Hideto Ida's Blog 〜 時に放浪、日々朦朧 〜

» ArchiveList
Home > BoutReview Blog:井田英登「時に放浪、日々朦朧」 > [delight:愉悦と糧食]
02/15
ようやく咳が出なくなって、外を出歩いても悪寒に脅かされる感じがなくなってきた。三週間にわたった闘病生活も、どーやら終わりが近いらしい。

つーことなら、栄養を付けましょうというお誘いをいただき、某隠れ家のレストランへ。(ここはもったいなくて、ちょっとネットなんかで教えられない(笑))

ここで出してもらった料理が、すごかった。アイディアに溢れていて斬新なんだけども、非常に理にかなっていて、プロの仕事はこうでなければならないと毎回感心させられる。

舌の上の快楽とともに、脳に刺激をもらう感じ。

翻って、格闘技イベントの会場でこんな興奮をかんじなくなって久しい。
職業人としては明らかなピンチ。
もっと、俺にアドレナリンをくれ。

01/25
さて、話は昨日の続き。

リアルな唄を聞いての帰り道、どうにも腹が減ったのだが、唄の感動に見合うものでなければ食いたくない気分。頭に閃くものがあるのは確かなのだが、というかそれしか無いぐらいの確信に近い。いやなに、普通にラーメン屋に行こうというだけの話なのだが、ただ“とある逡巡”があって、判断がつかない。

(…非常識な話だよなあ、絶対変だよなあ、どうしよう…)
とかいいながら、結局足は直感の指し示す方向にぴったり向かってしまう。

店が閉まっていてくれれば、残念だったなあで済む所なのだが、しっかり営業時間は24時まで。だー、今時のラーメン屋なのになぜ早仕舞いをしない!…意味不明の八つ当たり気分を抱えつつ、えーい、ままよで店に飛び込む。

だが、のれんをくぐったとたん、若いちょっと香川照之似の店員さんと目が合ってしまう。何か言いたげな視線を振り払うように

「えーと、味噌ください」
店員さんはクールな流し目一発、何事もなかったようにうなずくと、キッチン奥へ。切れのいい動きで、さっさと野菜を炒めだす。

一方、カウンターの手前側では、寡黙なオヤジさんらしい人物が麺箱から麺を一個取り出して揉み始める。ああ、それ、それその麺…。もうその段階で興奮がわき上がってしまっていけない。もしかしたら麺が顔を出したとたん、中腰になっていたかもしれない。落ち着け、落ち着け。

手際よく中華鍋を振る香川照之。油の爆ぜる音がし始める。オヤジさんはその音でタイミングを測っているのか、粉を落として少し放置していた麺をおもむろに湯に投入する。しばし中華鍋の金属音だけが店内に響く。

よく威勢のいい系のラーメン屋にある“かけ声セッション”は一切なし。麺をタモの中で踊らせているオヤジさんを横目に、中華鍋を置いた香川照之は丼を取り上げると、まず愛おしむように丁寧に拭きあげる。そして金属ポットから味噌を掬い上げ、滑らかな動きで投入する。寡黙で、無駄の無い一連の動作。ジャズ的なインターセッションの感覚。インプロビゼーションを繰り広げる相棒のメロディを確認しながら、次の一音を探るフリージャズの緊張感。

タイミングが来たのか、オヤジさんがタモを上げ、軽く、しかし丁寧に湯を切る。最近、意地のように麺を振リ回して、それをパフォーマンスかなにかのように演じる店員が居たりするが、そう言うケレン味は皆無。あくまで、さりげなく、実務本意。でも神経は行き届いてる感じがする。

スープに麺が投入されると、最後の仕上げは香川照之が担当する。あれ? ソロイストが彼だと、オヤジさんはアート・ブレイキーか…訳の分からない事を考えながら、丼がこっちに来るまで、じっと凝視してしまう。

