BoutReview
記事検索 by google
news

(レポ&写真) [キングダム] 6.15 多摩:ノーブレイクのグラウンドマッチで達也本領発揮

キングダム・エルガイツ "Success Access"
2003年6月15日(日)東京・エキサイトスペースZ-Zone

  レポート&写真:井田英登  【→大会前のカード紹介記事】 [→掲示板・プロ総合格闘技全般スレッド]

メインイベント エルガイツルールLevel 2 タイムリミット10分
○ラサールおさみ(ワイルドフェニックス/ライト級1位)
×舘 智行(五輪門/ライト級4位)
1R 0'46" スリーパーホールド
 

“日曜格闘家”ラサールも秒殺勝利

黒のロングパンタロンの舘は、オリエンタルな雰囲気を醸し出しての登場。このあたり前回のメインに登場したプンチャックシラットの使い手だった水埜の再来を感じさせなくもない。一方受けて立つラサールはいつものポーカーフェイス。運用二度目となったエルガイツルールもLevel-2に突入。いよいよグラウンドでの膝が解禁となり、より危険度も高まることになる。両者ともそのあたりを意識してか、表情には緊張感が伺える。

ローキックで距離を詰め組みついた舘は、同体から払い腰を仕掛ける。しかし、こらえたラサールはロープに押し込む。粘る舘は再度払い腰を狙うが、ラサールはこれを崩してバックを奪う。バックに付かれたまま立ち上がった舘だが、ラサールは背中に飛びついてのスリーパーで一気に締め上げる。たまらずタップする舘。

試合後、珍しくマイクを持った(された?)ラサールは「こういう柄じゃないんですけど」と照れつつも「昔から見知ってはいたものの一度もやったことのない舘さんで、しかも忍者ですから(笑)ルールもルールですんで踏みつけ以外は何でもOKってことだったんで、どんな禁じ手が出てくるか怖かったんですが、まあその展開に行く前になんとか…本当はグラウンドで殴る蹴るの練習もしてきたんでそこのところも出したかったんですけど。出さずに済んでラッキーだったかなと。ま、勝たせていただきました(笑)見ての通りオッサンなもんですから、マイクでどうのこうの言う選手じゃないんですけど、こういうところで試合を見ていただくのは嬉しいです。今後もキングダムともどもワタクシも応援よろしくお願いいたします(笑)」と堂に入ったマイクアピールでシニカルな持ち味を披露して見せた。

バックステージでも「マイクアピールっつうか、あれはご挨拶ですね(笑)セミでやった桜井選手とかの方がそりゃ様になってますから(笑)仕事もあるんですけど、まあこっちは趣味は趣味で、レベルの高い趣味としてやってるつもりなんで。30とっくにすぎて36なんですけど、体壊さない程度にがんばれたらなあって思いますね」と“オヤジ”をやたら強調するラサール。だが、シニアゆえの巧妙さ感じさせる独特の境地を確立しつつあるのは間違えない。

「アマチュアではなかなかグラウンドで顔殴らせてくれる所もないんで、このところ顔殴る試合をやってなかったんですけど、このルールなら顔殴るどころか、サッカーボールキックも出していいらしいっていうことで、出したれっちゅうことで、後輩を練習台に犠牲にしてたりしてたんですけど(笑)元々こういうルールで戦いたいと思って始めてますし、日ごろの練習もこんなんばっかりですから。やられるほうは考えてないっつうか、元々守るしかできない選手だったモンで、今回は攻められるタイミングが来たら一気に攻められるようにしようという一点で。殴れる所は殴って勝つっていう、特にこのルールは気合が勝負なんで、ちょっと油断してボーンとそこ行かれたら終わりですからね」というように、今回若い選手を押しのけて、あえて危険なエルガイツルールの最先端の洗礼を受けてみようとした姿勢には、逆にアマチュアゆえの貪欲さを見たような気がする。

