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[File 0007] HAYATΦ&山口元気「やっぱり、キック」

  聞き手&撮影:井原芳徳(2005年3月4日(金)に、東京・吉祥寺「クロスポイント」「bar drop」にて収録)


◆ (1) ハートの差で負けた

ーーK-1 MAXの試合が終わってから10日が経ちました。
HAYATΦ「ようやく気持ち的に取り戻せてきました。試合から数日は相当落ち込んでしまって。まだ完全じゃないですけど」

ーー試合の映像は?
HAYATΦ「まだ見ていないです」

ーー村浜戦、最初パンチでダウンを奪って『いけるかも?』という雰囲気がありましたが。
山口「1Rはこっちの作戦通りだったね。前蹴りで距離を取って、パンチで出て来たところを左ミドルを当てて、最後は膝。で、相手の腕が効かなくなってからパンチで仕留める。僕がHAYATΦのトレーナーに付いた1年前のザンビディス戦からは、ワンツーから左キック・左膝の練習という、ホントの基本の基本しかやってこなかったんですよ。それが試合でやっと出たなって。練習でもかなり出るようになったんで、今回はイケるんじゃないかと思ったんですよ。

 でも2Rから村浜選手が強引に出てくるようになって、弱気な表情をするようになったんですね。3Rになると向こうがイケると思うようになって。フィニッシュのハイキック自体はしょうがないと思うんです。ただ、ハイを出させる状況・間合いに相手を置いたことに、非常に僕は今回、ガッカリしちゃいました。
 あとは強気、ハートですよね。蹴りと膝で潰しに行くという姿勢が見えない。練習でできても、それできっちり勝てた試合が無いわけですから、自信が無いわけですね。結局、自分に対する自信がハートにつながるわけじゃないですか。ハートの差で負けた。そこが一番大事ですね」

ーー技術面では蹴りもそうですし、パンチの破壊力も凄く上がっていると思いますが?

山口「一つ一つの技は凄く進化しているんです。難しいコンビネーションを出すとかじゃなく、基本の部分は。ただそれを使って相手をコントロールして、自分の間合いで戦う技術がまだできていないんですよ」

ーーKO負けするまでの過程で、村浜選手のパンチで後ずさりしてしまう場面がありました。

山口「ちょうどいい対比になるのが準決勝の村浜選手と新田君の試合ですね。1Rは村浜選手のパンチも新田君の蹴りも当たってるんですよ。でも新田君は1Rで自分の間合いをつかんで、2、3Rに行くに従って、村浜選手の攻撃が当たらなくなったでしょ? そういう風にならないとダメなんですよ」

ーームエタイでも1Rは様子見ですよね。
山口「HAYATΦはその逆をやっちゃったんですよ。そこを克服しないとこれからは勝てないでしょうね。自分の技にも自信を持って。ただ勝ててないんで、自信を持つのは難しいでしょうけど」

ーーとはいえ先にダウンを奪えたことは、自信につながる要素になるようにも思うんですけど。K-1でダウンを奪ったのは今回が初めてですよね。

HAYATΦ「そうですね」

ーー1つ1つずつステップを踏めているようにも思えるのですが。試合中、弱気になっているのを立て直すために、山口さんはどういうアドバイスをしましたか?

山口「とにかく蹴りまくって自分の間合いを守れと。相手のパンチで俺が潰れるか? 俺のミドルで相手の腕が潰れるか? どっちが先か? っていうつもりで蹴らないとダメなんですよ。ほんと、殺す気で。武田選手が今回の大会のインタビューで『KID君の骨を折るつもりでローキックを蹴る』とか言ったじゃないですか。そういう殺気って伝わると思うんですよね。パンチを多少もらっても、ヤバいと思わせることができるじゃないですか。そうすると相手の手数が減っていくんで」

ーーある種の自己暗示も含めてですよね。武田選手のコメントもそうですけど、あと魔裟斗選手にせよ、試合前に多少ビッグマウスと言われても、絶対倒すというイメージを描いていますよね。

山口「自分を信じられなくなったら、倒れちゃうんで」
 
 

