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(レポ&写真) [ZST] 3.9 Zepp:郷野、リングスに5年越しの逆襲。異次元戦は決着せず

ZST(ゼスト) "THE BATTLE FIELD ZST 2" 2003年3月9日(日) 東京・Zepp Tokyo  観衆:859人(満員)

  【→大会前のカード紹介記事】  [→掲示板・ZSTスレッド]

メインイベント ライト級 5分2R
○小谷直之(ロデオスタイル)
×アントワーヌ・スキナー(米国/チーム・ウルフパック)
1R 1'35" 足首固め

「世界一のKOK LOVE男」

 小谷と言うのは不思議な選手だ。
 決してぎらぎらしたものが表面にでない。どこか茫洋とした雰囲気が全身から漂っていて、いい例えになるかどうかはわからないが、外見だけでいえば格闘技の選手というよりも将棋か囲碁でもやっていそうな感じである。
 似たようなタイプでいえば、桜庭がすぐ思い浮かぶが、それでも桜庭は桜庭で飄々として居ながらも、長い下積み生活からにじみ出るような凄みや、苦労人らしい現実感覚が覗くことがある。翻っていえばそれがプロの凄みや、深味となって桜庭人気に繋がって居るのだろうとおもう。
 一方で、小谷はそんなアクが一切感じられない。
 真っ白で、どこかフワフワしたつかみ所の無さがいつも感じられる。

 リングスの活動休止を受けて、KOKルールを譲り受けた形でスタートしたZSTだが、旗揚げ戦に続いて二大会連続メインの大役を小谷に託すことになった。矢野や今成といったキャラの立った選手もいれば、今回セミを勤めた郷野のような人気実力ともにトップクラスの選手がいるにもかかわらず、である。小谷が本当にそんな春風駘蕩を絵に描いただけの選手だったら、そんな「別格」扱いは絶対なかったにちがいない。

 それにしても、今回も小谷の試合は短かった。
 当初対戦予定だったリック・クレメンティが直前のUFC41で負傷したため、急きょブッキングされたスキナーは、「リトル・ランぺイジ」を名乗るパワーが身上の選手。序盤から豪快なタックルと抱きついた小谷をそのままグランドへスラム(叩き付け)する動きで、その片りんをのぞかせる。しかし、ボディパンチ以外にグラウンドでのフィニッシュワークを見せられないあたりが、代打選手の代打たるゆえんか。
 ブレイクがかかったところで、小谷は左右のパンチで勝負をかける。腰の砕けたスキナーの右足をとってアンクルホールドに持ち込む小谷。スキナーのタップで、勝負はあっさりついてしまう。この瞬間の畳み込みの早さ、勝負強さこそ、我々が普段の小谷の表情から読み出すことの出来ない、格闘技選手としての強烈な資質に他ならない。

 試合後、リングでマイクを握った小谷は、さらに驚くべきことを口にする。
 「二週間前に左手指を脱臼して、満足に練習ができませんでしたが、いい試合を見せられたと思います。今度はもっと練習してもっといい試合を見せますので、応援よろしくおねがいします」と。バックステージで確認したところ、怪我は左手親指の骨折を含む完全脱臼で、一時は完全に関節が抜けるところまでいったという。まず普通なら格闘技の試合はおろか、鉛筆を持つのも嫌になるような怪我ではないか。では、このおよそ迫力に欠ける男が、どうしてそこまでの執念を見せてリングに上がろうとしたのだろうか。

 その答えはただ一つだ。
 このZSTのリングが、 ヴァーリトゥードでもM.M.A.でもなく、KOKルールを守り続けている場所だからなのである。その傍証を一つあげてみよう。
 
 昨年10月、G.C.M.主催であるDemoritionのメインイベンターとして迎えられた小谷は、敵地で芹沢健一に勝利した直後、そのバックステージで、小谷はこんなコメントを残している。「オファーがあればどこにでも出させてもらいますけど、僕はリングス(KOK)ルールが自分を活かせるルールだったと思う」と。思えば、2000年9月のBattle Genesis70キロ級トーナメント優勝という華々しいプロデビュー以来、このルールで負け無しの7勝1分。“KOKの申し子”というキャッチフレーズはまさに彼のためにあったものと言ってもいいだろう。

