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(レポ&写真) [UFC 48] 6.19 ラスベガス:ミア、ヘビー級新王者に

Zuffa "Ultimate Fighting Championship 48 - Payback -"
2004年6月19日(土) 米国ネバダ州ラスベガス:マンダレイ・ベイ

  レポート:シュウ・ヒラタ (BoutReview USA)
  Photos : Peter Lockley (MAXfighing.com)

  【→大会前のカード紹介記事】 【→掲示板スレッド】

メインイベント 第8試合 ヘビー級 5分3R
○ケン・シャムロック(アメリカ/ライオンズ・デン)
×キモ(アメリカ/フリー)
1R 1'26" KO (膝蹴り)


 8年前に行われたこの二人の初対決は「スター選手と怪奇選手の決闘」とアメリカの視聴者は捉えていたので、大会タイトルは「ダビデとゴリアテ」と銘打たれていたが、今大会のタイトルは「Payback」、つまりUFC 5での借りを、キモがきっちりと清算できるか?というのがテーマのようだが、果たしてそれだけなのだろうか?
 最近、アメリカの格闘技マスコミやUFCの解説者などから「オクタゴンの中で初めてホイス・グレイシーを傷つけた男」という、ちょっとこじつけっぽいコピーで紹介されているキモ。そして40歳になったのに、何故か今でも「世界で最もデインジャレスな男」の称号を保持したままのシャムロック。この二人による今回の対決は、最近オクタゴンに復活したベテラン選手の二人の「ヘビー級タイトルへの道」争奪戦ではなく、ただのリベンジマッチなのだろうか?
 両選手とも「UFCヘビー級戦線でもまだまだやれる」とコメントしているし、UFC史上、この国のお茶の間で一番名前が浸透したアメリカ人選手といえば、この二人とタンク・アボットであることは間違い無いので、そんな三選手による三つ巴最終戦というコンセプトで考えると、この試合はもしかしたら次期ヘビー級挑戦者決定戦なのでは?と考えさせられるマッチメークでもある。

 左ジャブで牽制しながら突進してきたキモをがっちりと捕まえ、投げを仕掛けるシャムロックだが、それを持ちこたえるキモ。両者差し合いの状態からの膝蹴りの打ち合いになる。ここからシャムロックをフェンスに押し付け、キモが両足タックルへいったのが勝負の命運を分けた。腰を落とし、冷静にタックルを切ったシャムロックは、両手をキモの脇に差すとそのまま押し返し、相手との距離が空いたその隙を突き、右膝蹴りをキモの顔面にクリーンヒット。膝からガクンと落ちたキモに、追撃のパンチを見舞おうとしたところでレフェリーが試合をストップ。シャムロックのKO勝ちとなった。キモのリベンジならず。どう見ても消化不良の試合内容なのに、分かりやすいKO決着が大好きな観客は大喜びだ。

 第一回UFC大会で、パトリック・スミスをヒールホールドで悶絶させ、ホイス・グレイシーとの初対決でも素早くテイクダウンを奪い、足関節狙いにいった所を切り返されたシャムロック。彼こそが、アメリカの視聴者たちが初めて出会った関節技のスペシャリストの筈なのだが、最近のシャムロックはなぜか打撃技オンリー。いや、正確にいうと、ドン・ジョンストンを相手にグラウンドでのパウンドを連発し、拳を負傷してしまい結局トーナメントを棄権する羽目になった96年のあのUltimate Ultimateあたりから、何故かサブミッション・アーティストからパウンダーに変身してしまった。最近ではドン・フライとの闘いで足関節をみせたが、それが以外の試合ではほとんど殴り合いに終始している。
 今回のキモ戦は、何とか打撃で終わらせることができたが、これからUFCのヘビー級のベルトを本気で狙うとなると、ティト・オーティズに圧倒されたシャムロックのスタンディング技術では、それはかなり困難と言わざるを得ない。やはり原点に戻り、彼をこの国で有名人にさせたサブミッション・アーティストの姿に戻る方がいいように思われるが、柔術のスペシャリストでもあり体重でもかなり上回る新チャンピオンのミアに果たして寝技で対抗できるのだろうか? だからといってスタンディングで、アルロフスキー、シルビア、ヒーゾといったヘビー級の猛者たちと互角に渡り合うのは、これもかなり難しいだろう。となると、やはり、シャムロックはライトヘビー級に戻ってオーティズへのリベンジに専念した方がいいのでは、と思うファンも少なくはない。
 この試合でも、キモより10キロほど軽かったシャムロックは、元々ヘビーではなくライトヘビーの選手。と考えると、今大会のメインを飾ったこの試合のテーマは、ただのリベンジマッチでもヘビー級タイトルへの闘いでもなく、ケン・シャムロックの復活劇という事だったのかもしれない。
 