◆ (2) みんな悩んで強くなった

ーー新田選手のことはどう映りましたか?
山口「新田君の信じる気持ちの凄さは尊敬していますね。自分のミドルとローの技を信じる力、それとリザーバーでも絶対に本戦に上がって優勝するんだと信じ込む力。それを実際に呼び込んじゃうわけですから。新田君だってドン底に落ちたこともあるし、そういうのを見てHAYATΦには刺激を受けてもらえれば。近くにいい目標があるわけだから」

ーーHAYATΦ選手はどうですか?
HAYATΦ「新田さんとはここ1年ぐらいの付き合いで、厳しい時期というのは知らないんですけど、新田さんのことだから暗い時は相当暗いんでしょうね(笑)。立ち直った今は無茶苦茶明るくて。こないだの試合の前の日も、計量したホテルから品川駅に向かう下り坂でシャドーをやってましたから。で、ピョンピョン跳ねてたら、足をくじいちゃって。道ばたで寝転がってました」

ーーあの道、人通り多いのに(笑)

HAYATΦ「もちろん新田さんもプレッシャーはあるんでしょうけど、それを楽しめるというか。僕はその境地まで行けていないですね」

山口「たぶん今、キックボクシングをやれていることが物凄く幸せで、回りにも感謝していると思うんですよね。凄くポジティブで迷いが無くて。彼がデビューする前からの付き合いですけど、今が一番精神状況がいいんじゃないですか」

HAYATΦ「昔はどうだったんですか?」

山口「基本的にはああいう天然キャラだけど(笑)、今は全てがいい作用をしてるんじゃないかなぁ」

ーー今回のK-1 MAXはベテラン勢の活躍が目立ちましたよね。小比類巻選手もスランプを乗り越えて2連覇に成功し、村浜選手も去年の敗戦から立ち直ったと思います。

山口「コヒ選手も終わった後、周りの協力してくれた人に感謝する言葉を述べてましたよね。前の彼の口からは、そんな言葉は聞けなかったと思うんですよ。挫折を経験して、凄く成長したなと思いましたね」

ーーHAYATΦ選手はまだ今回が日本代表トーナメント2回目で、その以前のキャリアがそんなに無かったじゃないですか。ベテラン勢の再浮上を見て、HAYATΦ選手にもまだまだチャンスあるだろうと思いました。

山口「格闘技って、一気に頂点に行く人もいますけど、そうでない人が上に行く余地が非常に残されてる。オリンピックスポーツだと才能が全てになっちゃうけど、格闘技って苦労した分、精神力を錬(ね)ることができて、成長できる余地が8割ぐらいあるスポーツだと思うんで。だからもし、今回HAYATΦが勝ててたとしても、本当の意味でのトップは取れなかったと思うんですよ。今回ドン底に落ちて、自分の悪い所を自分で直すという意識がつけば、後で振り返れば良かったことになると思うんです」

 
 
◆ (3) やっぱりキック

ーーHAYATΦ選手はまだまだ悩む事は多いですか?

HAYATΦ「いや、もう悩んでいないですね。またK-1に上がりたいんで」

ーーもう来年の2月の日本代表トーナメントを想定している?

HAYATΦ「いや、そういうことは考えていないです。とりあえず強くなりたいです。ただ、去年から試合が続いたんで、1ヶ月ちょっとは休ませて下さい(笑)」

ーーどっか行くとか?
HAYATΦ「行きたかったんですけど、生活もあるんで」

ーー賞金も逃しましたしね(笑)

HAYATΦ「ただここ数日は前向きになれました。試合当日とか翌日は辞めようと思ってたんですよ。試合が終わった週の土曜日、自分のクラスの指導に出る前も『こりゃ笑えねえなぁ』って思ってたんですけど、教えているとなんか楽しくなってきて。試合で結構打たれたんでボーッとしてて自分でも何を教えてるのかわからなかったんですけど(笑)。インストラクターをやらさせてもらうようになって、気分転換のきっかけができましたね。以前よりキックボクシングが楽しめるようになりました」

ーー練習を再開するのは4月ぐらいからですか?

