BoutReview
記事検索 by google
news

(コラム) [NAGA] 5.22 シカゴ:Mr. ジェンズ・パルヴァーを探して

北米グラップリング協会 "NAGA Chicago"
2004年5月22日(土) 米国イリノイ州シシロ市モートンイースト高校体育館
 

はじめに:
 シュウ・ヒラタ(BoutReview USA

 今回のレポートは、ばうれび初登場、シカゴ在住の画家ロドリゴ・アヴィラさんによるものです。
 このロドリゴさん、何を隠そう美術の世界ではちょっと知られた存在なのです。競走馬ばかりを描き続けている画家で、ケンタッキー州あたりでよく開かれる馬主さんや牧場主さんとかがたくさん集まるオークションで、3号ぐらいの油彩の作品が最低でも一点5000ドルで取り引きされていますから、現代アートの世界では一廉の画家であることは間違いありません。
 しかもこのロドリゴさん、高校時代は、あのレスリング王国オハイオ州でも指折りの強豪フリースタイルレスラーだったのです。
 でも問題は写真です。
 「おれはアーティストだから写真ぐらい撮れる。だからカメラマンなんていらいない」
 最近、頑固オヤジの域に足を踏み入れた感が強くなってきたロドリゴさんが、またまた勝手なことを言い出したのです。
 しかも「おれは今、総合格闘技に魅せられた人たちのドキュメンタリー映画を制作するためにリサーチしつつデジビデ撮影しているから、自分のD.P.(Director ofPhotography ? 撮影監督)も連れて行くぞ」とまで言い出したのです。
 「冗談じゃないよ。スポーツを撮るというのがどんなに難しいかお前に判るか?カメラマンはカメラマンでちゃんと撮れる人を手配しないとページが作れなくなるからそれは駄目だ。しかも、ばうれびの名前使って勝手にビデオ撮影なんかしてんじゃないよ!」と強力NGを出したのですが…。
 今まで人の下で働いたことがなく、絵を描くという自分自身で作りあげたもの、要するに手作りのものだけですべての請求書を払い、帽子デザイナーの彼女を15年以上も養ってきたロドリゴさんは、絶対にできるからやらせろ!と譲らなかったのです。

 でも結果は悲惨なものでした。

 絶対に外せないというジェンズ・パルヴァーの試合から、これだけは押さえてほしいと、こちらからリクエストした試合のカットまでほとんど全滅。しかも何を考えているのか、パルヴァーの試合を白黒フィルムでしか撮影しなかったらしく、それがほとんど真っ黒黒だったのです。
 映画「ゴッドファーザー」など数々の名作の撮影を担当したゴードン・ウィリスは、重厚感溢れるくらーい画面が得意なので「暗闇のプリンンス」と呼ばれていますが、お前はウィリスの真似でもしたつもりか?と嫌みの一発でも喰らわせて、もう苦笑いするしかできないほど酷いあがりだったのです。

 これではばうれびの読者に申し訳ないと、他の媒体から写真を取り寄せようとすぐに色々と動いてはみたのですが、手配することはできませんでした。これは、最後の最後までロドリゴさんの暴挙を止められなかった私に全ての責任があります。新日本プロレスの藤波社長の心境が少し判ったような気がします。ばうれびUSAのスタッフほとんどが私よりも歳上だというのが、所々でプチ強権発動を許してしまう結果になっているのでは?とも考えたりもしましたが、基本的には私の統率力の無さ以外の何ものでもありません。
 読者の皆様、誠に申し訳ありませんでした。
 ですから、今回の写真はちょっと見づらいと思います。が、会場の雰囲気と選手たちの熱気ぐらいは伝わると思いますので、今回はそのぐらいでご勘弁ください。

 ロドリゴさんに書いてもらったレポートの方は、肝心要の格闘技の話に入るまでが長いですし、あなたはチャールズ・ブコウスキーですか?と問いたくなるほど、かなり独り善がりのエッセー風な文章です。今までばうれびに掲載されてきた記事とは全く趣向が違いますので、読者の皆様の中にはかなり違和感をもたれる方もいると思います。しかし、元UFC王者・パルヴァー久々の組み技オンリーの試合ですし、今大会は全米最大のグラップリング大会ですので、レポートを掲載させて頂きたいと思います。



