Hideto Ida's Blog 〜 時に放浪、日々朦朧 〜

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11/10  星条旗の下、老兵は死なず 〜UFC34:クートゥアVSヒーゾ戦に見たナショナリズムの影〜 /
花道の奥のスクリーンが緑の光に染まり、左右のゲートから花火が吹き出す。そこに黒くたくましい男のシルエットが浮かび上がった。闇をレーザー光線が切り裂き、スポットライトが、UFCヘビー級チャンピオン・ランディ・クートゥアの姿を捕える。上から赤/白/紺の三色に染め分けられたジャージ。それはまさに星条旗の色でもある。前回まで彼がまとっていた、ロシアモダニズム風のデザインで拳を描いたチーム・クエストの灰色のシャツは姿を消した。

客席からは一斉に「U.S.A.」「U.S.A.」と国威を高揚する声が沸き起こる。

見れば、入場ゲート横のスクリーンには、青で描かれた「RANDY COUTURE」の名前に星条旗を思わせる★印が幾つも染め抜かれたCG文字が、あたかも風に揺れる国旗を思わせる動きで左右にうねっている。これは明らかな国威高揚のためのシンボリズムを、
強調している。

前回の9月のUFC33では、ニューヨークを襲ったあの国際貿易ビルテロ事件の直後とあって、メインイベントに登場したライトへビー級チャンピオン、ティト・オーティスが、星条旗を片手に入場したことが話題となった。そして今回、やはりアメリカ国籍を持
つチャンピオン、ランディ・クートゥアが星条旗のシンボリズムを露骨に打ちだした姿で入場してきた事は、まったく同じ文脈で捕らえられるべきであろう。

それはいわゆるプロレス的世界観で、必ず勝つべき正義のヒーローとしてティトやクートゥアを「ベビーフェイス」になぞらえた演出にほかならない。無論、リアルファイトの殿堂であるUFCに組織的なフィックスト・ファイト(勝ち負けがあらかじめ決められた八百長試合)は存在しないし、あってはならない。したがって、ティトやクートゥアがその演出意図通り、華麗な勝利を飾るという保証はどこにもない。しかし、この演出はアメリカのエンターテイメントの首都とも言える街ラスベガスで行われたこの大会の観客に、そして、アメリカ各地でPPV放送を見守る視聴者に対して、「貴方達が感情移入すべきヒーローはこの男です」という意図的な誘導を仕掛けたことは間違いない。

オリンピックの例を引くまでもなく、スポーツの世界にナショナリズムは付き物である。

観客はただスポーツをする選手の姿にただ感動するのではは飽き足らず、応援するべき対象に対して、なんらかの感情移入をほどこす「理由」を求める。それは年齢であったり、性別や人種であるかも知れない。自分自身に選手を引き付けて、依怙贔屓をする理由があってこそ、人は選手の勝敗をわが事のように捕らえ一喜一憂することが出来る。ナショナリズムはそのための最大の要素である。国旗はためく下、勝敗を争う選手達の姿は、自らは戦うことの無い人々の心に、本来ならいわれの無い仲間意識を植え付け、そしてその共同体の代表であるかのような意義付けを行うわけだ。

だが、それは決してスポーツにとって幸せな感情ではないように、僕は思う。

スポーツ選手は本来孤独で、インディペンデントな存在だ。誰のためでもなく自らの可能性を賭けてのみ闘う。誰の期待も背負う必要はないし、ただ結果を出した事においてのみ賞賛されるべきだ。にもかかわらず、そのかれらを「国の代表」に祭り上げ
てしまうナショナリズムの発想は、その努力や、到達点に達した栄誉を選手個人のものから、ある集団の栄誉へと収奪しようとしているようにも思えてならない。

