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(レポ&写真) [全日本キック] 8.25 後楽園:前田×梶原は歴史的名勝負に

全日本キックボクシング連盟 "Kick Return 〜 Kickboxer of the best 60 Tournament 開幕戦"
2007年8月25日(土) 東京・後楽園ホール  観衆・2,090人(超満員札止め)

  レポート:井原芳徳(前田・大月・真弘戦)、本庄功志(その他)  写真:ひっとまん大場。
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第8試合 Kick Returnトーナメント Bブロック一回戦 60kg契約 3分5R(延長1R)
○前田尚紀(藤原ジム/全日本フェザー級2位・元王者)
×梶原龍児(チームドラゴン/WFCA世界ライト級王者)
5R 2'40" TKO (レフェリーストップ:左ミドルキック)

※2R右フックで前田2ダウン、右フックで梶原1ダウン、5Rパンチ連打で梶原1ダウン

 3月の小林聡のファイナルマッチの相手を務めた、小林の弟弟子・前田。野良犬魂が注入された“闘う修行僧”は、野良犬でさえも作り上げられなかったような名勝負を、後楽園ホールの歴史に刻み込んだ。

 1R、積極的に右ローを当てる前田に対し、梶原は周りながら距離を取る。だが元東洋太平洋ランカーのボクサーの梶原の、伸びのある右ストレート、右ボディが当たり出すと、逆に前田が下がる展開に。
 2R、梶原に傾きかけた流れを崩そうとばかりに、前田はゴングが鳴るや右フックと右ローで打ち合いを仕掛ける。だが勝ったのはテクニックで勝る梶原。カウンターの右フックでダウンを先取する。
 以前ならこのパターンで玉砕の多かった前田だが、今回は違う。梶原の膝蹴りを耐えて、右フックを当て返した後、ローキックをヒット。梶原の足が流れるように。すると前田が左右のパンチ、梶原が右ローを放った際、梶原がバランスを崩し尻餅をつく。前田のパンチのヒットは不十分に見えたが、朝武孝雄レフェリーは梶原にダウンを宣告する。

 幸運にも流れを引き寄せた前田は、さらにローを効かせた後、右フックを当て梶原をぐらつかせる。とはいえ打ち合いになるとやはり強いのは梶原。右フックで2度目のダウンを奪い、再び流れを引き戻す。
 残り1ダウンで前田がKO負けという場面になり、会場は大歓声と悲鳴の渦に。万事休すと思われた前田だが、ここから驚異的な粘りを発揮する。窮地にも関わらず、真っ向からの打ち合いに挑み、逆に右フックで梶原をぐらつかせ、パンチの猛ラッシュ。ロープに詰めて梶原を棒立ちにさせたところでラウンドは終了したが、大歓声とストンピングでゴングの音が聞こえない程だった。

 2R終盤の勢いのまま、前田は3R以降も攻勢。右ローとパンチの連打で何度も梶原をぐらつかせ、消耗しきった梶原はグロッキー状態に。だが梶原も不屈の闘志を発揮。3Rと4Rの後半には、右フックで前田をぐらつかせる。既に2ダウンを喫している前田も消耗は激しく、リング上は地獄絵図の様相。2Rから鳴り響く大歓声と悲鳴の音量は、4Rが終わっても全くおさまらない。

 4Rまでの得点は五分か前田が1ポイントリードかといった状態。5Rも両者一歩も引かない死闘が続く。しかし底力では、国内屈指の練習量で知られる藤原ジムの前田のほうが上だった。5R目にも関わらず、左右のハイキックをヒット。そして左ミドルを梶原のレバーにめり込ませると、ついに梶原の動きが止まった。パンチの連打でスタンディングダウンを奪うと、最後も左ミドルを連打。戦意を失った梶原を見たレフェリーが死闘に終止符を打った。

 試合が終わっても熱狂はおさまらず、涙を流す観客も少なく無かった。前田の師匠・藤原敏男会長も、松葉杖姿で前田と抱き合い、涙を流した。敗れた梶原はしばらく立ち上がることができず、担架が用意されたが、それを拒否しセコンドに肩をかつがれ退場。全ての観客が梶原にも暖かい拍手を送った。大会前、梶原は「前田選手の所属する藤原ジムは老舗ジムでレジェンド。僕らチームドラゴンはニューウェイブ、ニュージェネレーションとして戦いを挑む」と話していたが、老舗と新世代の融合が、キック界に新しい光をもたらした。

