(レポ&写真) [天下一武道会] 4.20 沖縄 : Mr.神風挑戦権はHIROYAに
ワイルドシーサー "天下一武道会" 2008年4月20日(日) 沖縄・天下一スタジアム(北谷町) TEXT & PHOTO 井田英登
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第10試合 メインイベント(2) 全沖縄ヘビー級王座次期挑戦者決定戦 3分3R(延長1R) ×FRED (Tenkaichi Stadium/2位) ○HIROYA(WILD SEASAR/1位) 1R 3'00" KO
月一回のペースで展開される天下一武道会の、その価値観の中心は「天下一スタジアムランキング」とその頂点のチャンピオンに与えられる「全沖縄」のベルトにある。
特にランキング制定以来そのヘビー級王座に君臨する初代王者Mr.神風は、齢40歳を越えて、未だに若手ランカーの挑戦を突き放し続けている怪物的存在。沖縄無敗を誇る彼のキャリアから逆算すると、1990年代の終わりにスタートしたと言う自主興行「神風リアルファイト」や「琉球鉄拳王」(「天下一武道会」の前身)も含めて、約十年近い年月、この階級には新陳代謝がない事になる。その間、無窮ともいえる勝負強さを見せてきたMr.神風の鉄人ぶりもさることながら、未だ彼に退位を迫れない後進の不甲斐なさも指摘せねばなるまい。
今回その王座に対する挑戦権を賭けて闘う一位のHIROYAと二位のFREDは、ようやくその鉄壁の牙城に迫ろうとしている、“神風越え”の急先鋒ということになる。
既にHIROYAは2006年の12月一度神風への挑戦を経験しているが、この時は3RでK.O.されている。いわば今回の一戦は、その時の“借りを返す”リベンジ戦への鍵が賭かっている。一方、対するFREDは、昨年シーズン、王者・神風の弟子たち、神風拳龍、CHRISといった神風塾所属の選手を次々に葬って、現在の地位まで上り詰めて来た沖縄在住のアメリカ人選手。この両者の対戦は昨年末12月、既に一度実現しているが、両者ともに不完全燃焼の感があり、双方の申し出から今回の再戦に至ったという。
どちらが勝っても、王座に待ち受けるMr.神風との因縁には事欠かない挑戦者たちだが、その椅子はもちろん一つしかない。
空手をベースにするフレッドは、序盤から強烈なミドルと大回しのフックを中心に攻め込み一方的に試合のペースを握るが、カウンターのパンチを狙うHIROYAにとっては、むしろ願うべくもない展開。勢いのあるステップワークでスピードの乗ったパンチをぶち込んで来るフレッド。だが、ほとんど打たれるに任せていたHIROYAが、ラウンド中盤にカウンターの右フックで迎撃したのだ。そこまで一方的とも言える攻めダルマぶりを見せていた巨体の黒人選手の方が、いきなり失速して四つん這いとなった瞬間、客席のほぼ八割近くを埋めたアメリカ人観客から発せられた嵐のような声援が消え、どよめきに変わった。
見事なまでの一発逆転劇。 カウントアウトの完全K.O. 勝利であった。
晴れて王座挑戦権をもぎ取ったHIROYAは、決してテクニシャンとは言えない典型的な“ぶん回し”型の選手だが、3月のTAKIYO戦に続いてまたもや一発のパンチで状況をひっくり返し、その持ち前の豪腕ぶりを発揮した。
現在、「天下一スタジアムランキング」の王座に就いている6選手のうち、主催ジムのWILD SEASARあるいはTenkaichi Stadium(この二つは練習先ジムの所在地に寄って独立している同一資本の別ブランド)の所属選手は、実はバンタム級のローズ達也一人。ましてヘビー級はイベントの華であり、団体の象徴的存在でもある。ーーその王座に長々と君臨する王者・Mr.神風はいわば“外敵”。“WILD SEASAR生え抜き”の挑戦者HIROYAが戴冠を果せば、いよいよ「天下一武道会」の歴史に新しい展開点が生まれるわけだが…。
試合後のアナウンスによれば、ヘビー級タイトルマッチは6月の予定。日本で最初に梅雨の明けるこの地で、Mr.神風の“超”長期政権を吹き飛ばす嵐が吹くのか、それとも若い挑戦者の新芽を枝ごとへし折る掃討の驟雨となるか。
第9試合 メインイベント(1) 総合ルール 70kg契約 5分2R ×MATT(Tenkaichi Stadium) ○風間一太郎 (闘心) 2R 3'21 横三角絞め