 だが、2002年2月活動停止を発表した最後のリングスの興行の後、小谷はさまざまな団体を放浪することになった。翌月後楽園で開催されたシュートボクシング大会に出場した小谷は、宍戸大樹相手にシュートボクシングルールでプロ生活初のK.O.負けを経験。6月には着衣総合格闘技ORGで滝田J太郎と対戦して一本勝ち。そして、先に挙げたDemorition登場となった訳である。
 約9カ月の格闘放浪。ようやく11月23日のZST旗揚げ大会でKOKルールに再会した小谷は、水を得た魚のように戦い、ミンダウガス・ローリネティスを三角絞めで沈めた。
 まさに原点回帰。そして本領発揮。
 試合後のコメントでも「自分はKOKルールに日本人で一番向いていると思ってますので、このルールなら自分が一番だと言うことを証明したいです」と語った小谷。“世界一のKOK LOVE男”がここにいる。どんな人気選手も実力者も、この思いを越えることは恐らくあるまい。それが、小谷をこのリングのメインに立たせている最大の理由だと僕は思う。

 願わくばこの茫洋とした天才児の、霞のかかったようなその無表情を吹き飛ばすとんでもない“天敵”が現れることを祈りたい。「世界で一番」と余裕で言い切るその余裕をふみにじり、そして現在継続中の5試合連続“秒殺(3分台以内)一本勝ち”の記録を断ち切るような対戦相手を迎えたとき、どんな必死の表情を見せてくれるのか。このリングを、そしてこのルールを、“エース”として死守するために、両の眼を血走らせるような、そんな光景を見たがっているのは僕だけではないはずだ。

セミファイナル ヘビー級 5分2R
×クリストファー・ヘイズマン(リングス・オーストラリア)
○郷野聡寛(パンクラスGRABAKA)
EXR判定 2-0

「五年間の恩讐」


 だが、そんな小谷とは対照的に、「リングス(KOK)へのリベンジ」を目論んで、このリングに上がってきた男がいる。
 今をときめくパンクラスGRABAKAナンバー2の郷野だ。
 
 彼のリングス(KOK)への想いは複雑である。
 プロアマ通して天才児の名をほしいままにしてきた郷野だが、修斗時代は所属するオフィシャルジムを持たなかったため、ブッキングや待遇面で不満を抱えていた。その真っ最中の98年、郷野はリングスマットを踏んだ経験を持っているのだ。元々、リングスと関係浅からぬコマンドサンボ教室で、格闘技の基盤を作った郷野だけに、参戦自体は不思議でも何でもない。しかし、当時興行人気、選手層ともに抜群だったリングスの「格」の壁は高く、郷野に与えられたのは、第一試合にアマチュアあがりの対戦相手という待遇であった。

 しかし、それ以来の怨念が、五年経った今も静かに郷野の胸の内で燃え続けていたと言うのは意外な事実だった。パンクラス参戦後は、鋭い現状批判を絶妙のタイミングで繰り出すマイクパフォーマーぶりも板につき、GRABAKAの大将である菊田を補佐しながら渋い実力者としてすっかり地位を確立していた郷野。その彼が5年の沈黙を破って、当時の「屈辱」へのリベンジを打ち上げた理由がもう一つある。それは、KOKという、自分がリングスマットを去った後に勃興したこのルールを経験できなかった悔いだったのである。大会前に流された選手紹介ビデオで「俺の中では“一日だけのリングス”。出たかったけど出れなかったKOKを経験したかった」と語ったその言葉が、何よりも雄弁に彼の思いを伝えている。

 そんな郷野のために準備された相手は、まさにリングスの一時代を築いた人気選手ヘイズマンであった。特にKOKルール導入以来の戦績はすばらしい。あのアレッシャンドレ・カカレコやカーロス・バへートといった伝説のブラジル戦士を破る輝かしい戦績も残している。まして、リングスの最終興行で、エメリヤエンコ・ヒョードルとの無差別級王者トーナメント決勝を闘ったのもこの男である。いわばヘイズマンはKOKルール時代のリングスを代表する選手、言い換えれば、郷野の「恩讐」を受け止めるのに、これほど適切な人選はなかったことになる。