 さて、NAGA(North American Grappling Associations)つまり、北米グラップリング協会というのは、アメリカ、カナダで組み技オンリーのグラップリング大会を毎月開催している組織です。ほとんどの大会がまだアマチュア選手中心ですが、最近は今大会のように洗剤メーカー(オキシドール)やスーパーマーケット(WalMart)がスポンサーとしてつくようになり、プロの選手を招いての賞金マッチやトーナメントも組まれるようになってきました。
 NAGAの会長であるキップ・コラー氏は、マサチューセッツ州だけで毎月定期的に開かれている総合格闘技の大会MASS DESTRUCTIONやREALITY FIGHTINGを主催するUSMMA(全米総合格闘技協会)の代表も務めております。コラー氏がトップにたつこの二つの組織を合わせると、アメリカでUFC、KOTCに続く三番目に大きな格闘技大会運営組織かもしれません。となると、このコラー氏、アメリカではこれから注目の格闘プロデューサーといっても過大評価ではないと思います。

 尚、NAGAの道着無しルールは、コンバットレスリングのルールと基本的にはほとんど同じです。今大会の目玉でもあったジェンズ・パルヴァーやジェフ・カランなどUFCで名を馳せた選手たちは、道着無しルールで行われたスーパーファイトでの出場でした。

 それから、文中に登場するカメラマンのジョンは、デジビデだけ撮影してスチール写真は一切撮らなかったそうです。ばうれびの視点からすると、お前、何のために行ったんだ?と詰問したいスタッフ(?)であります。


Mr. ジェンズ・パルヴァーを探して
  レポート:ロドリゴ・アヴィラ

 カメラマンのジョンは、おれが車でピックアップした時、土曜日の早朝だったせいか少しやつれているようにみえた。
 ノソノソと助手席に乗り込んだジョンは、昨日の夜、新装改築して再オープンした葬儀屋さんのカクテル・パーティーに行ったらしいが、その前にエスプレッソを「ちょっとだけ」飲んだ話から始めた。
 そしてパーティーでは、モヒートを「ちょっとだけ」飲んでからオードブルを「ちょっとだけ」食べ、家に戻ってからもなかなか寝つけなかったから、カフェインの抗力を和らげるためにジム・ビーンを「ちょっとだけ」飲んだらしい。
 しかし、この最後の「ちょっとだけ」が、ジョンを今までに見たこともない悪夢へ導いたらしいんだ。

 夢の中のジョンは、南部のどこかの州にある刑務所で、サディステックな護衛官に鞭打たれ命令されるがまま、強制労働の真っ最中だったそうだ。週に二、三回、そう、「ちょっとだけ」脱獄を試みてはいるが、毎回すぐに捕まりバシバシに殴られている、という設定の夢だったらしい。
 そんな夢が一晩中ずーっと続いたんだから堪らないよ、と彼は言い、鞭打ち+エスプレッソ+モヒート+葬儀屋+ジム・ビーン+今朝のローカルニュース=精神的大混乱だ、と嘆いていた。
 だからおれはジョンに言ったんだ。
 「まぁ心配するなよ、今日は他人がやられる所を取材しにいくんだから」


 フリーウェーから視界に広がるシシロという街は、活力といったものが全く感じられない、型打ちで作られた古い古い台所の流し台の裏面みたいなところだ。何マイルも続く正方形の家 ― 住民全員が諸手をあげて、仲良く全く同じ家をみんなで作りましょう!みたいな感じでつくられた、この国の地方独特の建築物だ。
 だけど、おれにとってシシロの愛すべき点はただ一つ。
 あの長くて汚らしい二車線しかない、国道55号を降りた所にある、ホースローン競馬場に繋がるあの道だけさ。おれにとってあの競馬場は「シカゴランドの秘密の楽園」なんだ。ニューヨークのちょっと外にあるニューワーク空港とホーボーケンという街の間を走っているあの汚らしいハイウェーによく似ているぜ。

 だからこそ、NAGA Chicagoの会場となったシシロにあるモートンイースト高校に着いた時、周りがあまりにもちゃんとしているからビックリしたんだ。一日中カードゲームに興じているチンピラの溜り場のようなソーシャルクラブもないし、明らかに病んだ雰囲気が充満している家もなければ、地中海人種のガキどもが道端で野球をしている光景もそこにはない。信じられないけど、ごく普通のとてもナイスな住宅街だったんだ。
 シカゴ近辺について詳しくない人にとってこれは初耳かもしれないが、シシロという街は、ここで生まれた「ホームタウンボーイ」とも言えるあるひとりの有名人によって全米にその名を轟かせた街なのだ。希代のギャングスター、アル・カポネは、禁酒時代にシカゴ市の目と鼻の先にあるこの街に小さな小さな秘密バーを開き、それを足掛かりに「資本主義のNHB」という世界で大きな収入を得る存在になったのだ。