第6試合 ヘビー級タイトルマッチ 5分5R
×ティム・シルビア(アメリカ/ミレティッチ・ファイティング・システム/前王者)
○フランク・ミア(アメリカ/ラスベガス・コンバットクラブ)
1R 0'50" TKO (レフェリーストップ:腕ひしぎ十字固め)

※ミアが新王者に

 生まれも育ちもラスベガスで、98年ネバダ州高校レスリング王者でもあるフランク・ミアにファンの声援が集中するかと思われたが、薬物使用を正直に認め、出場停止処分という罰をしっかりと受けた「良い子」のティム・シルビアの方がファンは多いようだ。
 前ヘビー級王者のリコ・ロドリゲスを倒したパンチによほど自信があるのが、シルビアはワン、ツーのパンチで押していく。ミアはそれにローキックを合わせるが、リーチの長いシルビアのパンチに押されそのままグラウンドに倒される。しかし巨大のシルビアに上になられてもミアは冷静だった。
 フェンス近くまでポジションを持っていかれても、左手でフェンスを掴み巧く体を反転させて腕十字の体勢に入る。この後のメインに登場するキモが、ホイス・グレイシーに破れた時と同じ動きだ。
 シルビアは上体を起こし右手を引き抜こうとするが、ミアはしっかりと離さずそのままシルビアの前腕部をひねったところで、慌ててレフェリーが試合をストップ。明らかに折れた、というレフェリーの判断でミアのTKO勝ちが宣言された。ここでレフェリーのストップが早すぎると感じた観衆の怒りが爆発。「Bullshit!(ふざんけんな!)」の連呼が沸き起こった。観客席にいるNBAのスター、シャキール・オニールが失望したかのように首を横に振る姿がモニターに写し出されたのも火に油を注いだのか、会場はあっという間に一触即発ムードとなった。

 しかし、この後何度もモニターに写し出されたフィニッシュの場面と「多分折れていないと思う」というシルビアのコメントが、そんな会場の険しいオーラを払拭した。(試合後、シルビアは前腕骨骨折と診断された)
 オクタゴンの中で「(シルビアは)ミレテッチ・キャンプの選手だから絶対にタップしないと思った。それなら折るしかない。だから折りにいったんだ」とコメントしたミアは、UFCヘビー級史上初のアメリカ産柔術チャンピオン。
 あの巨体で、あれだけのグランド技術があるのはかなりの脅威であることは間違いない。更に、ミアは今年パパになったばかりでモチベーションも非常に高い。バーネット、ロドリゲス、シルビアと立て続けにチャンピオンがいなくなったUFCヘビーに、新しいスターがやっと誕生したと言えるだろう。
 終わってみれば、他にいま頭角を現してきている選手は、アルロフスキー以外これといったのがいないUFCヘビー戦線なので、まぁ、この二人の試合がタイトル戦というのも妥当といえば妥当だったのかもしれない。
 

第5試合 ウェルター級 5分3R
○マット・ヒューズ(アメリカ/ミレティッチ・ファイティング・システム/前王者)
×ヘナート・ベヒーシモ(アメリカ/BJペンMMA)
判定3-0 (29-28/30-27/30-27)


 昨年、PRIDE GP開幕戦で行われたアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ対リコ・ロドリゲス戦の判定結果に対して、DSEの英語版ホームページに「上のポジションをキープし続けたロドリゲスが何故判定負けなのか?」という抗議メールが殺到。急遽、英語圏内のファンへ向けて、DSEが判定についての公式な見解を発表するという異例の事態が起きたのが、この試合を見ると、英語圏内、特にアメリカの総合ファンの間で「ロドリゲスはノゲイラに勝っていた」という意見が大半を占めているという事実が、肌に伝わるほど納得してしまう。そんな試合だった。