 その郷野の意気込みは、見事に試合に表現されることとなった。

 得意のトラースキック(サイドキック)を織り交ぜながら、前へ前へとプレッシャーをかけてくるヘイズマンに対して、郷野は組みを警戒してか、回りながら長めの左ストレートを中心に、的確なパンチで応戦。だが、序盤からエンジン全開のヘイズマンはローを中心に距離を殺しにかかり、隙あらば組み付いての膝を飛ばしてくる。そのコンビを逆利用した形で脇を差した郷野が、足を刈ってテイクダウンに成功する。しかし際の勝負強さを発揮するヘイズマンは、郷野の右腕を取ると、パスを狙う郷野の足の勢いを利用してそのままはね上げ、スィープに成功。そのまま、アームロックを極めにかかる。

 「元気なうちはパワーの差というか、人種の差で力があるんで、俺がやられるとしたらそう言うときのアームロックか足首だなと思ってたんで、それだけにハマって焦りましたね」という郷野だが、一方では「ポイントがずれてて全然痛くなかった」という通り、なんとかガードに戻すことに成功する。ヘイズマンの攻めではこれが最大のチャンスだったかもしれない。

 一方2Rは明らかに郷野のラウンドだった。
 1R同様、ローで距離を盗もうとするヘイズマンの動きを読みきった郷野は、カウンターの右ストレートを一閃。瞬間、腰が砕けたヘイズマンに被いかぶさって上四方を取った郷野だが、ここでパンクラスルールと違い顔面にパンチが落とせないKOKルールの特性を意識したという。「最初から(スタンドの)打撃勝負」というが、郷野流KOK攻略法だったのである。欲張らず、立ち上がってスタンド勝負に戻す郷野。

 なんとか劣勢を切り返すべく、後ろ回し蹴りなど得意のトリッキーな蹴りを繰り出すヘイズマンだが、郷野は蹴りには蹴りをとコンパクトなハイキックを見舞い返す。そしてまだ前回のダウンの余波の残る頭部に、再び右ストレートをぶち込まれたヘイズマンは二度目のフラッシュダウン。だがすぐ意識を取り戻して、アリ猪木状態に誘うあたり、この男の異常な打たれ強さが垣間見える。

 だが、ペースを握った郷野は非情だった。距離をおいてスタンドを要求するかにみせ、腰をあげた瞬間ヘイズマンに強力なローキックをぶち込み、一気にパンチラッシュ。ロープにおしこまれたヘイズマンはたまらずタックルに逃げる。上は取ったもののコントロールしきれないヘイズマンは、むざむざ郷野がスタンドに戻ることを許し、またもや右ストレートにハイと郷野の集中砲火をあびる。

 「俺の勝ちか、ドローだろうなとはおもってましたけど、相手に付けてるやつが居たのは驚きましたね」という通り、郷野のスタンドでの攻勢は二度のダウンを含めて誰の目にも明らかだった。ただ、「今日は元々3Rやるつもりだったんです。勝てるとしたら後半相手が疲れたときに畳み込むしかない」という郷野の作戦は、しかし「相手も疲れてたんですけど、やべぇー俺も疲れちゃったとおもって」と言う通り、最終ラウンドのラッシュを阻む結果となった。

 相変わらずパンチとローの手数と正確さでは勝るものの、ヘイズマンも2Rのように簡単には倒れてくれない。逆に差しあいに敗れて上を取られ、フロントチョークで捕まるピンチを招いてしまう。最後こそ、テイクダウンを奪って上四方でゴングを聞いたものの、結局K.O.は取れなかった。「まあ倒したかったけど、一応ダメージは明らかに相手の方があったし、勝ったんで、5年前の復讐というか、とりあえず溜飲はさがりました」と郷野が振り返る通りの最終ラウンドだった。