「まあ40までは余裕でやれるとおもいますけどね(笑)次はどうなるんでしょうねえ。面白いオファーがあればって形でやってますし、これで金儲けようとか、トップに上り詰めてやろうとか思ってませんから。あくまで練習の一環ですよね。練習やって試合やって、両方の緊張感がないと練習もつまんないんで。まだ一人稽古で達人になれるほど道極めてもいないんで、そういうレベルでやってます(笑)でもねぇー、今日試合終わってから、また明後日からドイツ出張なんすよぉ。一週間も。昨日までは社員旅行で飲む打つってやってたし(笑)」と韜晦交じりに語る言葉に、嘘はあるまい。現在格闘界の中央は、ひたすら高い評価を求めて戦い続けるプロ&プロ志向の若い選手達中心に動いているように見える。そんな“頂点絶対主義”とは対極に、“日曜格闘家”としてマイペースの戦いを繰り広げるラサールの言葉は、図らずも現在のインディ格闘シーンの現実を今更ながらに浮き彫りにした気がする。事実、総合に限らず柔術やキックの世界でも底辺を支える選手たちの多くは、格闘技では生活できない(しない)アマチュア&セミプロのファイターだったりするのだから。だが、今後もし格闘技が本当にメジャースポーツとして広がっていくなら、“命を賭けて、人生を賭けない”とでもいおうか、気負わず飄々と、しかし真摯に格闘技に取り組み続ける、彼らのような選手達の生き様にもっとスポットライトが当たってもおかしくない。そんな気がした。



セミファイナル エルガイツルールLevel-0 タイムリミット10分
○桜井達也(マッハ道場)
×薬師寺浩之(キングダムサテライト/キングダムアマチュア3戦3勝)
1R 6'50" 三角絞め


今回、概発表のエルガイツルールに<Level-0>ということで、すべての打撃を禁止技とするグラップリングルールが登場した。要は柔術同様、ノーブレイクでのねちっこいグラウンド戦が堪能できるマニアックなルールである。いち早くこれに手をあげたのが、桜井マッハ速人の実弟・達也だった。兄より若干線の細い印象を受ける達也だが、3月のコンバットレスリング全日本選手権では強豪ひしめく-66キロ級で五味隆典の兄・靖典と並んで3位に入賞するなどの実績も残しており、むしろグラウンド技術だけなら達也の実力を評価するとの声も高い。まさに今回のルール設定は、達也参戦のためにあったと言っても過言ではないほど、ツボにはまった観がある。

対する薬師寺はキングダム所属若手の中でもグラウンドテクニックに長足の進歩が見られたことで、当初予定されていた前回のメインイベンター大橋を押しのけての抜擢。果たして格闘サラブレッドの達也にどこまで食い下がれるかが注目されるところだった。

兄譲りのマッハマークが入った白のパンツで入場してくる達也。ウィットネスには前回いち早くマッハ道場代表でキングダムに登場、小林歩との好勝負をみせたアンソニー・ハスが付く。

スタンドのいなしあいから胴タックルでロープに押し込んだ達也は、足を狩ってテイクダウン。際の回りこみで素早く上四方に押さえこんでポイント先取すると、足取りを狙うがこれは果たせず。一旦は立ち上がった薬師寺だが、外掛けでグラウンドへ持ち込む達也。

ここからの展開が非凡さを感じさせるのだが、クロスガードに捕らえる薬師寺に構わず立ち上がった達也は、釣り上げで切ったクロスガードの左足を素早く捕らえて、膝十字へ。なんとか極め切られる前に横回転で外した薬師寺だが、そのターンを利用して今度はバックからのチョークスリーパーで襲い掛かる達也。流麗な展開に、とてもグラップリングオンリーの試合とは思えない程観客が沸く。ここでチョークのままバックマウントに移行して、達也がポイント2先行。かろうじて指を入れてチョークを逃れた薬師寺はヒップスローで、仰向けになる。マウントからのギロチンで追い込む達也だが、なんとここで薬師寺がスィープに成功して意地を見せる。

初めて下になった達也はオープンガードからの三角狙い。しかし、薬師寺も中腰で踏ん張って首を抜いて極めさせない。オープンに戻して薬師寺を蹴り離した達也は素早く立って、胴タックル。腰だめに受け止めて、コーナーで粘った薬師寺だが、ひねり倒した達也はそのままサイドポジションからのニーインザベリー。腕極めを狙った達也のリズムを読んで、薬師寺は上下入れ替えに成功する。

しかし、足の効く達也は薬師寺に攻める暇を与えない。すかさず三角締めで薬師寺の首を巻き込んでしまう。さっきの要領で中腰からの首抜きを狙う薬師寺だが、今回のロックはがっちり食い込んでいて、逆に達也を釣り上げる格好になってしまう。グラウンドへのスラム(叩きつけ)で仕掛けを外そうとした薬師寺だったが、逆にこれがロックを深くする破目になって三角ががっちり極まってしまう。墓穴を掘った薬師寺がタップして試合終了。