 マット・ヒューズの戦法はいつでも同じだ。
 とにかくタックルに入りテイクダウン。今回も全く同じパターンで試合は始まった。総合はまだ4戦目だが、柔術では200戦以上の経験を誇るヘナート・ベヒーシモは、ここから素晴らしい動きをみせる。ハーフ・ガードからヒューズに一瞬だけバックを取らせたまま、足を取りにいくかのように素早く前方に回転し、三角絞めのポジションに入ったのだ。ヒューズはそのままの状態でベヒーシモを持ち上げて、パワーボム気味にマットに叩き付けるが、反対にその時のインパクトで体が内側に入り、三角絞めがガッチリと決まってしまう。
 頸動脈を絞められ脳みその酸素が欠いてきたヒューズは、そのまま体勢を返されベヒーシモの下になってしまう。これで万事休すと思われたが、ヒューズはゆっくりと体を回転しベヒーシモの後ろへ何とか脱出。そのままべヒーシモのフル・ガードに。この後も、何度かべヒーシモが三角絞めを仕掛け、ヒューズが何とか持ちこたえるという展開が続きラウンド終了。試合開始直後のテイクダウン以外は、全くいい所のなかったヒューズ。打撃風の表現を用いれば、“関節技でボコボコにされた”といっても過言ではないほど一方的な展開だった。

 2ラウンドは、べヒーシモのキックを掴んだヒューズが、そのまま持ち上げてマットに叩き付けるといった展開で幕を開けた。
 ヒューズがバックを取ったかに見えたが、べヒーシモはまたしても前方に回転しつつフル・ガードに入る。
 ここからは、ヒューズがハーフ・ガードに持っていき横四方を狙うが、ベヒーシモにディフェンスされフル・ガードへ、といった展開が続く。時折ヒューズが立ち上がりパンチを放つが、ベヒーシモの長い足に捕まり、すぐにフル・ガードへ戻されてしまう。そしてまたしても下から三角絞めを仕掛けるベヒーシモ。防戦一方のヒューズはここでもベヒーシモの肘打ちを何発か頭部にもらってしまう。

 ラウンド開始からずっとグランドでの攻防が続いているせいか、会場は大ブーイングに包まれる。ベヒーシモのガードに手こずったまま上のポジションをキープしているヒューズに対してなのか、それともガードポジションでしっかりと相手の攻撃を封じながら三角絞め、という柔術パターンの攻撃を繰り返すベヒーシモに対してなのか、そこの所はハッキリとしない。
 残り40秒の時点でレフェリーのブレイクが入り両者スタンディングになるが、すぐに仕掛けたヒューズのタックルを切ったベヒーシモは、再びそのままグラウンドに引き込みフル・ガードに入る。全く同じ展開にブーイングが爆発する。ここでラウンド終了。

 3ラウンドに入ってからもほとんど同じ展開が続く。
 タックルに入るヒューズ。切るベヒーシモ。そして差し合いからグラウンドへ。そしてベヒーシモのフル・ガード。ブーイングのボルテージが上がる一方だ。
 残り30秒の所でヒューズはハーフ・マウントからアームロックを狙うが、すぐにベヒーシモに逃げられそのまま試合終了。
 数回テイクダウンを奪ったし上のポジションをしっかりとキープしていたともいえるが、ベヒーシモが仕掛けてくる下からの攻撃をただ凌いでいただけにも見えるヒューズ。しかし、ジャッジの判定は3-0でヒューズの勝ち。しかも29-28、30-27、30-27と一方的なものだった。

 関節技で追い込まれても、とにかく上のポジションをキープする。
 これがオクタゴンでの勝ち方なのか? それとも、いかなる場合でもとにかく上にいれば勝ちというのがアメリカ人の気質なのか? 関節技でタップ寸前に追い込むよりも、それを間一髪のところで凌いだ方がポイントは高いのだろうか? グラウンドに引き込むという行為はマイナスなのか? テイクダウンが何よりも一番ポイントが高いのだろうか?
 判定の基準が曖昧だと感じたファンもいたようだが、この日、会場にいたほとんどの人たちは、そんなヒューズの勝ちに疑問を感じていなかったようだ。だからこそ、今でも「ロドリゲスはノゲイラに勝った」なのだ。
 

第4試合 ミドル級 5分3R
×フィル・バローニ(アメリカ/ラスベガス・コンバットクラブ)
○エヴァン・タナー(アメリカ/チーム・クエスト)
判定0-3


「ラウンド中にカットマンが選手の手当てをするのはルール違反。だからその時点で本当は俺の勝ちだったんだ」
 前回の対決で、タナーの右頬が切れ試合が中断された時の状況を振り返るフィル・バローニ。会場に流れた紹介ビデオの中で「俺は負けていない。あの試合でダメージが残ったのはタナーだけだ」と言い切り、軽快なステップで入場。もちろん、いつものサングラスをかけてのダンス・パフォーマンスも忘れていない。セコンドには日本で共に練習していたエンセン井上の顔もみえる。
 普段は試合の数週間前に90キロぐらいから83キロぐらいまで一気に落としていたバローニだが、今回は充分に時間をかけて絞ってきただけあって肌の艶が非常にいい。
 一方のタナーも、試合開始直前に必ずといっていい程みせる、緊張を隠すための苦笑いが今回はない。表情には確固たる自信がみなぎっている。