そもそも“唐手”の発祥の地であり、かつてボクシング王国として勇名を馳せたこともあって、沖縄での格闘技地図は基本的に“立ち技天国”。総合格闘技はまだまだ地盤が浅い。そんな中で、1990年代後半に唯一MMA系のジムとして発足したのが「Hybrid Wrestling武限」だった。その後、そこから派生した二つのグループが、武限時代のエース砂辺光久の率いる「P's REAL」と、熊澤伸哉や曹達也を擁する「闘心」に分岐し、今日に至る。そんな分裂の経緯もあってか、両ジム間のライバル意識は高い。
これまで「天下一武道会」の総合格闘技系の試合は、通常「闘心」から派遣された審判陣によって裁かれてきたが、今回MATTが6月開催予定の「P's REAL」主催のパンクラス沖縄大会に推薦され、この試合結果が参戦査定試合的な性格を帯びた事から、審判を「REAL」の砂辺光久が勤める事になった。両ジム選手同士の直接対決ではないものの、「武限」時代からの長い選手キャリアを持つ風間にとって、この試合はジムの威信を賭けた対抗戦に限りなく近いシチュエーションであるといえる。
この緊張感が、良い意味で勝負にも反映する試合内容となった。MATTの突進力を殺す意図からか、試合開始早々、風間はいきなり裏拳でインに入り組みの体勢に持ち込む。両者はもつれてグラウンドへ。すかさずアンクルを狙うMATT。このところTENKAICHIスタジアム所属のアメリカ人選手が総合チームを結成し、サブミッション技術を磨いているようだが、実際にに打撃→テイクダウン→パウンドのMMAベーシックだけに留まらない、“総合”技術力を身につけつつあることが、この動きからも判る。
だが、やはり組み合って以降の“際”の攻防となると、スピードと技術に勝る風間が情勢を支配する局面が目立つ。バックマウントを奪うと、MATTの耳上に鉄槌を落とし、スリーパーを狙うなど確実にポイントを稼いで行く。なんとか反転に成功したMATTだったが、すかさず風間は下からの腕十字へ。MATTが腕をキープしたままパワーボムで風間を叩き付けると、外国人観客の「USA」コールが高まる。
もつれた両者がめまぐるしく上下を奪い合う展開となり、隙をついて立ち上がろうとした風間の顔面に、MATTのハイキックが飛ぶ。これを紙一重で躱し、タックルで突っ込んで来たMATTの首をフロントチョークに捉える風間。なかなかに緊迫した攻防が続くが、ここで1R終了のゴング
続く最終ラウンドは、MATTの前蹴りとローで前に出て来るが、ロープ際で組み倒しに成功した風間が、サイドポジションからボディへのヒザで優位をキープする。ストップ・ドント・ムーブでリング中央に移動。この再開の“際”が勝負の分かれ目となった。MATTは再開直後下からの腕十字を狙ってはみたものの、押さえを上四方に移した風間の“罠”を読めなかったようで、“つなぎ”の安全なポジションと考えたか反撃の手が止まる。しかし、その隙を突いて素早くその首をまたいで足をフックした風間は、そのまま横三角固めで締め上げてしまったのだった。昨年末「闘心」主催のグラップリング大会を制した、風間の寝技師ぶりが見事に発揮されたフィニッシュだった。
試合後、風間はその普段の落ち着いたキャラからは異例に思えるマイクアピールを敢行。「これからも闘心の仲間と、沖縄に総合格闘技を広めて行きたいと思います」との言葉を残した。本来なら、アメリカ軍基地からの観客が埋め尽くす会場ではほとんど意味をなさないアピール。やはりこの試合の背景にあるライバル構造が、この物静かな男の胸に期すものを生んだのだろう。
マイクを握る風間の後姿を見守った、かつての盟友砂辺光久の心には、いかなる一石が投じられたのだろうか。 その答えは、6月この同じ舞台で行われる「REAL」主催興行で問われる事になる。
第8試合 ライト級 3分3R(延長1R) ×KENJI・WILD SEASAR (Tenkaichi Stadium/全沖縄ライト級2位) ○増倉 敦(フリー/元NJKFフライ級2位) 4R 判定0-3 (9-10/9-10/9-10) 3R 判定0-1(30-30/28-30/30-30) ※増倉は全沖縄ライト級2位にランキング
