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(レポ&写真) [全日本キック] 3.9 後楽園:小林引退。大月、対日本人初黒星

全日本キックボクシング連盟 "Departure 〜野良犬FINAL〜"
2007年3月9日(金) 東京・後楽園ホール

  レポート:井原芳徳(野良犬ファイナルマッチ、岩切×中村)、本庄功志(その他の試合)
  写真:井原芳徳  【→カード紹介記事】 【→掲示板スレッド】


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野良犬ファイナルマッチ 3分1R
−小林 聡(藤原ジム)
−前田尚紀(藤原ジム)
勝敗無し


 昨年11月のムエタイ4冠王ジャルンチャイ戦で引退を宣言した小林が、苦楽を共にして来た藤原ジムの弟弟子・前田と“ファイナルマッチ”を行う。その前に場内では、今回の戦いに至る経緯と小林・前田・関係者の言葉を紹介するVTRが場内に流された。全日本キックでは異例の演出だ。
 青コーナーの前田は、他の道場生らと、いわゆるグレイシートレイン状態で入場。全道場生の思いが前田に託される。青いガウンをまとった小林は、映画「キッズ・リターン」のテーマをBGMに、たった一人で客席後方から登場。セコンドには10年間付き添った須田達史トレーナー、AJジムの中島貴志チーフトレーナーがつく。師匠の藤原敏男・藤原ジム会長は青コーナー側の客席最前列。ゴング直前、前田に一声かける。「潰せ」と。

 ゴングが鳴る。4つの真っ白いグローブが素早く交錯する。蹴りを放つ4本の足に防具は無い。力のこもった一発一発が、互いの体に打ち込まれる。これはエキシビジョンでも、藤原ジムでの公開練習でも無い。小林と前田の正真正銘の戦いだ。
 1分経過すると、均衡した攻防にしびれを切らしたかのように、藤原会長が再び前田に声をかける。「攻めろ」と。すると意を決した前田は、パンチの回転数を上げ一気に小林をコーナーに追い詰める。小林もパンチを返し、殺るか殺られるかの展開へ突入。ひるんだのは小林のほうだ。小林ノックアウトか?という急展開に、会場はどよめく。
 しかし小林はコーナーから逃げ猛攻を耐え抜くと、前田の左ミドルをしっかりとブロック。目はまだまだ元気だ。小林もパンチと肘と蹴りを返す。とはいえ覚悟を決めた前田は攻め手を緩めない。容赦なく先輩を潰しにかかる。

 残り1分になると、攻防はさらにヒートアップ。前のめりの二人の頭がぶつかる場面も。攻勢なのは前田だが、小林も引かず攻める。二人とも体力が落ちて来ると、普段の練習同様、雄叫びをあげながら殴り蹴り合うように。最後、ロープ際に詰められた小林だが、右フックを一撃。これは効いたようだ。終了のゴングと同時に腰が落ちた前田の頭を、小林はポンと叩く。体力も気力もからっぽになった前田に、小林の魂が注ぎ込まれた。

 あっという間だが、小林と前田、そして超満員の観衆・関係者の全ての思いの込められた3分間だった。ゴングの後、観衆の拍手が鳴り止まない。リング中央に立ち、呆然と上を見上げる小林。バーンアウト、完了。

 小林と抱き合った前田は、プレッシャーから解放された安心感で涙を流す。グローブをぶつけ合った後、小林は須田トレーナーと抱擁。二人の両目から涙が見える。

 続いて場内が暗くなると、小林の15年69戦のキャリアを振り返るVTRが流される。藤原会長と出会うまでの放浪期のBGMはローリングストーンズの「愚か者の涙」、強豪相手の激闘期はジェームス・ブラウンの「アイ・フィール・グッド」、晩年はボブ・ディランの「風に吹かれて」。ナレーションは立木文彦氏。小林の人生のブルースを際立たせる。VTR最後に小林が今後について語った言葉は「いいバイトないですかね?」。いつまでも、小林は野良犬のままだ。