 前田は野良犬ファイナルマッチ以降3連続TKO勝利で、それ以前の2試合を含め5連勝。連勝のスタートした昨年4月のラスカル・タカとの激闘あたりから見せていた萌芽が、野良犬のエキスを得て、一気に開花した印象だ。梶原戦後はファイティングポーズもマイクも無く、足早にリングを後にした。ダメージの影響もあっただろうが、花のように何も飾らず、試合だけで全てを見せる「闘う修行僧」の純粋な美学に、心を打たれた。
 

第9試合 Kick Returnトーナメント Bブロック一回戦 60kg契約 3分5R(延長1R)
○大月晴明(AJKF/WPKC世界ムエタイ・ライト級王者)
×カノンスック・ウィラサクレック(タイ/ウィラサクレック・フェアテックスジム/M-1フェザー級王者)
5R 2'21" TKO (レフェリーストップ:左フック)

※5R左フックでカノンスックに1ダウン

 キックでの実績・人気では、出場選手ナンバー1の大月だが、デビュー当時以来となるライト級未満への減量、今迄勝利したことのないタイ人との対戦、そして大会直前の急な対戦相手の変更と、不安材料が積み重なり、それらが噴出する試合内容となった。
 1R、大半の時間は両者が足を止めて、距離を取ったままフェイントを掛け合う展開。その中で互いにローを当て、大月は右ボディ、カノンスックも右フックをヒットさせる。
 2R、大月が左右のフックでチャンスをつかむが、カノンスックは簡単にはひるまない。中盤から大月は構えを何度もスイッチし、相手のかく乱を狙うが、ルンピーニーの元ランカーのタイ人には通用しない。
 3R、大月の右フックが当たりだし、カノンスックがロープ外に吹き飛びそうになる場面も。だが打たれ強いカノンスックは耐え、ローとパンチを返すと、攻め疲れもある大月は失速。カノンスックは肘やハイキックも当て、序盤の劣勢を帳消しにする。
 スタミナが切れた大月のセコンドからは3Rの後「4Rは休んで致命打をもらわないように」と指示が飛ぶ。4Rはカノンスックがロー、肘、ボディ、ジャブ等の手数で優勢。大月はほとんど攻撃を出さず、最終ラウンドの反撃に賭けた。互いに消耗し、途中までお見合い状態が続いたが、相手の一瞬の隙を突き、左フックをクリーンヒット。パンチラッシュの後の左フックでダウンを奪い、最後も左フックで苦闘を終わらせた。

◆大月「俺の方がほんの少し運が良かっただけです。カノンスックが勝ってました。今、試合直後で気持ちが混乱してるんであれですけど、準決勝は辞退したいぐらいの気持ちです。
 ラッシュの時に強いのばかりを打ってしまって、体力を消耗しました。ボディもいい感じでもらって。スタミナが切れたのがバレましたね。精神的な弱さを感じました。相手も我慢強かったです。
(60kgまで落とした影響は?)それもあるかもしれません。減量中でも自分のパンチ力が落ちていっているのがわかりました。パンチ力が落ちたせいで、強いのを打ち過ぎたのかもしれませんね。62kg位で戦っている時のほうが、パンチの切れが長く続きます」
 

第7試合 Kick Returnトーナメント Aブロック一回戦 60kg契約 3分5R(延長1R)
○石川直生(青春塾/全日本スーパーフェザー級王者)
×村浜武洋(大阪ファイティングファクトリー/'97 K-1 JAPAN フェザー級王者)
判定3-0 (朝武50-48/野口50-48/梅木50-49)


