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(レポ&写真) [全日本キック] 2.6 後楽園:佐藤×優弥、せつない名勝負

全日本キックボクシング連盟 "MOVING"
2005年2月6日(日) 東京・後楽園ホール

  レポート:井原芳徳(佐藤×優弥)、永田遼太郎(郷野×西田)、浅野翔太郎(その他)
  写真:井原芳徳  【→カード紹介記事】 【→掲示板スレッド】

  ※「サドンデスマッチ」は3分3R・最大延長2R、5R目はマスト判定の完全決着ルール

第8試合 メインイベント 70kg契約 3分5R
○佐藤嘉洋(名古屋JKファクトリー/WKA世界ウェルター級&WPKC世界Sウェルター級王者)
×山本優弥(BOOCH BEAT/全日本ウェルター級1位)
判定3-0 (50-39/50-39/50-39)

※優弥が膝蹴りで1R2回、2R2回、3R1回、4R1回ダウン

 優弥のパンチをかわした佐藤は、1R後半、突き刺さるような左のテンカオ(近距離からの膝蹴り)を優弥のボディにクリーンヒット。優弥も「これで体がしびれて試合中の記憶が無くなった」と振り返るほどの強烈な一撃で、さらに佐藤は首相撲で巧みに優弥をコントロールすると、膝蹴りで2連続ダウンを奪う。優弥が何発も膝をもらう光景に場内から悲鳴が上がるが、大成レフェリーは止めず、1R終了のゴングが鳴る。
 2Rも佐藤が膝と肘でラッシュ。優弥は2Rにも2回、3Rにも1回ダウンを喫する。誰もが死ぬんじゃないかと思うほど、ボディに何発も膝をもらう優弥だったが、それでもダウンのたびに立ち上がり、佐藤に立ち向かって行き、決して勝負をあきらめようとしない。その光景が次第に観客の心を打つようになり、会場は異様な熱気に包まれる。

 そして単にガムシャラなだけではない。佐藤が組み付こうとするのを狙って右アッパーを当てたり、回し蹴りやバックハンドで佐藤をヒヤリとさせる等、一発逆転が期待できるような攻めを繰り広げるあたり、日頃の練習と才能の賜物だろう。攻め過ぎた影響もあるだろうが、佐藤は優弥のパンチをもらううちに、次第に体力を消耗していく。優弥は4Rにも1ダウンを喫したが、次第にダウンの数が減り、5Rは一度もダウンせず。序盤のダメージが信じられないほどの追い上げを見せる。会場のムードも次第に佐藤の強さへの驚きから、優弥のタフネスへの驚きに変わってくる。
 しかし優弥は最後まで一度もダウンを奪い返すことはできなかった。ポイントは3者ともなんと50-39。ここまで点差の開く試合は滅多にないだろう(02年2月の新日本キックの井場洋貴×中川タカシで50-39があった)。改めて佐藤の強さを思い知る結果となったが、逆に倒しきれなかったことも確か。佐藤はこの試合の翌日、全日本キックと所属ジムに脱退届を提出した。脱退へ揺れる気持ちが、試合自体に込める気持ちに多少影響があったのかもしれない。

 この日、強さを見せつけ、名勝負を作り上げたことで、佐藤に対する周囲の評価はさらに上がることだろう。しかし本人にとっては相手を倒しきれない不名誉な試合だったというのは、何とも皮肉である。
 そして名勝負のもう片方の主役・優弥の立場からしても、1試合中6度もダウンを奪われるというのは、不名誉以外の何物でもない。試合後、優弥は「情けない試合をしてしまった。みんなは『よく立った』って言ってくれたけど、どっちがたくさん立つかという競技じゃないんで。倒してナンボですから。やられに来たんじゃない」と無念の気持ちを口にした。
 リングの中の二人が、相手を倒しきれない苛立ちと、何度も倒される無念さを心に抱えながらぶつかり合う。そしてそんな二人の思い通りに行かなければ行かないほど、リングの外の超満員の観衆の熱狂が増幅されていく…。選手にとってこんなに過酷でせつない名勝負は無いかもしれない。(井原芳徳)
 

第7試合 全日本ヘビー級タイトルマッチ 3分5R
×西田和嗣(S.V.G./王者)
○郷野聡寛(パンクラスGRABAKA/2位)
4R 1'33" KO (右ストレート)

※郷野が新王者に

 試合後、郷野聡寛は奪取したばかりのベルトについて「取ったと言っても価値の高いベルトじゃない」と切り出しコメントを始めた。
 その後、付け加えるように「それでもやっぱり嬉しかった」と自身の気持ちを語ったが、全日本キックのヘビー級戦線はいつからキャリア2戦目の総合格闘家にここまで酷評されるくらい価値のないものになってしまったのだろうか。
 かつてはドン・中矢・ニールセン、ロブ・カーマン、ケビン・ローズイヤー、佐竹雅昭と言った国内外の強豪が凌ぎを削った戦いの場も、K-1誕生にともない、いつしか衰退していった。
 郷野のコメントは決して言い過ぎでもなんでもなく、現在の各キック団体のヘビー級王座の現状を如実に表していた。
 試合前の計量で王者であるはずの西田和嗣が「挑戦者のつもりで死ぬ気で試合に臨む」と言った時点である意味勝負は見えていたのかもしれない。せめてキック王者として虚勢でもいいから「返り討ちにする」くらい言ってもらいたかった。