 会場となったモートンイースト高校の体育館に入った途端、おれは腹が痛くなった。
 そう、ちょうど警察に呼び止められて職務質問された時、スピード違反でパトカーに止められた時、あの時のフィーリングと同じだ。
 「世間の不正分子」と呼ばれている人たちと同じように、おれは、熱い熱い情熱をもって叫びたいほど、学校が大嫌いだった。
 馬鹿が阿呆を教える場。
 しょうがないさ。おれはまだあの傷ついた時代が忘れられないんだ。
 更に、高校時代、レスリング部の猛者だったおれの心の中に、土曜日の朝、計量の前に最後の数パウンドを削っていたあの時のフィーリングが蘇えり、あの乾き切った苦しみが躯中を駆け巡ったんだ。

 その時、まだ朝の10時だったけど、おれはもうビールが飲みたかった。
 NAGAの関係者たちはみんな協力的だったんだけど、体育館に広がる光景を見ていると…….。
 子供から大人まで様々な体格、人種、年齢の選手たちがマットの上でアップの真っ最中。蚤の市で並べられている「ミニチュア道着」の数々とでもいった感じだった。
 ただ、もうその時点で、計量のために並ぶ選手たちの長い長い列ができていて、しかも時間が経つにつれて、その列はどんどんと長くなっていったんだ。
 主催者の公式発表によると、エントリー選手の数は600人を越えたらしい。でもその結果、全ての始まりが遅れてしまったのだ。

 本来ならば、この日組まれた三試合のスーパーファイトのうちの第一試合が午前10時30分に行なわれ、それを皮切りに、この全米最大規模のグラップリング大会がスタートする予定だったらしいが、スーパーファイト第一試合が始まったのは、何と昼過ぎだったんだ。その前に、あまりにも開始が遅れていたので、カメラマンのジョンがNAGAのスタッフに、スーパーファイトは一体いつ始まるんですか?と聞いたところ、そのスタッフは「スケジュールはすべてキップ・コラー氏(NAGA会長)の頭の中にある」と答えたんだ。それを聞いたら何だか楽しくなっちゃったよ。
 でもそれから10時間後、楽しめる心の余裕みたいなものは吹っ飛んじゃったね。



 やっとスーパーファイト第一試合が始まった。
 今大会の運営委員会にも名を列ねている「コンバッド・ドー」のベテラン選手ボブ・シマーと、ニュージャージー州の「チーム・アイビーリーグ」からの刺客、ダニー・アイブス(写真右)の対戦だ。総合、組み技ともに大した実積のないこの二人の選手による闘いがなぜスーパーファイトなのかよく判らないが、おれたちと同じ年齢(40代)にも見えるシマーと若くてピチピチしたアイブスを見比べると、やっぱり同年代の方に肩入れしてしまうもんだ。しかしプレス用の資料はもちろん、この大会、プログラムも何もないので、一体全体どの選手がどの程度の実積を持っているかほとんど判らないでお客さんは観ていたんだと思う。
 三分後。
 NAGAが開催している大会でギャンブルが禁止されているのは当たり前だけど、ギャンブル禁止で本当によかったよ。だってこのシマー、アイブスの手により、安物の傘を折り畳むかのように簡単にやられちゃったんだから。アイブスは、試合開始早々片足タックルでテイクダウンを奪うと、すぐに横四方の体勢に持っていき、シマーが体を反転させようとしたその一瞬の隙をつきバックを取るとゆっくりと時間を掛け体重を乗せつつチョークスリーパーにはいっちゃったんだ。でもこのアイブスという選手、スピード、テクニック、そして反射神経、全ていいものを持っているかなりの注目株だと思うし、このニュージャージーの「チーム・アイビーリーグ」の選手たちは、この日ほとんどの選手がいい結果を残していたね。

 その後、子供たちの試合が始まり、会場は一気に環境ドキュメンタリーTV番組「ナショナル・ジオグラフィックス」の蛇特集みたいな光景に変わった。試合後に泣き出す子供もいたが、このままでは負けるという事に気づいたのか、下になったまま試合中に泣き出した子供がいたのには驚いた。もちろんコーチは、毎回恒例の「次ぎがある、その時に頑張れ」を連呼しているけど、中にはもうちょっと厳しく注意した方がいいんじゃない?と思うほどマナーのないガキも数人ほどいた。でもほとんどの子供たちが非常に礼儀正しいのには、もっともっと驚いた。なかなかこの国では見られない光景だ。
 子供たちの試合は延々と続いた。道着あり、無し、男子、女子、混合。ちょっと息抜きに近くをブラブラして一時間ぐらいして戻ってきたけど、まだ体育館の中は蛇だらけだったのでランチを食べにいくことにした。
 セマーク・アベニューのメキシコ料理屋で、メキシカン・ステーキを喰ったおれたちは、あっという間に睡魔に襲われた。
 けどちゃんと会場に戻って取材を続けないと、ニューヨークのばうれびUSAのケチどもは経費だしてくれないからな。そう本当はここでビールを注文したかったんだけど、我慢したんだ。