 明らかに身軽になったバローニは、スタートから右・左のフックを振り回し打撃でプレッシャーを与えるが、リーチのあるタナーは自分の間を崩さずに、一分過ぎ、右ストレートを避け懐に入り込みテイクダウンを奪う。
 フル・ガードに入ったバローニを、タナーは2・3度持ち上げフェンスまで持っていき、上から肘打ちを放つが、タナーの左腕を取りながら巧くバランスを取ったバローニに立ち上がられ、フェンス脇で差し合いの状態になる。
 ここで一旦離れたタナーは、リーチを活かしての右ストレートから、クリンチにもっていき膝蹴りを連発。バローニが反撃のパンチをくり出す前に離れる、という戦法に切り替える。膝蹴りのヒット・アンド・アウェーだ。

 2ラウンドに入ってからも、自分の間をしっかりと保ちチャンスとみるや右ストレートからクリンチ、そして膝蹴りを面白いように決めるタナー。
 3分を過ぎると、フェンスに押し付けられたバローニが、大きく肩で息をする場面が目立つようになる。
 残り1分を切ったところでタナーはテイクダウンを奪い、バローニをフェンスに押しつけてハーフ・ガードの中から脇腹や頭部へのパンチを連発。前回と同様、このままパウンドでのレフリーストップになるのでは?といった展開になるが、バローニはラウンド終了まで何とか持ちこたえる。

 1、2ラウンドとバローニを圧倒したタナーはすでに勝ちを確信したのか、3ラウンドに入ってからもタックルに入る気配は全くなく、スタンディング・オンリー。クリンチからの膝蹴りを連発するが、離れる際の顔面のディフェンスが疎かになっているのをバローニは見逃さなかった。タナーが膝蹴りを二発放ち離れたようとしたその瞬間、計算していたかのようなバローニの右フックが見事にあたり一気に形勢逆転。パワフルな右、左のフックでタナーを追い込むが、後一歩のところで逃げられてしまう。
 最後の力を振り絞り、アグレッシブに右、左のパワフルなパンチを繰り出すバローニ。会場は、バローニの逆転劇を望むファンの叫び声と「グランドに持ち込め!」と怒鳴るタナーのファンの声が交錯する。

 結局、最後の30秒で見事なタックルを決めたタナーが3-0で判定勝ち。
 チームクエストの選手はみんなクリンチからのパンチと膝蹴りが巧いが、終わってみれば、チームクエスト得意の攻撃パターンによるタナーの完勝劇だったと言える。
 


−総括− Preaching to the Choir(釈迦に説法)


 「どうしても理解できないんだけど。」
 そう前置きして語る事が多くなった最近のUFC。
 何でシルビア対ミアがいきなり選手権試合になっちゃうの? 何で今更シャムロックとキモなの? 相変わらず前座はライト級の試合だけど、ベルトに一番近いのは誰なの? というよりも一体全体、もう一年以上も空位のまま放置されているライト級チャンピオンはどうなっちゃったの? それから、メインスポンサーがいきなり「42 DegreeZero(零下42度)」というあまり聞いたことのないニュージーランドのヴォッカの銘柄に変わったみたいだけど、前大会のスポンサーだった「ミラーライト」はどこにいっちゃったの?

 PRIDEとK-1が昨年から本格的にこの国の地上波ケーブルTV(一昨年までは衛星ケーブルTVのみ)に参入して以来、アメリカの格闘技ファンの多くは、果たして我が国から生まれたUFCは、総合格闘技の世界市場でメジャーといえる存在なのか?と疑問を抱きはじめている。
 選手が入場する際のパフォーマンスの舞台となる花道や、花火をドンパチさせる派手な演出も、ズッファのダナ・ホワイト社長曰く「試合内容が最も重要。他のところでは勝負しない」との理由で全部なくなっちゃったし、何かと「ボクシングのように」というマーケティング戦略や中継方法が、「より一層プロ・ボクシングの二軍化に近付いている」というファンの厳しい意見にもつながっている。(花道、花火排除の真の理由は、「プロレスに似ている」と思われるのが嫌だったのでは?と思わせるほど、今だにホワイト社長の口癖は「これはプロレスじゃない」なのだ)
 つまり、今のUFCの中継、そしてマーケティング戦略には、他のプロスポーツとの差別化が、金網の中で闘うという光景、そう、「オクタゴン」以外に何も見えないのだ。