まして、国家対抗戦でもなんでもないUFCの会場で、個人選手がその属する国籍によって支持されたり、逆に敵役を背負わされたりすることに、僕は大いなる矛盾を感じた。試合開始前から満場の期待を背負って入場したクートゥアに対して、ブラジル国旗を
背に入場したペドロ・ヒーゾへの歓声の如何に小さかったことか。UFC随一といってもいいストライカーであり、これまでその実力に比して、運に恵まれることの少なかったこの28歳の若きチャレンジャーが、仮にアメリカ国籍をもった選手であったなら、こんな扱いはきっと受けなかったに違いない。

この男はタンク・アボットやダン・スバーンといったUFCの歴史的イコンである選手達を完膚無きまでに葬り去り、ケビン・ランデルマンや高阪剛といった実力者達との死闘をくぐり抜けてきた選手なのだ。本来彼個人に寄せられるべき期待は、根拠のないナショナリズムの前に無とされ、まるで闘牛牛のようにただ壮絶なる死を求められる存在に貶められてしまっている。

まるでその姿は、アメリカ合衆国大統領の一方的な断定の元、国際的テロリストとして死を宣告されたあのムジャヒディンのようでもある。

観客は求める。
正義の名の元に、血を、そして粛正を。

まるで、あの傲岸なジョージ・ブッシュのイタコを勤めるかのように、38歳のベテラン選手は、観客の無意識の願望を一身に背負ってオクタゴンに君臨した。あの不器用で洗練されないキックが、ピーター・アーツのスネをも破壊した若きストライカーの
内モモをたたく。何故打ち返さない?ヒーゾ? 僕はカメラを構えながら、何度も苦汁の思いを飲み込んだ。

ダン・スバーンを一発でマットに沈めた、ヒーゾのあの強力なローは何故影を潜めてしまったのだ。確かに、モーリス・スミスを影の軍師に迎えたクートゥアのスタンドでのスキルは、両者の最初の対決となった今年五月の試合と比べれば、格段の進歩を見せていた。出入りのリズムはよくなり、腰の入ったパンチにもキレがある。しかし、それにしてもヒーゾの精彩のなさはあんまりだ。

ただ立ち続ける生きた標的のようにクートゥアのパンチに押され、有効な打撃を返すことが出来ない。下がり続けた末にクートゥアの突進を引き込みで迎えるのみの展開が続く。そしてグラウンドに組み敷かれたヒーゾの顔面が、クートゥアの振り降ろす鉄拳に、そしてヒジにガンガン切り裂かれていく。まるでカンダハルの町に降り注ぐ、アメリカ空軍の空爆の嵐のように。無抵抗のヒーゾ。その姿は、五月の対決で何度もクートゥアの腰をぐらつかせた、あの鬼神のようなキッカーの姿からはあまりにも懸け離れた、弱々しいものだった。

そして、朱に染まったヒーゾの顔面に、二度目のドクターチェックが加えられた。
レフェリーのビッグジョンが両手を大きく交差させて左右に振る。

ドクターストップ。

星条旗の旗の下、クートゥアの勝利が確定した。
38歳老いたるタカは死なず。
そして28歳の若き王座簒奪者の野望は果たされなかった。

しかし、その栄誉は、腰に巻かれたベルトに対する賛辞の声は、やはりクートゥア個人に対するものではなく「U.S.A.」「U.S.A.」のコールであったことが、僕の気持ちを暗くした。

人はナショナリズムのもと、銃を取り、他国の領土に土足で踏み入り、そして罪もない市民の命を奪う。そしてスポーツの会場においてさえ、その勝利の栄誉を個人から奪い取り、その象徴たる国旗の打ち振られる下に隷属することを望む。

アメリカの勝利。
ジョージ・ブッシュ的中華思想の勝利。

もちろん勝利に破顔するランディ・クートゥアに罪はない。
時代状況、そしてアメリカ合衆国という国が背負った宿痾のようなナショナリズムが産んだ、いびつな光景なのだ。

だが、これは本来UFCが推し進めてきた格闘技の姿ではない。
願わくば、勝利の栄誉も、敗者の奮闘も、全ては死闘を繰り広げた選手達個人に還元される世界を。

僕は苦い思いで、血のこびりついたオクタゴンを睨んだ。


※BoutReview EXpress [Weekly] Vol. 002 (Sat, 10 Nov. 2001)より

投稿者 井田英登 at 01:00


11/03  ラスベガス不眠不休日記#5 「奇妙な連帯感と、アンダーグラウンドな熱気」 / [contact sports:格闘と葛藤]
※前回までの腹痛話はちょっとお休みして、今週はWFA取材・特別編をお届け!