 村浜がこのトーナメントに参加し、尚且つ対戦が決定して一番喜んだのが石川だ。「小林さん推薦の村浜選手とやれることに、全日本の代表としての宿命を感じる」「村浜選手は全日本キックが倒さないといけない相手」とやる気満々。本人のブログでも、「自分はまだLEGENDな選手と戦っていない。一回戦が村浜選手というのが、自分の中で一番ドラマチック」とも話している。
 村浜もK-1時代の70kg契約とは違い、シュートボクシング時代以来となる適正体重60kgでの試合。この階級で前を走っている石川に対し、どんな戦いをするのか大いに注目が集まる。

 試合は13cmの身長差を活かした石川が前蹴りで自分の距離を作り、近くなるとヒザでプレッシャー。だが、村浜は決定打をもらわず、ローで崩してパンチの強打を狙う。静かながらも緊張感ある戦いだ。
 しかし2Rに村浜のバッティングで石川の額が割れてしまう。ドクターチェックで「止める可能性がある」と言われた石川。その一言で気持ちが後退し、消極的になってしまったと話す。それからは手数が少なくなる石川、懐に入れず打開策を見出せない村浜の迷走が続く。
 噛み合わない。苛立ちからか、石川が村浜の後頭部に肘を落とし、ブーイングを浴びる場面も。石川は距離を潰してきた相手に、ひたすらヒザをボディと顔面に狙い続ける。村浜も3R以降から、左のフック、アッパーを単発ながらも当てていきポイントは五分か。
 試合は最後まで両者噛み合わぬまま終了。ヒザ、前蹴りの数で若干リードしていた石川が、僅差の判定で二回戦に進出した。

◆石川「(試合の感想は?)あまりないです。見ての通り。10月に2つ勝つ事を約束します。…ちょっとだけ話すと(苦笑)、1・2Rは自分のペースが取れました。でも、カットがあって『止める可能性がある』と言われて消極的になってしまった。情けないです。心を鍛えなおしてきます。あとは全日本の選手が全員残ったのが嬉しいです。(村浜の印象は?)パンチがあんなに軽いとは思いませんでした。あと、組んだ時に頭押し付けられのが嫌でしたね。打たれ強いとも思いました。単調な攻撃では、相手倒れないんですね。倒そうとしないでいると倒せる。それでああいう結果になったんだと思います。(次は山本真弘だが?)今日の内容を見ると、決勝は藤原ジム同士になってしまいますね。それは阻止しないと。」

第6試合 Kick Returnトーナメント Aブロック一回戦 60kg契約 3分5R(延長1R)
○山本真弘(藤原ジム/全日本フェザー級王者)
×大宮司進(シルバーウルフ/M-1スーパーフェザー級王者)
2R 2'33" KO (3ダウン:左ストレート)


 小林聡GMがプロデュースしたKick Returnトーナメント。そこで圧倒的な輝きを放ったのは弟弟子の前田だが、同じく弟弟子の真弘の勝ちっぷりも光った。
 1R、サウスポーの真弘がインロー、オーソドックスの大宮司が右ミドル主体で攻める展開。両者ともハイキックと肘打ちも繰り出し、一級品のスピードとテクニックの応酬で超満員の観衆を魅了する。
 2R、互いの攻撃のピッチも上がる中、大宮司の右ミドルのヒットが目立つように。真弘は左腕を少し回し、効いていることをごまかそうとしているようにも見える。すると右フックで真弘が飛び込んだ際にバッティング。大宮司は左目尻を切りドクターチェックが入る。幸い傷は浅く、再開後も大宮司が右ミドルを当て、流れは変わらないかのように見えた。
 ところが真弘は「右ミドルは警戒していた。いつももっと重いのをもらっているので大丈夫だった。大宮司選手のほうが足が痛そうだった」といい、劣勢に見える場面でもクールに状況を見ていた様子。相手のガードが甘くなった隙を逃さず、左フックをクリーンヒットさせダウンを奪取する。立ち上がるもフラフラの大宮司をパンチの連打、左ストレートで立て続けにダウンさせ、見事KO勝ちを果たした。
 マイクを持った真弘は「賞金のかかった僕は1.5倍強いです」と自信たっぷりのコメント。Kick Return同じく賞金トーナメントだった2年前のIKUSA GPを制した頃を思わせる強さが戻ってきた。