↓の写真を見てもらえば判る通り、非常にシンプルな味噌ラーメンで、機を衒ったところは一切ない。



でも、このフツーに見える麺がね…とにかく麺がすごいんですよ。
筆舌に尽くし難いと言うか、夢に見ちゃうぐらい印象深くて。
中太のがっしりした外見で、卵麺らしいシコシコ感があるのだが、そのゆで具合がもうすごい。結構この手の麺は茹で具合が甘かったりすると芯が余分に残ってしまって粉っぽかったり、あるいは茹ですぎてでろでろだったり、とにかくコントロールが難しい。ましてソースに守られていないまま、皿に裸で盛られているのだから、水気は飛ぶだろうし、麺の状態を一定に保つのは、多分至難の業。

なのに、だ。
つるんとしたのどごしと、芯の強さ、しなやかさが最後まで続くのだ。もうそれだけでご飯三杯という状態の、なんともセクシーな麺なのである。

またスープもストイック。ちょっと酒精が勝ったような辛口の味噌で、スープが出しゃばらない。唐辛子に、粗挽き胡椒でさらにスパイシーにしてあるのだが、ハーモニーではなく、ぴしっと中央の味噌を立ててその他の要素がそれに付き従うような構成。きりっとしててすごく好み。
なんか書いてても興奮を抑えきれない。

夢中で食ってる最中もそんな感じだったらしい。ふと一段落ついて顔を上げてみると、香川照之がにやっと笑って見下ろしてるではないか。

目が合ってしまった。
「えーと…やっぱ、憶えてます?」
「ええ、今日お昼もいらっしゃいましたよね」
「イヤ、あの、その…この麺で味噌食ったら旨いだろーなーと思ったら、頭を離れなくなっちゃって…すみません…(赤面)」

ええ。
その通り。

写真につけめんと味噌がダブルリーチになってるのも、そのせい。
最初に書いた“ある逡巡”って、そういうことなんですね。
普通、昼夜同じ店でラーメンって、どう考えてもバカですから(笑)。

今日、たまたま渋谷で一件ミーティングがあり、その帰り遅い昼飯をとったのが、この店だったのだ。渋谷警察の裏手で、246からも明治通りからも一本入った所にある「すずらん」という店。僕はそれまで全くノーチェックで、大きな期待はしない輸入レコードのジャケ買いぐらいの気分だったのだが、これが大当たり。自分ではネットや雑誌で話題になる店なんかは一応頭に入れているつもりだったんだけど、まあ二次情報だけじゃやっぱ、大事な事を見落とすんでしょうね。自分にフィットする物はなんでも足と勘で見つけだすものなのかなあと、改めて思ったり。

外の看板には一番の売りらしく「自家製地鶏卵麺」とあり、メニューもずらっとつけ麺のバリエーションが並んでいるので、まずはオーソドックスなつけ麺をもらったのだが、いや、もうこれがあなた、さっきも書いたけどすごい麺だったんですよ。

くわえて醤油のつけ汁のきりっとっした味がまたよろしい。通常この手のつけ麺というのは、元祖の池袋の某店に敬意を払ってか、酸味と辛みを勝たせた、いわゆる冷やし中華に近い味を押し出している物が主流である。

ところがここの汁は、塩気一本のカラッとした一本気の味なのである。醤油ベースではあるのだが、明らかに何か面白い塩を使っている感じ。後半でも麺の水気で薄まったりしない、びしっとした塩辛さが維持されて、ダレないのだ。

具がもやしと青菜とネギのミックスと言うのも、この汁の頑強さにはぴったりで、下手をすると厚めのチャーシューすら無くてもいいぐらいの完成度なのだ。何も特別な事なんか無いです。でもきっちりしてるの。折り目正しいと言うか、するべき事がちゃんと判ってて、余分なことは一切無し。その過不足の無さがシビれるんだな。イヤ、もう手放しで大絶賛ですが。