 再び場内が明るくなると花束贈呈の時間に。全日本キックの金田敏男代表、フジテレビ「SRS」の浅草キッドさんと西山茉希さん、かつてのライバルの金沢久幸、旧知の仲の田村潔司、後輩の山本真弘、選手代表の増田博正、最後に師匠の藤原敏男氏が登場。藤原氏は軽くビンタをした後、二人は涙を流し抱擁する。続いて小林が大阪で練習を共にした吉鷹弘氏、オランダでの師匠であるアンドレ・マナート氏のメッセージが代読される。

 マイクを持った小林はファン・関係者に最後のメッセージを贈った。

「野良犬ファイナルマッチに来ていただいて、大変感謝しています。ありがとうございました。そして最後戦ってくれた前田、ありがとう。前田たち藤原ジムの弟達の活躍が、俺が追い求めて来た打倒ムエタイのロマンを引き継いでくれると思いますので、次回からのみんなのファイトに期待して下さい。
 そして、どんなことがあってもいつも横にいてくれた須田達史トレーナー。それと、師匠であり親父でもある藤原敏男先生に会わしてもらったことを、キックボクシングの神様に感謝します。そして全日本キックで15年間戦ってこれたことに誇りを持ち、人生の宝物にしていきます。
 沢村忠さんも言ったことなんですけど、キックボクシングは永遠に不滅です。それをこれから全日本キックの選手達が証明してくれると思います。自分はこれから新たな旅に出て、新しい戦いに挑んで行きますが、15年間、どんなことがあっても応援してきてくれたキックファンの皆様、本当にありがとうございました。これからもキックボクシングをよろしくお願いします」

 10カウントゴングの後、宮田充リングアナが最期の野良犬コールを叫び、セレモニー終了。リングの上から舞い散るのは大量の桜吹雪。血と汗で染まった後楽園のリングに、小林聡とキックボクシングの一足早い春がやってきた。

◆バックステージでの小林のコメント
「ありがとうございます。倒せなかった。(今日はどういう気持ちでリングに上がったんですか?)いやー、最後はカッコいいところ見せて終わらないとな、って。でも前田はよかったです。強くなって。あいつと本気で殴り合いたかった。公式のリングで。(伝えたかったことは伝えた?)僕のほうが伝わりました(笑)
(キック人生を振り返ってどうですか?)欲を言ったらきりがないけど、どうですかって言うより、今は試合をしたくないというだけで。振り返っている暇は無かったですけど、とにかくこういう気持ちになるまでやったという事だけですね。生まれ変わってもキックボクサーだと思って、20年ぐらい走って来たんで。こういう日が来るとは思ってなかったからですね。肉体は元気だし。最後タイのトップをもう一人倒せればお腹いっぱいになると思ってたんですけど、まあ、もうお腹いっぱいですね。しばらく勝ち負けの試合はしたくないですね。

(正直、今日に至るまで引退すると思っていなかったと)全然。10カウントを聞くとも思ってなかったし。10カウントは、チェさん(崔永益)に左ミドルでやられた時に終わりだなって(※95年に2度対戦し1戦目はドロー、2戦目は小林が1R KO負け)。まさか立ったまま10カウント聞くとは。
(藤原会長と抱き合った時、こみ上げるものはありました?)(しばらく黙って)ありましたね。…また泣かすぅ(笑)。まあ、愛しさも憎しみも100倍の先生だったんで、100%付き合って来たんで。
(今はホッとした気分ですか?)うーん、どうなんでしょうねぇ。みんなに伝わったのかなぁ?って。僕的には納得させる引退したとは思ってないし。まあ欲は言ってもきりがないですけど、こんな引退も考えてなかったし。ただまあ、もう戦いはしたくないなってことで、ケジメだけはつけようってことで。最後に感動させて終わるのが俺だろうって。最後は前田を倒して終わろうって。奴から魂もらっちゃいましたけど。あいつのこと応援してやって下さい。
(一番最後は須田さんと抱き合って…)まあ、いろいろあったんで(笑)。藤原先生みたいに憎しみあったり、二人で力を合わせたり。一緒に戦ってきましたよ。
(今は次のことは?)全然。バイトいいの無いっすかね?。『あ、バイトの時間だ(※江頭2:50のギャグ)』って言えるぐらい仕事が欲しいですけど(笑)
(期待されるのはジムで『野良犬2世』を…)いや〜、もう強くなりたい人は藤原ジムに行けばいいんで。しばらくいいです。人を教えるの面倒くさいですもん。って、こんなこと言ったらなぁ(笑)。でもそれは時間経ったらまたわかると思いますんで。
 こういう引退をするとは思ってなかったんで。いいか悪いかはわからないんですけど、ケジメはつけたつもりなんで。ただ僕はこれしかなかったんで、今自分ができることをしました。今迄ありがとうございました。これからもキックボクシングをよろしくお願いします」