 試合は前半こそジャブとローを効かせ西田も応戦したが、2ラウンド以降は郷野の左フックが再三に渡って西田のわき腹を捕らえペースを完全に握られた。キック王者であるはずの西田が逆にガードを固め悶絶するシーンが目立ち、郷野は次の一手を考える余裕すら感じるほど確実な攻撃を西田にヒットさせていった。最後はさらなるボディ打ちで西田の動きを止めた後、右ストレートでとどめを刺した。
 試合後の郷野はキックのベルトを手みやげに、一度苦杯を喫しているパンクラス・ライトヘビー級王者・近藤有己へ挑戦したいと表明。さらに「全日本ファンの方、短い間でしたがありがとうございました」と、郷野らしいロジックで毒を撒き散らした。
 そんな中、負けた西田に「ここから這い上がれ」「必ずやり返せ」といった声援も飛んでいた。バックステージでは郷野が「剥奪されるまで(王座戦)はやる気ありません」とか「キック自体そんなにやるつもりはなかった」とタイトル軽視のコメントが続いたが、その言葉を撤回させるには西田自身の今後の頑張りに他ならない。メインでは破れはしたが山本優弥が倒れても倒れても何度も立ち上がる意地を見せしっかりファンの心を掴んで見せた。
 全日本のヘビー級を再び輝かせるのは西田の今後に掛かっている。ここで奮起せよ。(永田遼太郎)
 

第6試合 67kg契約 3分5R
△山内裕太郎(AJジム/全日本ウェルター級王者)
△我龍真吾(ファイティング・マスター/新日本キック元日本ライト級王者)
判定0-0 (50-50/48-48/50-50)


 泰然自若の全日本ウェルター級王者に、特攻服に身を包んだ喧嘩師が戦いを挑んだ。レフェリーの最終チェックで、いつものように顔を近づけ相手ににらみを利かすと、山内も負けじとにらみ返す。
 山内は試合開始直後から執拗に右ローを繰り出す。1Rでは2度ほど我龍のバランスを崩したが、その後は「ローとボディーは踏ん張れる自信がある」という我龍の言葉どおり、山内の右ローは決定打たりえることはなかった。対する我龍も鋭い踏み込みから幾度かラッシュを見せるも、山内のヒザを巧みに使ったガードに決定的な一打を与えることができず、引き分けに終わった。

第5試合 ウェルター級 サドンデスマッチ
○湟川満正(AJジム/3位)
×小松隆也(建武館/9位)
判定3-0 (30-28/30-28/30-29)
※3R左フックで小松1ダウン


 互いに相手の出方をうかがう前半は、小松の右フックがたびたび湟川の顔面をとらえる。しかし湟川も左キックを中心に徐々にヒットの回数を増やす。徐々に動きの質が悪くなっていく小松に対し、3R残り1分でカウンター攻撃からダウンを奪い、そのまま判定で試合を制した。

第4試合 J-NET MACH 55出場者決定戦 スーパーバンタム級 サドンデスマッチ
×浦林 幹(AJジム/フェザー級7位)
○寺戸伸近(BOOCH BEAT/バンタム級3位)
判定0-3 (28-30/28-30/28-30)
※寺戸がMACH 55出場権獲得。3/2後楽園大会の一回戦でNJKFバンタム級王者・藤原国崇と対戦

第3試合 ライト級 サドンデスマッチ
○島野智広(建武館/4位)
×梶村政綱(藤原ジム/7位)
4R 判定3-0 (10-9/10-9/10-9)
3R 判定1-0 (30-29/30-30/30-30)

第2試合 フェザー級 サドンデスマッチ
○竹村健二(名古屋J.Kファクトリー/4位)
×ラスカル・タカ(月心会/5位)
3R 0'32" TKO (レフェリーストップ:肘による額のカット)

第1試合 ミドル級 3分3R
○箱崎雄三(AJKF)
×佐藤皓彦(JMC横浜GYM)
判定3-0 (29-28/29-28/30-28)

オープニングファイト第3試合 フェザー級 3分3R
△遠藤智史(AJジム)
△橋本城典(DEION GYM)
判定1-0 (30-29/29-29/29-29)

オープニングファイト第2試合 ミドル級 3分3R
○中園貴宏(S.V.G.)
×大和東洋(REX JAPAN)
判定3-0 (29-28/30-28/29-28)

オープニングファイト第1試合 63kg契約 3分3R
×菅原勇介(山木ジム)
○宿波 明(はまっこムエタイジム)
判定0-3 (27-30/27-29/27-29)

Last Update : 02/16 01:15

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