 ともあれ、リベンジはなされた。
 特にその成果は、結果より試合内容にあったのではないかというのが、僕の意見である。本来グラップラーの技術を最大限活かすことに主眼をおいて、グラウンドでの顔面パンチを禁じたのがKOKルールの特性である。しかし、この日の郷野は徹底したスタンド勝負で、これが仮にVTルールの試合であっても変わらない試合内容で、まんまと勝利を成し遂げてしまったのだから。いわば「ルール泣かせ」のスタンド勝負で中央突破こそ、郷野の最大のリングスに対するリベンジだった気がする。

 「お前ら、見る目無かったな。俺が一番強かったんだぞ、ぐらいの気持ちはありますね」試合後のインタビュウで、郷野はこう言い放った。さらっと流したようにも見える、その一言に、逆に怨念の深さとリベンジを果たした満足感が覗く。

 パンクラスを主戦場とするGRABAKA勢をリングに呼び上げ、つかの間の「リングジャック」を敢行したのもその現れだろう。理由を聞くと「やっぱりパンクラスvsリングスって見られるところももあったんで、それぐらいしてもいいかなと思って」という。それならば、そこで自分を過小評価したかつてのリングス総帥前田日明へ一言何か言う気は無かったのだろうか?

 すると郷野は苦笑いしてこう言った「本当はマイクでなんか言ってやろうかと思ったんですけど、一本取れなかったんでマイク持たせてもらえなかったんですね。言えなかったからもういいんですけどね」(ZSTの内規では、一本勝ちした選手以外にはリングでのマイクアピールを許さないという取り決めがある。)

 だが、本当は「もういい」ではないことが分かったのはその次の瞬間だった。
 立ち去り際の郷野は、リベンジ話に最後まで食い下がった僕の目をちらりと見て、ぼそっとこうつぶやいたのだった。

 「さー、次はどっかで滑川とやって、渋谷との差を見せ付けて、渋谷とのリベンジマッチかな…」と。そう、それはつい一週間前のDEEP後楽園大会で、滑川vs渋谷がドローで終わった件を示唆しているに違いなかった。

 “一人リングスジャパン”を標榜する滑川を血祭りにあげるという宣言は、まだ“対リングス”のリベンジが彼のなかで終わっていないという事を意味するのかもしれない。さらにその返す刀で、渋谷の名前を挙げたのは、去年8月大阪で、打撃戦の末の記憶喪失という不名誉な内容に終わった渋谷とのあの試合を、決して忘れて居なかったという宣言ではないか。おそらく、この二つのリベンジマッチこそが郷野の“幻のマイクアピール”の内容であったにちがいない。

 被った全ての屈辱を、絶対忘れない男。
 郷野聡寛おそるべし。

 


第5試合 ライト級 5分2R
○今成正和(TEAM ROKEN)
×エリカス・ペトライティス(リングス・リトアニア)
2R判定 3-0


第4試合 フェザー級 5分2R
×松本秀彦(日本サンボ連盟)
○所 英男(チームPOD)
EXR判定 1-2


第3試合 ライト級 5分2R
○レミギウス・モリカビュチス(リングス・リトアニア)
×坪井淳浩(フリー)
2R 1'37" K.O.(膝蹴り)


第2試合 ライトヘビー級 5分2R
×梁 正基(STAND)
○小野瀬哲也(ストライプル)
2R 判定 1-2


第1試合 フェザー級 5分2R
△矢野卓見(烏合会)
△梅木繁之(SKアブソリュート)
EXR判定 0-1



ジェネシスバウト第3試合 ウェルター級 5分1R
○花井岳文(養正館)
×花村 彰(ストライプル)
1R 2'39" ヒールホールド

ジェネシスバウト第2試合 フェザー級 5分1R
○代官山剣Z(TEAM ROKEN)
×稲津 航(U-FILE CAMP)
1R 1'14" 腕ひしぎ十字固め

ジェネシスバウト第1試合 ミドル級 5分1R
△小池秀信(フリー)
△鈴木淑達(フリー)
1R判定 ドロー



Last Update : 03/10

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