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第7試合 Wメイン(2) スペシャルマッチ 61.5kg契約 3分5R
×大月晴明(AJKF/WPKC世界ムエタイ・ライト級王者)
○増田博正(スクランブル渋谷/全日本ライト級王者)
判定0-3 (野口48-49/梅木48-50/豊永48-49)

※2R、左ストレートで大月に1ダウン

 独特の構えをスイッチしながら、相手の動きを凝視する大月。ローで下にエサをまきながら、ノーモーションから飛び込んで右を強振し、観客を驚かす。だが増田は動じることなく、ガードを固め、ひたすらカウンターでパンチを合わせていく。
 すると2R、大月がローを放ったところに増田の左ストレートがドンピシャリ。尻餅をついて倒れた大月を見たレフェリーは、一瞬間を置いてからダウンを宣告。すぐ起き上がった大月は全く効いていない素振りを見せる。

 完全にポイントを取られてしまった大月だが、相手のカウンターを警戒しすぎて手が出ない。増田も決して自分から攻めようとはせず、緊張感ある見合いが続く。4Rにはレフェリーが両者に積極的に攻めるよう注意する場面も
 最終ラウンド後半、後が無くなった大月が挑発し動きを促すも、増田は「昔の自分だったらカチンときて、行っていましたね」といい、一切乗らずに我慢。大月がローをひたすら蹴り続け、単発でパンチを放り込むも、決定打を与えられず大砲不発のまま試合終了。

 結局、ダウン分のポイントを守った増田がフルマークで判定勝ち。5年前のKO負けの雪辱を晴らした。増田の術中にハマった大月は、舌を出して「ダメだ」と首を傾け、リングを後にする。対日本人初黒星を喫するとともに、小林の引退興行で良いところを見せられなかった。

◆増田「(ダウンは)狙っていました。ヒジを狙っていましたが、届かないので、ジャブ、ストレートに変えました。自分もパンチを当てれば効かすことができるんだなと(笑)(相手の印象は?)パンチはやっぱり強かったですね。でもクリーンヒットはもらっていません。手とかに当たっていました。対策はしっかりしてきたんで。(見合う場面が多かったが?)相手が誘っているのわかったので、見合ってしまいました。(前回のKOの呪縛は解けた?)5年間諦めないでよかったです。これで負けたら何だ?って感じ。(大月越えを)成し遂げたことで、頭が真っ白です。正直、大月と2度と戦えないかなと思ってましたので、ほんとに良かったです。(大月に勝って、事実上ライト級のトップになったが?)そんな感じはしないですね」

第6試合 Wメイン(1) スペシャルマッチ 56kg契約 3分5R
△山本真弘(藤原ジム/全日本フェザー級王者)
△藤原あらし(S.V.G./全日本バンタム級王者)
判定1-0 (朝武48-48/野口49-48/勝本48-48)

