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(レポ&写真) [全日本キック] 11.23 後楽園:小林聡、あまりにも壮絶すぎる復帰戦

全日本キックボクシング連盟
"ALL JAPAN KICKBOXING 2003 SCRAMBLE"

2003年11月23日(日) 東京・後楽園ホール
観衆・1,950人(超満員札止め)

  レポート:井原芳徳  写真:湯本恵子
  【→大会前のカード紹介記事】
  [→掲示板・キック&K-1 MAXスレッド]


第8試合 メインイベント 63kg契約 サドンデスマッチ(3分3R・延長2R)
○小林 聡(藤原ジム/WKA&WPKC世界ムエタイ・ライト級王者) 
×吉本光志(AJジム/全日本ライト級5位)
判定3-0 (28-27,28-27,29-27)
※吉本は2Rに2ダウンあり


 大月とサムゴーが欠場となり、1月大会で復帰予定だった小林が急遽繰り上げ出場。小林はいつも映画「キッズリターン」のテーマ曲で入場するが、今回は「まだ始まっちゃいねえよ」という映画の台詞にテーマ曲がフェードインしてくるという、映画のエンディングそのままのバージョンだ。観客の手拍子の中、白いガウンをまとった小林が入場。対する吉本の気合いの入り方も凄まじく、応援団の声援は五分五分。メインイベントにふさわしい緊張感で後楽園ホールが包まれる。

 序盤を制したのは吉本だった。小林の6月に手術した右腕に、吉本の左ミドルが数度命中。左ハイも小林の顔面をかすめる。だが残り1分、小林は右のローで反撃開始。吉本の左ミドルに合わせ、小林は右ストレートを放ち、吉本を後ろにスリップさせる。終盤には小林お得意の右ロー2連発。ようやくペースがつかめてきたようだ。

 そして2R中盤、パンチのコンビネーションで突進してきた吉本の顔面に、小林の必殺左フックが炸裂。吉本は真後ろに倒れダウン。難無く立ち上がるも、小林のラッシュに苦しみ、アッパーをもらってまたもダウン。あともう一つのダウンで、小林の復活勝利だ。観声のボルテージが上がる。

 だがここから吉本が異様なタフさを発揮する。小林はパンチの連打で仕留めにかかり、あと一歩まで追い詰めるが、吉本は倒れない。逆に吉本は起死回生の左ハイ。小林は尻餅をついてしまう。立ち上がって再びパンチラッシュを仕掛けるが、それでも吉本は倒れず。残り15秒、吉本が右フック一撃からまさかの反撃開始。小林はゴングに救われる。

 意識もうろうとした小林に対し、吉本は2R終了ゴング直後にニヤリと笑ってみせるなど、2度のダウンを感じさせない回復ぶり。3Rになってもこの流れは変わらず、吉本の左のハイとミドルを小林は防御するのみ。中盤からは吉本がパンチラッシュ。

 まさかの窮地に追い込まれた小林。この時、アリスの『チャンピオン』の詩が頭の中に流れ、「いや、違う」と心の中で必死に否定していたという。『チャンピオン』には「獣のように挑戦者はおそいかかる 若い力で やがて君は静かに倒れて落ちた 疲れて眠るように」という歌詞があり、おそらくこの部分が頭の中に流れたのだろう。あるいは、唄の最後で主人公がロッカールームのベンチでつぶやいた「帰れるんだ これでただの男に」という部分だったのだろうか…。後にして思えば、入場時の白いガウンも、唄の「白いガウンに 君の 年老いた悲しみを見た」という歌詞に自身をなぞらえていたのかもしれない。

 両者足を止めてのパンチを打ち合いのまま、試合は終了。後楽園ホールの異様な熱気はなかなか冷めない。読み上げられた判定は28-27,28-27,29-27。2Rは小林が3ポイント取ったが、1Rと3Rは吉本のラウンドだったようだ。小林は視線が定まらないまま吉本に歩み寄り、吉本の手を高く上げて健闘を讃える。マイクを渡されて出た言葉も、「僕より、吉本選手のことを今後期待してください。出直してきます」というものだった。

 涙を流しながらバックステージの廊下を歩く小林の横には、東京警察病院の野呂田秀夫ドクターが寄り添っていた。小林は野呂田氏のリハビリ訓練を受けていた。
(参考情報源:「格闘クリニック」内の小林のリハビリを伝えるページ
 小林の右腕を触った野呂田氏は「内出血しているね」と一言。左腕も万全でなかったようで、野呂田氏は両腕ともまだ60%の状態で、強い蹴りを受けられる状態じゃなかったことを明かし、「厳しかったけどよう頑張ってくれた」と小林の奮闘を讃えた。
 インタビューの時の小林は涙声。はっきりと聞き取れない言葉も多かったが、できる限り書き起こしてみた。小林と付き合いの深い各格闘技専門誌のライター達も、一様に沈痛な表情だった。