 会場に戻ると、まだまだ子供たちの試合は続いていた。もうおれはこの時、前屈みになって自分の靴のヒモも結べないぐらい腹がいっぱいだった。(シカゴ流メキシコ料理を知っている人はこの気持ち、判ると思うな)しかもスーパーファイトが始まる気配まったく無し。正直なところ、その場に寝転がって昼寝をしたかったんだけど、そんなことしたらばうれびの連中に何を言われるか判らないから、我慢したんだ。

 でもよく考えたら、600人以上の選手がそれぞれ3試合ずつはやっている訳だから、今日は全部で1800試合ぐらいあるという事だ。そんなものに付き合えないよ、とすぐにばうれびUSAのシュウに電話してメッセージを残したら、早速電話を返してきて、あの野郎「やる事やれ。ごちゃこちゃ腐った女みたいな言い訳するな」なんて言いやがった。頭にきたけど、我慢したんだ。

 けど混合ディビジョンで女子と対戦した男子たちを見ていると、ちょっと親近感が湧いてきたな。女子にこてんぱんにやられて目に大粒の涙を浮かべている男の子を見ていると、テレパシーでメッセージを送りたくなった。
 「慣れた方がいいぞ。女はいつでも自分が勝ったと思うんだからな」




 あんまり長々と書くのも何だからここから縮めて説明すると、スーパーファイト第二試合が始まったのは、何と夜の10時過ぎだったのだ。でもその前に面白い試合が一試合だけあった。
 オキシドール・チャンレジと銘打たれた3000ドル争奪試合だ。体重が185パウンドしかないライアン・パターソン(ジェフ・カランの弟子)が、300パウンド近いウェード・ロウと対戦したのだ。しかもこの試合、体重の軽い柔術茶帯のパターソンが最後まで持ちこたえて(試合時間は5分)一本勝ちを許さなかった場合だけ、賞金3000ドルが貰えるという見せ物っぽいルールだったから会場は湧きに湧いた。
 レスラー独特の逞しい上半身を誇るロウが、何度もタックルに入るが、絶妙にそれを切り続けたパターソンが、反対にロウの懐に入り腰を少し落としてから左足をつかんだ時なんて、観客の声援と足踏みの振動で体育館の窓が割れるんじゃないかと思うぐらいの大騒ぎだったんだ。
 3分過ぎ、ロウは、パターソンの片足タックルを切り押しつぶすようにグラウンドに持っていき、上のポジションを取ったがそこまでだった。パターソンのガードに挟まったロウは、100パウンド近い体重差を使っても、エスケープするどころか、何一つできないまま試合終了となったんだ。

 でもこのパターソンだけ、どうして一試合だけで3000ドルを勝ち取れるチャンスが与えられたんだ?それにロウ選手だって、一体何のメリットがあってこんなマッチメイクを受けていれたんだよ?ちゃんとしたレスリングの基礎がありどうみてもただの木偶の坊ではないのにな。NAGAのスタッフたちに聞いてみたが、誰ひとりとしてその質問に答えることはできなかった。けど観客は充分に楽しんだからいいんじゃない、という事にしておこう。


 スーパーファイト第二試合は、UFCの常連ジェフ・カラン対ジョン・スタッツマンによる、関節技の芸術とはこれだ!と言えるほど技術という点では非常に密度の濃い試合だった。
 序盤はタックル、切る、片足タックル、持ちこたえる、差し合いになる、ちょっと離れる、額をつける、タックルの牽制、片足タックル、切る、といった攻防が続いたのだが、この二人、アクシデントのヘッドバットを連発、その度に「悪かったな」「いや大丈夫だ」と、何だか仲がいいいんだ。
 時計が2分を少しまわった時点で、スタッツマンが差し合いの状態から左に投げを放ち、それに堪えようとしたカランはバランスを崩し両者もつれるようにグラウンドへ。すぐにスタッツマンがハーフマウントを取るが、カランも素早くフルガードに入る。スタッツマンは片足を抜き、再びハーフガードに移行すると今度はそのまま状態で肩固めに入るが、これは不十分だったのですぐにカランはエスケープ。