※3R、左フックで藤原に1ダウン

 試合は序盤から両者慎重。スピーディーで緊張感はあるものの、単発の攻撃が続く。静かな展開のまま迎えた3R、試合は一気に動く。あらしがローブローを当ててしまい、試合が中断するも、再開後、オーソドックスにスイッチしたあらしの前蹴りに、真弘が左フックを合わせダウンを奪う。しかし、立ち上がったあらしはミドル、ロー、膝と返し真弘の追撃を許さない。逆に、山本の足がもつれて倒れる場面が目立ちはじめる。
 4Rから、「減量の影響でスタミナが切れた」と真弘が話す通り、一気に失速。組み付きが多くなり、あらしの攻撃に嫌な顔を見せる。
 5Rに入って、クリンチが多い山本にイエローカード1。そこからは、カードをもらってもなお、組み付いてくる山本にあらしがヒザを叩き込む展開がほとんど。ダウンを奪った真弘だが、4・5Rにポイントを返され、試合はドローに終わった。

◆真弘「結果はしょうがないです。3Rのダウンで立ってこないと思いました。腹に効かされてしまって、自分のガス欠です。(スタミナ切れの影響は?)減量がしんどかった。56kgではもうやらないです。57kgならあらし選手とやります。相手の凄さは感じなかったですし、スピードもそんなに速くなかったですけど、倒せなかったのが情けないです。(先輩の小林が引退したが?)自分達、下の人間がもっとがんばっていかないと。小林さんにはお疲れ様ですと言いました」

第5試合 Wセミ(2) 全日本ウェルター級王座決定トーナメント準決勝 サドンデスマッチ(3分3R+延長1R)
○山本優弥(青春塾/1位)
×金 統光(藤原ジム/2位) 
判定3-0 (30-27/30-27/30-27)

※2R、左フックで金に1ダウン

 至近距離では細かいパンチ、遠い距離ではミドルを当てる優弥。打ち合いの中でも相手のパンチをスウェーでかわし、もらわない巧さを見せる。2Rにハイキックの後の左フックの流れでダウンを奪った優弥は、最終ラウンドにもパンチのラッシュで金を追い込み完勝。最後は舌を出して頭を振って挑発する余裕も。スランプの続いた優弥の復調を印象づけると同時に、金のタフネスも光った試合だった。

第4試合 Wセミ(1) 全日本ウェルター級王座決定トーナメント準決勝 サドンデスマッチ
○湟川満正(AJジム/3位)
×三上洋一郎(S.V.G./8位)
2R 1'21" KO (右ハイキック)


 ロー、ミドルと蹴りで主導権を握る湟川。右ローをじわじわと効かせていき、2Rにダウンを先取する。しかし、お返しとばかりに三上は右ヒジで湟川の目尻を切りドクターチェックを誘う。逆転勝利か?とも思われたが、チェック後の湟川が右ハイ一発で三上を葬った。

第3試合 フェザー級 サドンデスマッチ
×岩切博史(月心会/5位)
○中村元気(クロスポイント・ムサシノクニ)
4R 判定1-2 (豊永9-10/梅木10-9/和田9-10)

3R 判定0-1 (豊永30-30/梅木30-30/和田29-30)

 弱冠19歳の中村のシャープな左ミドルと前蹴りに場内は溜め息。岩切のパンチをカウンターでもらう場面もあったが、2Rには左肘で岩切の右目尻を切り裂いてみせる。延長戦の末、中村が勝ったものの、パンチの攻勢で評価が割れ、完全決着とはならず。再戦は数年後の後楽園のメインイベントか?

第2試合 ライト級 サドンデスマッチ
○遠藤智史(AJジム/前フェザー級7位)
×畑尾龍宏(REX JAPAN/9位)
4R 判定3-0 (豊永10-7/梅木10-7/野口10-7)
3R 判定0-0 (豊永28-28/梅木28-28/野口28-28)

第1試合 ライト級 ランカー昇格決定戦 3分3R(延長あり)
×寺崎直樹(青春塾)
○野間一暢(JMC横浜GYM)
4R 判定1-2 (10-9/9-10/9-10)
3R 判定0-1 (29-29/28-29/29-29)

◆オープニングファイト

第2試合 スーパーバンタム級 3分3R
○菊地 慧(藤原ジム)
×神後雅文(月心館)
3R 2'41" KO 

第1試合 フェザー級 3分3R
○不動明王[ふどう・あきら](峯心会)
×KOTARO(SOUL GARAGE)
1R 2'53" KO


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Last Update : 03/11 16:56

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