              ◆◆◆


「まだ客は入れるな、まだだと言ったらまだなんだ!」

ハンディトーキーを片手に、こわ張った表情のジョン・ルイスが舞台裏を駆け回る。困惑と焦りの浮かんだその表情は、これまで「悪の華」の異名でクールで冷徹なキャラを売ってきた彼が、試合では一切見せることの無かったものだ。

好試合が続出した前日のUFC34の興奮もさめやらぬ11月3日、ラスベガスに集まったNHBファン達はハードロック・ホテルに詰め掛けた。UFCの開催が金曜であった事を利用して、週末のコバンザメ需要を取り込もうとしたWFA側のプランはズバリ
当たった。

ラスベガスの他のホテルのように定番ショーを持たないハードロックホテルに目を付けて、コラボレーションを持ちかけたプロモーター、ジョン・アレッシオ氏の目の付け所も慧眼としか言い様がない。サブカルチャーの王者であるロック音楽をテーマにしたこのホテルを舞台にしたことで、WFAのお洒落でアンダーグラウンドなクラブイベント的イメージは、がっちりとファンの意識に刻み込まれたはずだ。選手の顔触れも、試合レポートを読んでいただければ判る通り、凡百のローカル大会を遥かに超えた陣容を揃えている。前日一緒にUFCを取材したT記者などは、このラインナップを見て歯がみをながらオランダに旅だって行ったほどだった。

しかし、この盤石の体制にたった一つだけ誤算があった。

開場予定の7時少し前に会場に入った僕は、一瞬我が目を疑った。
通常のNHB大会と違って、WFAはホテル内の2000人収容のライブハウスが会場なので、ケージは会場奥のステージの上に設置される。これだけでも結構特異な風景なのだが、その円形のケージには、まだ半分フェンスが貼られて居ないのだ。

だが、作業員は焦る様子もない。思わず開催日を間違えたかと思ったほどである。なんと業者のミスで、搬入が大幅に遅れてしまったというのである。もちろん開場は遅れ、隣接したカジノには事情を知らないファンが行列を作ることになり、マスコミや関係者までがこの行列に混じるという二重の不手際が生じたのである。

ようやくケージが形を成したのは、本来開演予定時刻だった八時を過ぎたころ。
だがトラブルは終わらない。

この日レフェリーを勤めたラリー・ランデスが組み上がったケージを見て頭を抱える。なんとむき出しのケージには、パットもスポンジも敷設されていない。要するに、選手が直接頭をぶつけるかもしれないケージ底部分や柱が剥き出しの鉄骨のままなのだ。もうこうなると四の五のは言っていられない。業者を急かして、厚手のスポンジと荷造り用のプラスチックバンドを持ってこさせ、スタッフ、マスコミ、総動員体制でのパッド敷設作業が始まる。

客はその光景を目にしながらブーイング一つ飛ばすわけでもない。ふとフェンスの外と中で一緒に一枚のパッドを張り付ていた、レフェリーのラリーと視線が合った。

「It's just Rock'n rolI(まさに無茶苦茶だね)」
「Absorutly, yes ! but show must go on(まったくだ、でもショーはやんなきゃなんないのさ)」

ニヤリと笑ってラリーが肩をすくめる。不思議と腹は立たなかった。新しい何かが始まるときの熱気が僕にもスタッフにもそして客席にも伝わって行ったのだろうか。奇妙な連帯感と、アンダーグラウンドな熱気が会場を満たしていた。

