していないので、もっとたくさん練習をしようと思います。
(リングスファンに一言)会場に来て応援して頂いて、大変感謝しています。皆さんの熱い歓声を試合中に聞くことができてうれしかったです。ぜひまた応援に来て下さい。ありがとうございました。」

■シュルト 「ヒョードルの寝技が強すぎてリバースできなかった」

「ヒョードルはすごく力強くて、バランスもよい選手だったよ。パンチと膝蹴りを出すタイミングを躊躇してしまって、有効な打撃を出せなかったね。寝技では彼が強すぎてリバースすることもできなかったし。(PRIDEでは初の敗北だが?)まあ、どんなチャンピオンでも負けを味わうことはあるからね。」

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Last Update : 06/24

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