◆小林「耳が痛い…。いろんな意味で、体が動かなかったですね。行こう行こうと思って、パンチが、蹴りが見えるのに、何もできなかったですね。
(腕が万全ならと思った?)いや、それわかっててやったから。ミドルキックも警戒してんたんだけど…。接待とかでカラオケでよく唄わされるんですけど、試合中、アリスの『チャンピオン』の詩が(頭の中に)流れて、『いや、違う』って自分で言い聞かせて。終ったあとは判定になって、ああいう展開で試合が終って、もう勝とうとかいう、そういう、そういう…、調子のいい考えは浮かばなかったですね。もう、頭の中がボーッとして、点数もどっちがどっちかわかんなくなって。自分がダウンしたのかしてないのかもわからなくて、セコンドに聞いて、結果こうなって…。今日1年ぶりに勝って、お世話になった人たちの顔をちゃんと見れると思ったんですけど、やっぱ見れなくて。今後のことはまだわからないです。
(自分に納得行かない?)納得も何も、もう終ってるなと思いました。結局勝ちになって、救われたのか、救われてないのか、わからないですね。勝っても反省ですけど、負ければ否定されるものですからね。」

◆吉本「夢中でしたね。夢中になってる時にホントの自分が出ると思うし。これで一回死んでるんで、もう一回出直すというか。無我夢中になってわかんなくなった時でも勝てるように、また自分を信じて、やっていきます。倒れたところは自分が甘かったんで。今日は自分のためにもジムのためにも勝ちたかったんですけど。悔しいの一言です。
 まだ俺もこれからです。これで諦めてはいられないです。キックを通して自分の生き方を磨いて行きたいんで。キックは勝ち負けの先に何かあるものだと信じてるんで、またトレーナー・先輩後輩と一からやっていきたいと思います」


第7試合 セミファイナル 全日本ライト級王座挑戦者決定戦 3分5R
△増田博正(スクランブル渋谷/元全日本&J-NETWORKフェザー級王者)
△藤牧孝仁(はまっこムエタイジム/2位) 
判定0-0 (49-49,49-49,49-49)
延長R 判定1-2 (9-10,10-9,9-10) マストシステム
※公式記録はドロー。藤牧が2004.1.4後楽園で王者・大月晴明に挑戦

 1R、藤牧が右のパンチで優勢だったが、2Rからは増田の左ミドルと左ローの着実さが目立つように。4、5Rは藤牧もパンチで反撃。一進一退の好勝負となり、公式記録はドロー。延長戦も同様の展開で僅差の内容となるが、藤牧が大月への挑戦権を勝ち取った。

第6試合 ウェルター級 3分5R
×加藤督朗(PHOENIX/WMTAサウスパシフィックSライト級王者)
○山本優弥(空修会館/2位) 
1R 0'58" KO (左ミドル)

 加藤のミドルに対し、山本も左ミドルをすぐさまお返しすると、これがクリーンヒットし加藤はダウン。さらに山本はサッカーボールキックをお見舞いしてしまい、加藤は失神状態に。アクシデントで終了となってしまったが、19歳の山本の末恐ろしさは十分に感じられた。

第5試合 フェザー級 サドンデスマッチ(3分3R・延長2R)
○サトルヴァシコバ(勇心館/5位) 
×村山良和(はまっこムエタイジム/8位)
1R 1'32" KO (左ストレート)

 パンチで優勢のヴァシコバが、1分過ぎに得意の左ストレートでダウンを奪取。村山はなんとか立ち上がるも、またも左ストレートを浴びレフェリーストップ。ヴァシコバの強さが光る試合だった。

第4試合 ウェルター級 サドンデスマッチ(3分3R・延長2R)
○小松隆也(建武館/6位) 
×箱崎雄三(TEAM-1)
判定3-0 (30-28,29-28,29-28)

 1R、箱崎の右ストレートでひるむ場面のあった小松だが、着実にローを効かせ、2R中盤から攻勢。3Rは膝と肘で攻め込み完勝した。

第3試合 ウェルター級 サドンデスマッチ(3分3R・延長2R)
○湟川満正(AJジム/4位) 
×長谷川誠(青春塾)
延長1R 1'14" KO (膝蹴り)
※本戦判定1-1 (30-30,30-29,29-30)

 延長にもつれこむと、湟川が膝の連打でダウン奪取。さらに膝連打で2度目のダウンを奪ったところで長谷川は立ち上がれず。

第2試合 ライト級 3分3R
○凱斗亮羽[かいと・りょう](S.V.G.)
×畑尾龍宏(REX JAPAN) 
判定3-0 (30-29,30-29,30-29)

第1試合 フェザー級 3分3R
×栗原 豊(光ジム)
○清水英樹(月心会)
判定0-3 (28-29,28-30,29-30)

フレッシュマンファイト第3試合 ミドル級 3分3R
×中園貴宏(S.V.G.)
○大和東洋(REX JAPAN)
判定0-3 (27-30,28-30,27-30)

フレッシュマンファイト第2試合 ミドル級 3分3R
○木塚龍司(勇心館)
×川上信吾(GENESIS)
2R 2'28" KO (3ダウン:ローキック)

フレッシュマンファイト第1試合 ヘビー級 3分3R
×川崎康弘(士心館/97kg)
○谷村光教(S-FACTORY/91kg)
判定0-3 (28-30,28-30,27-29)

Last Update : 11/24

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