 でもあまりにも流れるように次ぎから次ぎへと技の掛け合いが続いたから、闘いから滲み出てくる緊張感というよりも、フェアにやりましょう、みたいな「良い子のお遊技」みたいな雰囲気の方が強かったな。この試合には賞金もベルトも掛けられていないからかもしれないし、スポーツマンシップにのっとりうんぬんを考えるとクールではあるんだけど、10時間以上も待ったのはハードコアな「スーパーファイト」の世界を観たかったからであって「ラブ・フェスティバル」のようにみんなで仲良く、ていう感じの和やかな風景を観たかったからじゃないぞ、とやや不満気味だった観客も多かったと思う。結果はテイクダウンを多く奪ったスタッツマンが3―1の判定でカランを下したんだけど、勝者のスタッツマンをみても、決闘に生き残った戦士というオーラはなかったな。


 さて、やっとここで“リトル・イーブル(小さな悪魔)”ジェンズ・パルヴァーの登場だ。子供たちの目は羨望と期待でキラキラと輝き、女性たちの熱くてねっとりとした視線が“リトル・イーブル”に集中した。
 対戦相手はアメリカン・トップチームの有望株マルコス・ダマッタだ。しかし大会プログラムも何もないせいか、観客席から囁き声が聞こえた。
 「パルヴァーの相手、あいつ何者?」

 立ち上がりは静かな攻防だった。
 マットを右に右にと20秒ほどまわり続け、タックルに入る格好を数回みせ牽制したあと、少しずつ相手との距離を縮め、額と額が触った、と思った次の瞬間、パルヴァーは一気に片足タックルに入りあっという間にテイクダウンを奪った。しかし冷静なダマッタは下から三角絞めを仕掛けてきたのだ。左腕をコントロールされたパルヴァーは、素早く右手をダマッタの左足に押しあて体を上にあげ頭を抜き出そうとするが、ダマッタの両足はガッチリと決まっていた。
 そのままの状態が4分以上も続き、会場は騒然となった。
 初めのうちは「大丈夫だ!」とか「抜ける!抜ける!」と叫んでいたファンたちも、これは危ないと察知したのか、じっと黙ってマットの上の攻防を見つめるだけになったんだ。ぼくたちのヒーロー“リトル・イーブル”が負けちゃう!と叫ぶ子供もいたぐらいだ。

 残り時間一分を切った時点で、やっとパルヴァーは三角絞めから脱出。この時、どういう訳かレフェリーがタイムアウトを宣言し、ポイントの確認をしたのだ。1対1。パルヴァーのテイクダウンの1とダマッタの三角絞めの1のようだ。
 ここで試合再開。
 すぐにダマッタは片足タックルを仕掛けるがそれをジャンプしてかわしたパルヴァーは、ダマッタが体勢を立て直したその瞬間、絶妙のタイミングで両足タックルを決めテイクダウン。これでスコアは2対1。そしてそのすぐ後に試合終了。(試合時間は5分)パルヴァーの判定勝ちとなったのだ。
 会場の子供たちは大喜びだ。パルヴァーが三角絞めの毒牙にやられそうになった時、神様イエス様と祈っていた子もいたぐらいだったから、狂喜乱舞している子供たちの中には、神様ありがとう!これからはちゃんと毎週日曜日、教会にいきます!と叫んでいた子もいたように見えた。

 NAGAのルールによると、テイクダウン、関節技、そしてポジショニングが主な判定のポイントとらしいが、ほとんどの時間、三角絞めの中でもがいていたパルヴァーがテイクダウンを二回成功させただけで勝っちゃっんたんだから、パルヴァーさすがに強い、という印象はほとんど残せなかった。久し振りの組み技オンリーの試合といえど、この内容じゃ「BJペンに唯一勝った男」ジェンズ・パルヴァーとしては、不安材料の残る試合といわざるを得ないだろうね。

※ 原文はBoutReview USAに掲載しています
[記事への直接リンク]

Last Update : 06/18

[ Back (前の画面に戻る)]



TOPPAGE | NEWS | REPORT | CALENDAR | REVIEW | XX | EXpress | BBS | POLL | TOP10 | SHOP | STAFF

Copyright(c) 1997-2004 MuscleBrain's. All right reserved
BoutReviewに掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
著作権はマッスルブレインズに属します。