修斗リングではなかなか発揮されなかった、達也のファンタジスタぶりが発揮された好試合だった。立ち上がった達也も小さくガッツポーズを決めるなど、快心の試合だったことが伺える様子をみせ、勝ち名乗りの後、選手生活初(?)のマイクをとる。

「今日はキングダム初参戦ということで、これだけのお客さんが集まってくださってありがとうございます。これからはもっと自分の可能性を最大限に生かせるように、技の研究とかもやっていきますんでよろしくお願いします」と頭を下げると、客席からは達也コールも飛ぶ。派手な兄の陰に隠れてなかなか飛躍のきっかけの見つけられなかった達也だが、エルガイツルールという“たった一人の戦い”に挑むことが、選手としてのひとり立ちのチャンスになるかもしれない。


(試合後のコメント)
---エルガイツルール初参戦の感想は?
「面白いっすね。やってみて、組み技だけのリングの試合って少ないんでね。ルールに対する抵抗っていうか、最初はわかんなくて不安だったんですけど、もっと自分がいろんなこと出来るんじゃないかなーって思って、やってる最中に。体がほぐれたんで、いろいろ試してみようって思えましたね。マイナスもプラスも、ブレイクなしのこのルールの中でどうやったら生かせるかって考えたら、だんだん不安がなくなっていきましたね。打撃ありも面白いんですけど、組技おぼえていくと、相手のいなし方とか面白くなってきましたからね。やってて自分にまだ足りないのは、やっぱり極めかな? ともおもいましたけど。でもまあ今日は面白い試合が出来たんでよかったです。
---Level上の打撃ありのエルガイツルールに関しては?
「やってみたいっすね。まあその辺ジムの方とも相談しなきゃいけないと思いますけど、やっていきたいと思ってます。」
---これで各種の打撃が入っても対応できそうですか?
「やっぱり怖いですけどね。殴られてるだけじゃなくて僕も殴れるわけだから、殴られる側に回らなきゃいいんで、そこはどのルールでも同じだと思いますね。武器が増えたらやれることも増えると思えばいいんだとおもいます」

第三試合 キングダムルール ヘビー級 5分2R
○アレキサンダー・R・ロバーツ(空柔拳会館)
×高野圓真(CMA誠ジム)
1R 2'19" TKO (レフェリーストップ)


今回アマチュアでの参戦ながら、驚くようなスーパーマッチとなったのがこの試合。それもそのはずで昨年の大道塾無差別級大会で三位に食い込んだ空柔拳会館のアレキサンダー・ロバーツが、キングダム参戦を表明したからだ。身長194センチ、体重105キロの恵まれた体躯から繰り出される突き蹴りで大道塾包囲網を突破、清水和磨に行く手を阻まれたものの。一時は第二のセーム・シュルト出現か? と代々木第二を凍りつかせた男である。

対する高野は関西のアマチュアシーンでは名の知られた選手。昨年の全日本アマチュア修斗クルーザー級3位の成績を残し、その後プロ転向を目指して上京。名のあるジムをいくつか転々としながら、プロデビューのチャンスをうかがってきたが、今回本名からの改名で一気に浮上を狙う。

ロバーツの戦績は言うに及ばずだが、高野も元々破壊力のある打撃で売ってきた選手だけに、予想されたとおり火の出るような打撃戦となった。まずローで出方を見合う両者。キックレガース付きながら、Z-zoneではついぞ聞かれる事のなかった迫力のある打突音が響く。後ろ回し蹴りを織り交ぜるなど、器用なところを見せる高野だが、逆にモーションを読んだロバーツは軸足の内モモにローをぶちこんでくる。巨体に似合わずバランスのいいロバーツは、ローに加えて、伸びのあるストレート、飛び膝など打撃のバリエーションも豊富だ。

高野もコツコツとローを重ねて反撃をしようとするがいかんせん単発で終わる。ロバーツはパンチで距離を詰めると、首相撲から得意の膝の連打で高野を沈めにかかる。なんとか組み付いて打開を図る高野だが、首ごと引き抜くような横投げで吹き飛ばされてしまう。かくてリングを右に左に翻弄されパンチと膝を浴び続ける高野。ついにリング中央で膝をどてっ腹にあびて仰向けにダウンを喫してしまう。

意識は失っておらず、カウント途中で立ち上がる高野だが、若干足元が怪しい。勝負どころと見たロバーツは、二発目の飛び膝に大砲のようなストレートを浴びせ、瞬く間に二つ目のダウンを奪取。大の字になった高野の様子を見て、レフェリーはカウントせず試合を止めた。