そしてラリーが第一試合の開始を告げたのは午後十時前のことだった。

        
(関連リンク:本誌掲載の11.3 WFA旗揚げ大会の記事はこちら。)
http://www.boutreview.com/news/data/grappling/1005653804.html

※BoutReview EXpress [Weekly] Vol. 007 (Sat, 15 Dec. 2001) より

投稿者 井田英登 at 01:00


11/01  ラスベガス不眠不休日記#4 「腹痛男、ダウンタウンへ」 / [contact sports:格闘と葛藤]
●11月1日(木)ラスべガス(2)

午後5時からMGMグランドホテルで選手の計量がある。そう僕の元に送られてきたファックスには明記されていた。今回、一緒に取材をする予定のT記者はホテルに部屋を取らず、地元の友人の家に泊まっていると言うので、ここで打ち合わせをして、この日取材した素材は事前に日本へ送ってしまおうという段取りになっていた。

15分前にホテルを出た僕は、通りを横切って向いのMGMへ。
だだっ広いロビーを横切っていくと、いきなりスロット台をひやかしているカルロス・ニュートンに会った。

こちらを認めるとにこにこ笑いながら「コニチワ!」と自分から右手を差し出してくるカルロス。かつてPUREBRED STG大宮に居候して技術を磨いていた彼は、結構日本語が堪能だ。物腰も柔らかく、ファルセットのような高い小さな声で喋る彼は、とてもあの粗っぽいUFCという舞台のチャンピオンには見えない。

「今からファイターズミーティングに行こうと思うんだ」と告げると、カルロスが眉を寄せる。なんと、ミーティングは4時からで、もうとっくに終わったというではないか。

げーっ。大慌てで会場に指定されたFEXシアターに行くが、門番のオヤジは「セレモニーは終わった」と首を振るばかり。手に持ったファックスを見せて、5時と書いてあるじゃないか!と言い張るが、実際のところ終わってしまったものは仕方ない。肩を落として会場を背にすると、丁度ホテル棟の方からパット・ミレティッチ歩いてくる。聞けばホテルのカフェのバフェットでこれから飯を食うというので、なんとなく一緒に歩きだした。

今回の大会では、パットからベルトを奪った憎きカルロスに、愛弟子のマット・ヒューズが挑むことになるわけだが、世間話半分に「自分で取り戻したいとは思わなかったか」と聞くと、にやりと笑う。
「マットがベルトを取れば、俺が出るまでもないさ」
かつてUNDFEADED CHAMPION(敗れざる王者)と呼ばれた闘将パットだが、カルロスに敗れた試合の直前には今年いっぱいで引退すると表明していた事を思いだす。
「じゃあマットが勝ったら、ベルトには挑戦しない?」
「今はわからないな。今は俺はマットのセコンドだ。彼の勝利だけを考えてるからその先のことは考えられない」

日本ではしばしば同門対決というものが行われるが、海外選手はそれを極端に嫌う。時にトーナメントなどで同門対決になってしまうと、一方が棄権したりすることも珍しいケースではない。同階級に弟子を持ってしまった師としては、直接対決のことはあまり考えたくないテーマなのかも知れない。じゃあ、このまま引退するつもり? と聞いてみると、また謎めいたふてぶてしい笑いが浮かぶ。

「実は今日本からオファーがあるんだ、今は何処だとは言えないけどナ。なにもUFCだけが闘う場所じゃないってことさ」と、歯をむき出して笑うと、パットはカフェの方へと歩みさっていった。

老兵の背中を見送った僕の下腹は、このころから奇妙にグルグルという音を立てて痛みはじめていた。嫌な予感で、背中にひやりとしたものが走る。異国で病気になるというのが一番不味い。まして取材前日というのは最悪だ。あわててMGMのトイレに駆け込んだ。