KENJI・WILD SEASARは、今年で37歳になる。しかし、キャリア的にはベテランではない。かつて大道塾の選手として打撃系競技の経験はあったものの、プロのキック選手としての活動は二年足らず。元は北海道出身の彼が、サーフィンで訪ねた沖縄の地に居着くようになり、趣味で始めたキックが嵩じて「天下一スタジアム」デビューしたという、まさに“遅れて来たルーキー”だ。 それと同時に、彼はこの大会の会場「天下一スタジアム」=WILD SEASAR北谷(ちゃたん)支部の責任者も勤めている。この日も他の選手が会場入りしている頃、舞台裏のシャワーの修理を黙々と進める姿を見かけた。開場後も大会運営の細かな業務に追われながら、片手間にアップを行い、そしてリングに上がって来る。地方ジムの自主興行ではありがちな光景とはいえ、戦いに賭ける“気持ち”がなければ出来ない。
一方、増倉は、前回の3月大会でMMAマッチに登場したものの、実はかつてNJKFでフライ級のランキング2位まで上がり、王者・高橋拓也とのタイトルマッチや、当時売り出し中だった藤原国崇、全日本キックとの対抗戦では魂叶獅とも拳を交えて来たベテラン選手。ただ、体格に合わない減量とダメージの蓄積もあり、2005年7月にキック引退を決意。当時まだ24歳の若さだった。
その後、社会人として働きはじめてみたものの、まだ自分は燃え尽きていないという“くすぶり”を感じるようになり、グローブを置いた事を悔いる日々が続いたが、既にジムにもキック界にもラインが絶えており、戻る場所がない。伝手をたどって総合の試合も数戦経験したものの、最終的に自分の気持ちを託せる競技はキックだと痛感したと言う。
だが、捨てる神あれば拾う神ありで、前回のMMAマッチは秒殺負けを喫したものの、全盛期の鈴木みのるのようにタオルを頭に被ったまま相手を殺気満々のガン付けで挑発し、ゴング早々に飛びヒザ特攻を見せるなど、端々にプロ意識の高さを見せたこともあり、二ヶ月続けての「天下一」参戦のオファーが舞い込む。それもキック復帰戦として。
こうして奇しくも沖縄の地で交差した“37歳の若手”と“27歳のカムバック”。背景を知らぬ人にはただの数値、ただのトリビアでしかないかもしれないが、その対照の妙は、単に“マイナー選手の話題にならない試合”として放置しておきたくないような、そんなある種のドラマ性を感じさせる。さらにいうなら、あまりにかけ離れた人生を送ってきた両名が同じリングに立つ事など、おそらく「天下一」というこの不思議な舞台が無ければ実現しなかった事ではなかったか。 そんな美文調の“人生劇場”を描くと、逆に、実際の試合は盛りを過ぎた“日曜キックボクサー”の日向臭い試合だったんじゃないのと、目を眇める向きも多かろう。だが、この日のリングで展開された試合はーー超ハイレベルとまで言わないもののーー後楽園で展開されるキック興行の、半ばから後半辺りに混じっていれば、まったく遜色のない技術と展開を見せる攻防であった。
積極的に前に飛び出して左右のパンチで距離を詰るKENJIに対して、増倉はムチのような右ローを重ねてダメージを重ねて行く。首相撲でその蹴りを殺し、ヒザを利かせてチャンスを作ろうとするKENJIだったが、増倉もそこは心得たもので、ヒザを貰いながら胴を折り、首を抜いて、離れ際にまたあのイヤらしいローをぶち込んでいく。
このローを嫌がったKENJIは前蹴りでなんとか距離を作ろうとするが、パンチ勝負に見せてKENJIの打ち気を誘っておいて、結局ローを重ねて行く増倉。実際、増倉は二年のブランクもあって、パンチの精度だけでいえばKENJIの方が正確に顔面を捉えていた。ただ、連打を許さず、ダメージを溜めない形で蹴りの距離に引き込んでしまう、この“インサイドワーク”で、増倉は確実に試合の流れを支配してしまっていた。
次第に左足モモが赤く腫れたKENJIの足が止まり、最終ラウンドでは逆に増倉のいいパンチを浴びる展開も見られる。しかし、ジャッジは一名を除いて、両者の攻防をイーブンと判定。延長に持ち越された勝負は、3Rまでにほぼ崩れていた均衡をダメ押す形で、KENJIが増倉のローを多数浴びる形となり文句なしの3-0。勝負に徹した“若きベテラン”が、ランキング2位をもぎ取った。
試合後、マイクを取った増倉は「1位なんかには興味ありません。次はこのままライト級王座に挑戦させてください」と、またもやアウェイの空気を無視した傲岸不遜の主張を展開。キック戦でも、前回同様のヒールキャラを押し通してみせる。王座挑戦の如何はともかく、増倉はこの二ヶ月連続参戦で、確実に“東京からの侵略者”として天下一スタジアムに居場所をこじ開けたことだけは間違えない。