終わってみればまったくグラウンド展開のないロバーツのワンサイドゲームとなったが、逆にクルーザーとスーパーヘビーという体格差を厭わず、嵐のようなロバーツのパンチに身を晒した高野の勇気は新人離れしたものとして賞賛すべきだろう。


「今日はまだ30点ぐらい。カウンター打つのが遅い。ストレートはまあまあ? 膝蹴りはボクの得意技。でも首相撲もう少し練習やりたい」と試合後興奮気味ながら、きちんと日本語でインタビューに答えたロバーツ。現在、千葉の空柔拳会館で練習を積む一方で、小学校の英語授業の教員として月曜から土曜までびっしりと勤める毎日。まず選手活動としては、まず昨年の借りを返すために11月の大道塾無差別級大会優勝を目指しているという。「フジマツと、去年負けた人…シミズに勝ちたい。それからもう一人強い人…ヤマザキ!やりたいね」と目を輝かせたのが印象的だった。

第二試合 キングダムルール スーパーミドル級 10分1R
○森下慶太(Gイタクラ)
×市川勢一郎(KWK・キングダムレスリング金沢)

不戦勝(市川の棄権)

第一試合 スタンディングバウト ウェルター級 3分3R
×ノブ・タカハシ(フリー)
○野呂晴彦(キングダムサテライト)
1R 1'17" TKO (レフェリーストップ)


 野呂のローキック攻勢に、一方的に蹴られまくってしまうタカハシ。いいとこなしのワンサイドゲーム。

<アマチュアバウト>

グラップリングバウト 5分1R
○力王(非公開/元全日本キックボクシング連盟ヘビー級王者)
×安藤信也(格闘技道場“信”) 
0'10" フロントチョーク


 かつての名物選手がアマチュアとして組み技格闘技に挑戦するとして話題となった一戦だが、力王は「オリーブの首飾り」のBGMもなく淡々と入場、長身を生かしていきなりのフロントチョークで試合を終わらせてしまう。あまりのあっけない顛末に客席は反応する暇もなかった。

グラップリングバウト 5分1R
△佐々木北斗(花とおじさん)
△伊藤旭彦(国士舘レスリング部)
時間切れ


 この日二試合目となる佐々木だが、一試合目に引き続き紙袋に入れたバゲットパンを胸に抱えての意味不明の入場パフォーマンス。試合では柔術ベースの技巧をところどころに覗かせ、引き込みからの胴締めでベースを作ると、下からめくり系の多彩なアタックをみせ、伊藤に押さえ込みを許さない。ただ伊藤も初のサブミッションマッチとは思えない対応のよさを見せたため、決定的なシーンは作れずドローに。

スタンディングバウト ヘビー級 3分2R
△原田敏克(空柔拳会館)
△金家充幸(育心会)
時間切れ


 大味な打ち合いとなるが、空手家らしい意地を見せた金家が組んでの膝を浴びながら踏みこたえて、最後まで打ち合いを演じたため会場は涌いた。


キングダムルール ライト級 5分1R
○田島 剛(フリー)
×菅野敦志(Gイタクラ)
判定 田島(Lost-1、Ex+3)菅野(Lost-1、Ex+2)


 両者ロープエスケープ1同士を奪われたため、ポジション取りとロック(キャッチ)でポイントを稼いだ田島が僅差の勝利


キングダムルール ライト級 5分1R
○草木原竜助(フリー)
×上野丈彦(格闘技道場 信)
アームロック


 打ち合いでは押されていた草木原だが、バックマウントからのアームロックで勝利。

グラップリングバウト 5分1R
×大櫃達也(空柔拳会館)
○佐々木北斗(花とおじさん)
1'17" 腕ひしぎ十字固め


 1日2試合を志願した佐々木だが、アンダーポジションのオープンガードからするりと逆十字を極める。試合では秒殺勝利に成功して拍手を浴びたが、退場時に、胸に抱いた紙袋のバゲットをこぼして客に拾わせる謎のパフォーマンスは、Z-zoneの暗い客電に阻まれて不発に終わった。 

Last Update : 06/16

[ Back (前の画面に戻る)]



TOPPAGE | NEWS | REPORT | CALENDAR | REVIEW | XX | EXpress | BBS | POLL | TOP10 | SHOP | STAFF

Copyright(c) 1997-2003 MuscleBrain's. All right reserved
BoutReviewに掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
著作権はマッスルブレインズに属します。

編集部メールアドレス: ed@boutreview.com