痛みが、坂を転げ落ちる雪だるまのように下腹で肥大していく。吹き出した脂汗が止まらない。

食あたりか? 頭には昼食に摂ったバフェットのメニューが駆け巡る。食べ放題のメニューだけに、何が当たったかわからない。
パニックに陥りそうな心理を押し殺して、ホテルの部屋に戻る。幸い出国するときに旅行保険に入ってきているので、現地に相談窓口がある。遠くフィラデルフィアにあるという日本語相談室にロングディスタンスコールを入れて、症状を言い、医者の紹介を受ける。

この間も吹き出す汗は止まらない。まるで下半身の痛みを搾り出したような大粒の汗が、額をこぼれ落ち、医者の名前をメモする紙の上にぽたぽたと染みを作る。幸いラスベガスのホテル街からバスで30分ばかり行ったところに、日本語を理解する医者の居る診療所があるという。走るバスは夕日を背にしながら、ダウンタウンへと向かう。

下腹の痛みは不安と共に、ずっしりと下半身に食い込んで離れない。
明日の試合のことなど、僕の頭からはもうすっかり飛び去っていた。


※BoutReview EXpress [Weekly] Vol. 005 (Sat, 1 Dec. 2001) より

投稿者 井田英登 at 04:00


11/01  ラスベガス不眠不休日記#3 「ギャンブルと格闘技と黒い匣」 / [contact sports:格闘と葛藤]
●11月1日(木)ラスベガス

今回のUFC会場となるのは、ボクシングの殿堂として名高いMGMグランドホテル。ネバダの鋭い日差しのなかに、メタリックに輝くグリーンの幾何学的ピラミッドが浮かび上がる。

ホテル練の壁には、アメリカのトップアイドル、ブリトニー・スピアーズちゃんがプレスリー風の胸開きジャケットをはおって巨大な立ち姿を晒しているのが御愛嬌。どうやら今月、彼女のショーがこのホテルで行われるらしく前ウチの宣伝はぬかりがない。

我らがUFCも、ホテル前のアド用のビジョンで5分に一回ぐらいのペースで宣伝CMが流されている。カメハメ波のポーズを取るベルト姿のカルロス・ニュートンの両手からカミナリのような光線が飛び出し、前回のクートゥアとヒーゾの死闘にカブって「UFC34 HIGH VOLTAGE」の文字が浮かび上がる。なかなかカッコイイCMだ。そして一泊200ドルをくだらないというこの高級カジノホテルに、選手達はご宿泊している。UFCの社会的地位の向上を物語るエピソードだ。

ちょうど隣のC級ホテルに泊まる貧乏格闘技ライターの3泊分の宿泊費用がそんなものだといえば、彼我の差はお判りだろう。こちらはBoutReviewの社会的地位を物語るショボいエピソードだ。

ラスベガスの名物として良く言われることだが、どこのホテルでもほぼ24時間体制でブッフェのサービスを行っている。この日の僕の昼食も自分のホテルのブッフェだったのだが、要するにこれはバイキング方式の食べ放題。博打の鉄火場の合間に、簡単に食べられて、中身はゴージャスというこのスタイルがラスベガスではキッチリ定着している。

はっきり言ってしまえば、カジノのマシンなどどこでも一緒だ。だからこうしたブッフェや常設のショーで差別化して客を集め、そのついでに博打で銭を落とさせていくのがラスベガス式ビジネスのやり方。前述のブリトニーちゃんのショーにしてもそう。前回のUFC33が行われたホテル・マンダレイベイにも「ハウス・オブ・ブルース」という有名ライブハウスが入っていて、有名ミュージシャンのツアーに使われる(前回8月のK-1取材に来たときには、その当日にボズ・スキャッグスのショーがあって、歯がみしたものだ)。その他「ロード・オブ・ザ・ダンス」や「O」「ブルー・マン・グループ」「EFX」など、有名なミュージカルショーもブロードウェイ顔負けの勢いで軒を競う。いわばUFCやWFAの開催も、またその客寄せ戦略の一つ。ホテルに客を呼び寄せる誘蛾灯なのである。