 しかしUFCは、紛れもなく人口2億9千万を誇るこの国唯一の総合格闘技のメジャー大会。だからこそ、選手たちのレベルも必然的に高くなるのは当たり前だし、実際にオクタゴンの中での闘い、そして今までオタゴンが生んだスターたちを見ると、選手たちのクオリティの高さは明確だ。しかし何かが欠けている。
 それは、新しいスポーツに相応しい、新しい観客を惹き付けようという新しいプロモーションと演出だ。
 ジョージ・クルーニーやジュリエット・ルイスのようなハリウッドスターたちが観客席にいても、UFCファンにとっては嬉しいことなのかもしれないが、総合格闘技というスポーツ、UFCというイベントを知らないこの国の大半の人たちにとっては、だから何なの?でもあるのだ。
 もちろん、こういったプロモーションの効果が全くないという訳ではない。
 例えば、ズッファのオーナーであるフェルティータ兄弟が、「AMERICAN CASINO」というカジノ経営の裏側を描写する(相変わらずこの国では流行りの)リアリティ番組の主役になっているので、こういった番組の視聴者たち、つまりスポーツを観る人たちとは全く違ったルートからのファン獲得も確かに行っている。
 UFCのDVDやビデオが、インターネットだけでなく、ブロックバスターやタワーレコード、ボーダーズなどの大手レンタル店や大型総合書店で購入できるようになった功績は認めるべきだ。

 だけど結局すべてマイナーなのだ。
 英語には「Preaching to the Choir」という表現がある。簡単にいうと「釈迦に説法」と同じ意味なのだが、ようするに、すでに神を深く信心している教会の聖歌隊(Choir)に説教(Preach)しても何の意味もないという事なのだ。
 そう今のUFCはまさにこの「Preaching to the Choir」現象だ。
 総合格闘技どころか、ボクシング以外の格闘技を見た事のない人の方がまだまだ圧倒的に多いこの国で、総合格闘技を本当のメジャースポーツにするためには「試合内容が最も重要」という考えでは全く話にならないと感じているのは筆者だけだろうか? だからといってフリークだけを相手にするコアな方向に突っ走っているのかというとそうでもないのだ。何とかの一つ覚えみたいに「ボクシングのように」を繰り返し、ラスベガスで地盤を固めて、みたいな至って真面目なことしか言っていないのだ。その反面、今になってシャムロック、キモ、タンク・アボットといったPPV契約世帯数が30万を越えていた時代(初期UFC)のスター選手を引っぱり出してきたのも、ボクシングと同じことをやっていても駄目なのは薄々分かっているのだが、どうしていいのかわからない迷走行為とも捉えられる。この事も、すでにこの国ではアンダーグランドなスポーツとなっている総合格闘技を知っている、オタクやフリークを相手にした「Preaching to the Choir」現象の一つと言えるのではないだろうか。
 二ヶ月に一回ベガスで定期的に開催されているUFCの大会は、確かに毎回客の入りはいいし、それなりに安定したPPVセールスも記録しているが、ESPN 2で中継されているK-1やエクストリームスポーツと比べてもまだまだマイナー、ようするにほとんどの人が知らないスポーツの域を越えていないのも事実。
 ベガスで認められ、スポーツとして。こういったズッファの正攻法で、という姿勢も立派ではあるのだが、このメディア戦略満載の時代に、押し出し一辺倒ではなく土俵際のうっちゃりのようなプロモーションができなくて、誰も見たことのない新しいスポーツを世間に認知させることができるのだろうか?
 それともこのまま「Preaching to the Choir」現象の中で、極端な言い方をすれば、二ヶ月に一度ベガスで盛り上がっているだけの状態が続いてしまうのだろうか?

 
 
<その他の試合>

第7試合 ウェルター級 5分3R
×デニス・ホールマン(アメリカ/AMCパンクレイション)
○フランク・トリッグ(アメリカ/RAWチーム)
1R 4'15" TKO (レフェリーストップ:グラウンドパンチ)

第3試合 ライト級 5分3R
○マット・セラ(アメリカ/セラ&ロンゴ・コンペティションチーム)
×アイバン・メンジバー(カナダ/トライスタージム)
判定3-0

第2試合 ミドル級 5分3R
○トレバー・プラングレー(アメリカ/アメリカン・キックボクシング・アカデミー)
×カーティス・スタウト(アメリカ)
2R 1'09" ネックロック

第1試合 ウェルター級 5分3R
○ジョルジュ・サンピエール(カナダ/TKOマネージメント)
×ジェイ・ヒエロン(アメリカ)
1R 1'45" TKO (レフェリーストップ:打撃)

Last Update : 07/03

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