第7試合 総合ルール 95kg契約 5分2R ○JERRY(Tenkaichi Stadium) ×松田・ホネル・アルカンタラ(チーム・ドラクリーノ) 1R 1'30" T.K.O.(レフェリーストップ)
3月Mr.神風のプロデュースで実現した別大会「沖縄格闘伝説」に参戦、熊澤伸哉を苦しめたグレイシー・バッハ碧南のアレッシャンドル小川が、次に沖縄に送り込んで来た刺客が、190センチを超える巨漢の日系二世選手ホネル松田だ。名古屋グランパスユースに所属するスポーツエリートの一人だった彼は、その後故障もあってサッカー継続を断念したものの、地元名古屋のブラジル人コミュニュティで柔術普及を進めるバッハのグループに見いだされ、柔術よりMMA向きの選手として養成されてきた、まさに“秘密兵器”とも呼ぶべき存在。
一方、迎え撃つJERRYは、本名JERRY NELSON JR.。総合格闘技の草創期である1977年に、元M-1グローバル社長のモンテ・コックス氏が、ミネソタなど中西部を中心に展開していた半アマチュア大会の「エクストリーム・チャレンジ」に出場。中堅どころのポジションで3戦(2勝1敗)を経験。現在は軍人として沖縄に来ているようだが、昨今のU.F.C.ブームに煽られてか、昔取った杵柄で昨年11月に「天下一武道会」でM.M.A.復帰。かつて山本喧一や渋谷修身とも対戦したハマーン・レイエスを破り、現役選手としての存在を主張したばかりだ。
会場はJERRYの応援団とおぼしきアメリカ人観客が、総立ちでコールを送り始め、いきなり前半戦とはまったく違った熱気を醸し出す。その声援に背中を押されるように、景気良くパンチを振って飛び出して来るJERRY。圧倒的な勝利を確信した“狩人”の動きだ。
だが、そんな異様な空気感を、松田は強烈なロー一発で切り裂いてみせた。パシーンと肉の弾ける強烈な音がひびき、さすがサッカー選手上がりと思わせるキック力を発揮する。柔術系の選手の想定外の打撃攻撃を受けて、早速JERRYは戦術を変更。タックルを仕掛けて、テイクダウンを狙って来る。これを受け止めた松田は、そのまま首を取って引き込み、フロントチョークで締め上げる。
しかし、これはクラッチが甘く、結局決まらない。なんとか首を抜いたJERRYは、千載一遇のチャンスに渾身のパウンドを振り下ろす。この右の一発が丁度立ち上がろうと焦った松田の左目にカウンターでヒット。目を押さえて悶絶する松田に、戦意喪失でレフェリーストップが宣告されたが、セコンドは目の異常を訴え続ける松田の状態に、サミングではないかと疑義を主張。
結局、この結果は主催者預かりの審議となったが、ビデオ判定でもサミングの事実は発見されず、また後日医者の診断を受けた松田サイドから、眼堝底にヒビが入ったための異常であったことが報告され、公式結果はレフェリーストップによるT.K.O.で決着。期待の新人デビュー戦は、一転ほろ苦い決着で幕を閉じた。
第6試合 ライト級 3分3R(延長1R) ×外道虎邪(フリー) ○荒瀬雄太(赤雲会) 1R 2'34" K.O.
第5試合 総合ルール 80kg契約 5分2R ○Jersey Devil(Tenkaichi Stadium) ×MINO(多和田道場/全沖縄ミドル級5位) 1R 4'12" レフェリーストップ
第4試合 68kg契約 3分2R ×柴(WILD SEASAR) ○リュウ(神風塾) 判定0-3 (19-20/18-20/19-20)
第3試合 59kg契約 3分2R ○Jucie(WILD SEASAR) ×照屋こういち(赤雲会) 1R 2'26" TKO (3ダウン)
第2試合 80kg契約 3分2R ○Jake(Tenkaichi Stadium) ×聖道(清道会) 判定2-0 (20-19/20-20/20-19)
第1試合 バンタム級 3分2R ×SUGI(WILD SEASAR) ○朋史(赤雲会) 判定0-3 (18-20/18-20/17-20)
Last Update : 04/24 19:54
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