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(レポ&写真) [パンクラス] 6.22 大阪:稲垣、10年目の10カウント。渡辺vs佐々木、一撃の大波乱

パンクラス "Sammy Presents PANCRASE 2003 HYBRID TOUR"
2003年6月22日(日) 大阪・梅田ステラホール

  レポート&写真:井田英登  【→大会前のカード紹介記事】  [→掲示板スレッド]

メインイベント ミドル級 5分2R
×稲垣克臣(パンクラス大阪)
○國奥麒樹真(パンクラスism/2位)
1R 4'10"チョークスリーパー

1993年9月のPANCRASEの旗揚げ戦、第一試合を闘った男・稲垣が引退試合を迎えた。当時、稲垣は藤原組の練習生を経てのデビュー戦。対戦相手は船木と並んで団体の二大エースの一人であった鈴木みのる。その鈴木もひと足早くPANCRASE MISSION所属選手として、既製のプロレスに活動をシフトし、事実上PANCRASEの第一線を退いている。旗揚げ当時の7人の所属選手中、船木は2000年のヒクソン戦を最後に引退し俳優業に転じた。柳沢も今は新日本プロレスで魔界倶楽部の一員となっており、冨宅も7月のU-style出場を機にPANCRASE MISSION入りする。ルール面でも、そして選手の顔触れでも、10年という年月の経過は、明らかにこのリングの上の光景を変えてしまっている。

しかし、そんな感傷とは別に、試合は両者の選手としての“立ち位置”の違いを明快に反映したものとなった。脂の乗ったトップランカーと引退していく選手。当然まともに当たれば勝負にはなるまい。介錯役に指名された國奥の仕事は、稲垣の“今”の力を引きだしながら、最終的に観客にも、そして当人にも納得のいく形で「今日が終わりであること」に説得力をもたせねばならない。試合後、「切なかったですね」と開口一番に語った彼の言葉には、そんな勝負論だけではない、“奥深い”試合を終わらせた人間の感慨が感じられた。

序盤から、気合の入った突き蹴りを放ってくる稲垣に対して、國奥は距離を作ってそれを受け流す。決して自分から攻め込むのではなく、稲垣の攻めを落ち着いて受け止める「受け」の姿勢が覗く。ワンダウンで試合が終わってしまう今のPANCRASEルールで、國奥がそれこそ“秒殺”を狙って撃ちあえば、勝負は瞬時に付いていたかもしれない。だが、今日の試合のテーマはそれではない。「手心」とはいわないが、そこにあるのは、今日この試合を最後にリングを降りる相手を、如何に完全燃焼させるかという國奥なりの「気遣い」であったと思う。

その國奥が最初に自分から動いたのは、タックルであった。

10年前、コーナーでの差し合いや組み合っての内掛け外掛けといった“実戦的な”テイクダウンの攻防がポピュラーではなかった当時、パンクラシスト達の“最新”の武器は、なんといってもこの早いタックルにあった。旧藤原組の道場で、そして広尾のP's Labでこの二人が、何千回何万回と繰り広げたであろうタックルの攻防。倒れ際のブリッジで素早く上下を入れ換えて、稲垣が意地を見せる。クラッシックと言ってもいいほど、ベーシックで、どこか懐かしささえ漂うグラウンドムーブ。脳裏には「ハイブリッドレスリング」という言葉が何故かちらつく。だが抑えの甘い稲垣を押し戻して、國奥は上体を起こすことに成功する。尻をついた姿勢で、同体の二人がもみ合う状況に。だが、当然のように國奥はそこから足関節の取りあいには転じない。抱きあうようにして、両者は立ち上がる。1994年から2003年へ。過去と現在の交錯は一瞬で終わった。

「エキシビジョンじゃなくて、今回はちゃんとミドル級の試合ということでそういうのが成立したんだと思います。お互い練習してきたなかで、練習はできて、試合ではできないというのは僕の中では少し違うと思うんですよ。同じ道場の人とはやらないとかっていうのは違うなと。単純にどっちが強いかなと思ったら、試合をして答えを出さないとそれはでないわけで」と試合後語った國奥。変わらずミドル、ハイとがむしゃらに蹴りを放ってくる稲垣の攻めを躱し、顔面にワンツーをクリーンヒットさせる。稲垣の足にはキックレガースはなく、そして國奥の打撃も掌底ではない。2003年ミドル級戦線の最前線で闘う人間としての矜持と自信。いたずらに過去を懐かしむのではなく、“現在”の PANCRASEマットの技術水準できちんと老兵を叩き潰す。それが去りゆくものへの最大のはなむけだと言わんばかりに。

稲垣の右フックを躱して、再び早い両足タックル。ハーフガードで足を絡められた國奥はパンチを落としてパス。サイドポジションからバックへ。短い攻防の中に、両者の“現在”の格差がくっきり浮き彫りになる。首に絡み付いた國奥の締めを外そうと、ごろごろと横転する稲垣。しかし、ロープ際でがっちりと締めが決まり、タップ。

1993年9月の旗揚げ戦と同じフィニッシュ。3分35秒の結末に10年前NKホールに詰めかけた全ての観客が度肝を抜かれ、マスコミも“秒殺”と驚愕を露にした。強きものが当たり前に勝利し、弱きものが当たり前に敗れ去る。そんな時代の到来を、自らの敗北によって世に知らしめた男には、あまりにふさわしい終幕だったのかもしれない。

 

セミファイナル ライトヘビー級 5分3R
×佐々木有生(パンクラスGRABAKA/4位)
○渡辺大介(パンクラスism)
1R 4'18" K.O.


第4試合 ウェルター級 5分3R
△北岡悟(パンクラスism/5位)
△星野勇二(和術慧舟會GODS/6位)
判定 0-1(30-30,29-30,30-30)


第3試合 ミドル級 5分2R
○長谷川秀彦(SKアブソリュート/6位)
×佐藤光留(パンクラスism)
判定 2-1(20-19,19-20,20-18)

第2試合 69kg未満契約 5分2R
○前田吉朗(P'sLAB大阪 稲垣組)
×佐藤伸哉(P'sLAB東京)
判定 2-0(20-18,20-19,19-19)

 

第1試合 ライト級 5分2R
×武重賢司(パンクラス大阪)
○渡辺智史(総合格闘技道場コブラ会)
1R 1'16" K.O.(膝蹴り)


パンクラスゲート フェザー級 5分2R
○藤本直治(P'sLAB大阪)
×川俣丈次(チーム・ドルバッキー&みずき道場)
1R 1'47" アンクルホールド

Last Update : 06/23

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