HAYATΦ「その予定ではいるんですけど、もっと早く始めるかもしれないですし。人のを見てるとやりたくなっちゃうんで。ただ、何にもしない時もキックのことを考えていることが多いんで」

ーー以前の負けた時と今回の悔しさや落ち込む気持ちは違いますか?
HAYATΦ「違いますね。負けて辞めようと思ったのは今回が初めてですから。辞めて何ができるかも考えたけど、やっぱりキックなんですね。前は辞めてジムを持とうとかじゃなく、何か違うことをやりたいと思ったんですけど、今は別にジムに限らず、辞めてからもキックに関わっていきたいと思うようになりましたね」

山口「俺だって昔はそういう気持ちは無かったよ。離れたいと思ってたけど、コンバット2000で膝を負傷して、新田君とか増田(博正)君とか後輩とかと集まって公園で普通の子に教えているときに、『楽しいな』って。その頃はプロ向きのジムしか無かったんですよね。じゃあ一般の人向きにも始めようかな、と思って吉祥寺で始めたのがクロスポイントですから。まさか自分がここまで深くキック業界に関わるとは、ねぇ(笑)」

 
 
◆ (4) まだ3回戦ボーイ

ーー今後のIKUSAの話になりますが、裕樹選手が対戦をアピールしていますし、戦王の新田選手はK-1 MAXで結果を残しました。顔見知りということで、ちょっと考えにくいかもしれないんですが、新田選手との対戦なんてのはどうでしょう?

HAYATΦ「ぜひやりたいです」

ーー勝てばMAX準優勝者に勝ったことになりますから、次のMAXに向けて、存在感を示すことができますね。

HAYATΦ「いや、MAXに出れるとかそういうのは抜きで、単純に選手として、新田さんとは戦ってみたいですね」

ーー技術なり気持ちなりを体感してみたいと。

HAYATΦ「10年近くやってる選手って、何かが違うじゃないですか。去年のトーナメントでも、一回戦で小比類巻選手に負けちゃいましたけど、二回戦に進んで、緒形さんか武田さんと凄く戦いたかったですからね」

山口「HAYATΦも他の選手から『ああいう選手と戦ってみたい』『ああいう選手になりたい』と思われるような選手になればいいんですよ。HAYATΦにはK-1をあんまり意識し過ぎないで、1キックボクサーとしての完成度を高めてもらいたいですね。そうすればどこからだってお呼びがかかるじゃないですか。」

ーーもちろんK-1で勝つのは目標ですけど、K-1はあくまで枠組みにしか過ぎないわけだから、その前に自分をしっかりと持てと。

山口「そう。まだ3回戦ボーイだと自分では思ってもらって。ずいぶん長い3回戦ボーイなんですけど、人より進歩が遅いという意識で見れば、優しい目で見れるじゃないですか(笑)」

ーー山口さんはIKUSAの60kg以下トーナメント出場が決まっちゃいましたね(笑)

山口「60kgなんてやったことないですよぉ(苦笑)。前のIKUSAの試合も57kgですからね。フェザーでやったことがあるんですけど、60は未知数ですよ。ライトぐらいの選手も出るでしょうし、心配もありますけど、逆にそういう選手とやったらどうなるだろうという楽しみもありますね。左ミドルと前蹴りとテンカオでどこまでいなすことができるか?
 僕はまたタイでやることが目標で、タイ人と同じような戦い方をして、判定で勝ちたいんですよ。タイ人同士ってレベルが低くても、競り合いをすれば凄く会場が湧くんですけど、そういう試合ができる選手にもう1回なりたいですね。タイ人なら僕ぐらいの体重でも60ぐらいの日本人とやれるんですよ。だからIKUSAのトーナメントでどこまでやれるか試すのもいいかなぁ、って。
 そういうことって普通、仕事や生活があってあきらめちゃうじゃないですか? 歳なのにまた目指せるという環境は凄く恵まれていると思うんで、それは感謝しています。(HAYATΦの方を見て)まだHAYATΦも若いしね。…若くないんだけど(笑)」◆◆◆
 


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Last Update : 04/12 00:59

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