日本でも石原都知事が提唱するお台場カジノ建設計画などが言われているが、いずれこういうスタイルで日本でもギャンブルとのタイアップスタイルの格闘技大会が開催される時が来るだろう。そうなった時に問題になるのは、それがリアルファイトかどうかという点だ。

ラスベガスでは日本でもお馴染みとなったサッカーのtotoの簡易版で、「スポーツブック」というギャンブルが実際に行われている。カジノの壁に設置されたモニターには、現在行われている野球や競馬などのスポーツの映像が映し出され、それを観戦しながら、勝敗を予想する。横には電光掲示板が設置されていて、日々移り変わる掛け率を表示する仕掛けになっている。

ボクシングはもちろん、8月のK-1や今回のUFCもこのスポーツブックの対象になるのだが、それはこれらの大会がリアルファイトと認められた結果なのだ。賭けの対象になるだけに八百長は御法度。もちろん条件はそれだけではない。大会の運営がいい加減だったり、マッチメイクがきちんとしていないのもダメ。いわばラスベガスで興行を打つことは、格闘技の大会としてのグレードを問われている事にもなる。いくつもの団体がこの地での大会開催を目指しながらもなかなか実現しないのは、ネバダ州のスポーツコミッションがこうした部分にまで踏み込んで審査を行うからだ。その意味でラスベガスに総合格闘技が上陸した事は、ルール問題だけではなく、本当にエンターテイメントスポーツとしての質を問われる問題だったのだ。

さて部屋に戻った僕は、早速パソコンを広げて電話線を繋いだ。古ぼけて壁も黄ばんだ部屋だが14階ということもあって外の景色だけはいい。午後の日差しの下、マッカラン国際空港を見下ろす景観は決して悪くない。隣のMGMグランドはもちろん、遠くには明後日のWFAの会場となるハードロックホテルも一望できる。

今回も例によって旅費稼ぎにゴング格闘技誌の記事を請け負って来ているのだが、同誌のPRIDE.17速報号に記事を突っ込む事になっていて、徹夜で記事送りをしなければならない。それも写真込みでの作業となるので、傍らで記事を書きつつというハードな作業だ。原稿はゴン格に移籍してきたフリーライターのT記者との折半ということでいつもの半分の量だが、ネット送稿は全て僕の担
当になる。それに加えて、僕にはばうれび用の速報作業もある。まさに不眠不休を覚悟せねばならない。とりあえず少しでも時間を節約するために、原稿書きにPowerBook G3、そして伝送用に以前使っていたPowerBook2400と2台のマシンを担いでべガス入りした。

もちろんテロ騒ぎの影響で、空港のチェックインは難渋を極めた。ハイジャックにパソコンを使用するというケースがあるら
しく、パソコン類はただでさえ厳しくチェックされるのだ。それを2台も抱えた非白人の僕が、どれだけ厳重なチェックに晒されたかをご想像頂きたい。にもかかわらず、ラスベガスに持ち込んだPB2400のAOLのソフトはウンともスンとも言わない。G3の方は幸いニフティのローミングで通信が確立したものの、PB2400はスタート初日で重たいだけの黒い匣と化した。

まさに波乱の三日間の幕開けであった。


※BoutReview EXpress [Weekly] Vol. 004 (Sat, 24 Nov. 2001) より
投稿者 井田英登 at 03:00


11/01  ラスベガス不眠不休日記#2 「兵士の立つ空港にて」 / [contact sports:格闘と葛藤]
●11月1日(木)ロサンゼルス→ラスベガス

UA890便のロサンゼルス着は相変わらず11月1日のまま、午前8時55分。
東京にいれば今頃は11月2日の午前1時55分
太平洋を越える旅は、そのまま時間を遡る旅でもある。
この感覚は何回海を越えても慣れることができない。