店を出たとたん、もう次何時来ようばかりが頭をぐるぐるしてしまって止まらなかった。

そして、山口君一派のライブも、奇しくも場所は渋谷。
予感はあったのだが、まさか一日二度同じ店ののれんをくぐるなどと言うフリーキーな事を、やるべきかやらずに置くべきか、齢ン十ともなるとすごく考えてしまう…イヤ、ちょっと嘘。「やらない方がいいかもしれないけど、やっちゃうだろうな…ぐらいの不安さで、でもやっちゃう方に580点」みたいな心境だった。まあ、一応当たり馬券だけど、倍率1.001ぐらいの鉄板馬券。

ふと見ると、小皿に煮卵が載って差し出されているではないか。
「どうぞ」
香川照之は、にやりと笑うとそれだけ言って、混み始めた店の仕事に戻って行く。やー、ハードボイルドですね。シブいです。おじさん、思わずカウンターの奥に頭を下げてしまいました。

卵もらったから言う訳じゃないけど、こういうピシッとした感じの人間が作る物がーー料理に限らずーー悪い訳が無い。いや、良くなかったらおかしい。クラフトマンシップつーんですかね。いや、ラーメンフリークとか、麺好き大魔王とか、ああいう風潮は別にして。

むしろそんな一過性のケレンじゃなくて、“ちゃんと”普通の物をきちんと作ろうと言う心意気は、やっぱり外面にも出るし、それがなきゃいい物って逆に作れないはず。それを感じられたのがうれしかったのかもしれない。

そう言う訳で、通いますよ、ハイ。
皆様も是非機会があったらどうぞ、確実に麺好きならハマります。

「中華そば すずらん」
東京都渋谷区渋谷3-7-5

01/18
人にはいろいろ口癖がある。
僕の場合、どうも「カレー食いたい」がそれに当たるらしい。

物事が錯綜してきて、どうにも打開点が見えそうにない時など、ぼろっと「あー、カレー食いたい」と呟くらしい。どういう思考回路で出ているのか、当人も無意識の事なので理解し難いのだが。案外、「煮詰まった→煮込み料理」ぐらいの単純な連想だったりするのかもしれないのだが(笑)。

ずっと頭の中で難題をこねくり回している最中のことなので、正直、そう呟いたことすら、憶えていなかったりする。ただ飯を食った直後でも平気で「あー、カレー食いたいっ!」とか言い出すものだから、周囲はぎょっとして「え? 蕎麦じゃ嫌だった?」とか聞き返して来たりする。

当人は「あー、畜生」とか「クソッタレー」ぐらいの意味をなさないフレーズのレベルで呟いているので、逆に「え? 何?蕎麦?食ったよ」とか意味の無い返事をしてしまう。まことに始末が悪い。

確かに、ヘッドワークが行き詰まったときなどは、料理などはいい気分転換になるわけで、カレー作りのように延々手のかかる、しかし結構煮込んでる最中などは手隙で、考え事に費やせる作業はそれにふさわしい。

作ってしまうと数日はそればかり食ってればいいので、結構修羅場飯としても有効だし。

というわけで(どういうわけかは秘密)、今日は2005年初カレー。今年は序盤からガタついているので、遅かったぐらいの登板かもしれない。

豚バラ一本とキノコを大量に投入した、欧風の濃厚なトマトソースでシチューに仕上げておいて、一回食べる。横では平行して香味野菜と炒めたスパイスのルーを作って一晩寝かす。昼飯後それを投入して、寸胴一杯のブタ角煮カレーのできあがり。生青唐辛子を投入しているので、入り口はマイルド、あとでドンと辛さが来るトラップ型。豚バラも一昼夜煮ているので、結構素敵にほぐれて旨い。自画自賛でアレだが、下手な専門店で食うより旨いと思う。

結構手間ひまは掛っているので、十分考え事もできた(笑)
さて、これをひたすら消費していきながら三日ほど突貫工事だ。