◆真弘「久しぶりのKO勝ちなんでうれしいです。今日は力まずに打てました。(KOは狙っていた?)流れの中ですね。判定でも何でもいいから、一回戦は勝ちたかったです。(マイクアピールは?)先生(藤原敏男氏)に『スピーチを勉強しろ』と言われて考えました(笑)(下馬評では苦戦が予想されていたが?)少しずつ調子が上がって来ています。今は70%ぐらいですね。(『全部判定で勝つ』と試合前話していたが?)今でもそのつもりです。決勝トーナメントも延長戦を入れて10R戦うつもりです。」

10月25日代々木大会の準決勝戦の組合せは山本 vs. 石川、前田 vs. 大月に決定


第5試合 メインイベント 全日本バンタム級タイトルマッチ 3分5R
○藤原あらし(S.V.G./王者)
×寺戸伸近(BOOCH BEAT/1位)
4R 2'06" TKO (タオル投入:右肘打ちでダウン後)

※藤原が初防衛

 1Rは、あらしが単発の左ミドル、寺戸がローをコツコツ出す程度で静かな展開。だが、2R以降からあらしの左ミドルがスピードアップ。先手で勢いよく蹴りこみ、挑戦者を完全に振り回す。寺戸はそのミドルにパンチを合わせるも、徐々に王者に触れる事が困難になってくる。
 そして、4R。あらしが寺戸のボディにヒザを連打する。体がくの字になった寺戸に左フックを当てついにダウンを奪取。その後、時間を置かずに左右のヒジで再びダウンを奪い、ワンサイドゲームで試合を終わらせた。

 勝利後、愛娘のそらちゃんがリングイン。あらしが抱っこをしながら「ブログに載ってるんでよろしくお願いします!」と、最後は親バカぶりをアピールした。

◆あらし「(自分の)固さはいつも通りでしたね。序盤は見ていました。その後はミドルでペース掴めたかなと思います。でも、思うようにできなかったので会長にダメだしされました。目標はもっと高くですね。(試合前は『キックの基本を見せる』と言っていたが?)もらわないという意味だったんですけどね(笑)。たくさん練習してきたので、自信はありました。寺戸選手はすごい気持ちが強い。普通ならミドルで倒れていると思います。さすがマッハ55、真王杯に選ばれるだけの事はあります。バンダム級はそろそろやり尽くしましたね。全日本では、自分が一番だと思っています」

第4試合 セミファイナル 全日本フェザー級ランキング戦 サドンデスマッチ(3分3R+延長1R)
×岩切博史(月心会/4位)
○上松大輔(チームドラゴン/5位)
3R 判定0-3 (朝武29-30/梅木29-30/和田29-30)


 序盤から岩切にプレッシャーをかけられる上松。だが、相手の打ち終わりに左ボディ、フックを合わせ、ダメージを蓄積させる。最終ラウンド後半には、両者足を止めての打ち合いで、会場を大いに沸かせる。ラウンドを通じてヒット数の多い上松がランキング戦を制した。

第3試合 フェザー級 3分3R
△梅原ユウジ(REX JAPAN)
△永野裕典(和術慧舟會DUROジム)
判定0-1 (29-29/29-30/29-29)

第2試合 バンタム級 3分3R
○菊地 慧(藤原ジム)
×那須儀治(WSK/興気塾/全日本新空手K-2軽量級'04王者)
判定3-0 (28-26/28-26/28-26)
※1R右アッパーで那須1ダウン、2R右フックで那須1ダウン、3Rパンチ連打で菊地1ダウン

第1試合 54kg契約 3分3R
△尾田兼次(S.V.G.)
△菅原雅顕(和術慧舟會DUROジム/修斗バンタム級(56kg)世界7位)
判定1-0 (30-29/29-29/29-29)

◆オープニングファイト

第3試合 ミドル級 3分3R
×夏鬼(SOUL GARAGE)
○YO次郎(P's LAB東京)
1R 2'59" KO

第2試合 バンタム級 3分3R
×塚原 健(青春塾)
○輝龍(チームドラゴン)
不戦勝

第1試合 ミドル級 3分3R
△三澤勲大(韓道場)
△ハイン・ディオ(チャモアペット)
判定0-0 (28-28/28-28/28-28)

Last Update : 08/27 20:21

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