夜明けの太陽を追い続ける形で、羽根の生えたタイムマシンはアメリカ大陸へ。
結局、その間の睡眠時間は4時間足らず。

中途半端に目覚めたまま、成田で買った「アメリカン・タブロイド」を読み始めてしまう。これから行く国の恥部と病根の歴史を、血糊で描いた暗黒小説。ケネディというアメリカの輝かしかった時代の象徴を、擦り切れたズック靴の底でミンチになるまで踏み付けた病的に熱い物語だ。

「アメリカ」「飛行機」とくれば、今の時期どうしても「テロ」の話題を切り離すことができない。

一番危険なのはランディングのタイミングだという。ところがその一番ヤバイ頃合いでもある、到着予定時刻まであと10分というところで、機内に「気流のためロス空港上空をもう10分ばかり旋回することになりました」という不気味なアナウンスが流れる。てきめん、胸の辺りに鬱屈したものが立ちこめる。こんなところで余分に10分飛ぼうなどと言い出されたら、操縦席をひげ面の男達が占拠する妄想で、僕の頭はハチ切れそうになるのだ。勘弁してくれ。

「アルカイーダの反撃があるとすれば、この時期だ」
「次の標的はココだ」
そうでなくても、日本では連日無責任なマスコミが、そんな迷信じみた憶測をまことしやかにばらまいていく。11月1日というゾロ目の日付ひとつも、胸を粟立てる材料になりかねない。無論彼ら自体もそんなことは毛ほども信じちゃいないことは百も承知なのだが、それでもそのひとつひとつが胸の奥のちっぽけな不安の氷塊になっていくのを押さえきれない。

“バカラシイハナシダ・・・”
嘲笑う自分の向こう側に、臆病で、風の音にも怯えて泣きじゃくる赤子のような自分の存在を感じる。
“ソレダケイウナラ、コンキョヲヨコセ”
そう強がる言葉は、その不安を裏打ちされたらどうしようと、日々おののくばかりの心の影だ。

ロス空港に降り立った途端、その不安の分身が軍服を着て荷物検査所の前に立っているのを見た。
アサルトライフルを手に陸軍兵がかっ歩するロサンゼルス空港。
いくら平時を装っても、やはりこの国は既に戦場の真っただ中だった。

ジョージ、君は夕べは何時間眠れたんだい? 
君の頭の中に不眠の羊が一匹跳ねるたびに、この空港に迷彩服を着たイーグルが一匹増える勘定だろう。

苦々しい気分が喉の奥に詰まったまま、ロス発の連絡便でラスベガスへ。
窓の外は、たっぷり30分近く核戦争後の世界のようにひたすら埃色の原野が続く。
この無愛想なネバダ砂漠を越えると、突如そこにレゴブロックのような、チャチで嘘臭くて、そのくせ妙にきらびやかで一度見たら忘れられない、魅惑的な幻の光景が浮かび上がる。

ラスベガス。

しかし、空から見た眠らない街は、まだ寝ぼけ顔の午前11時だった。


※BoutReview EXpress [Weekly] Vol. 003 (Sat, 17 Nov. 2001)より



投稿者 井田英登 at 02:00


11/01  ラスベガス不眠不休日記 #1「眠らない街の眠れない男」 / [contact sports:格闘と葛藤]
●11月1日(木)伊丹→成田→ロサンゼルス

今年後半のビッグマッチラッシュの劈頭を飾る東京ドームでのPRIDE.17を尻目に、ラスベガスに。桜庭のリベンジも気になるが、僕個人にとってはUFCでのクートゥアVSヒーゾ戦の行方の方が重要に思える。既にライフワークとなりつつあるUFC取材も足掛け四年目。アメリカと日本を二か月に一回のペースで行き来する生活にも、すっかり慣れた。前回テロの影響で、ラスベガス初進出となったUFC33の取材を泣く泣く見送った僕にとって、5か月ぶりのUFC取材となる。

ラスベガス自体は8月のK-1以来だが、テロ事件以来飛行機に乗ること自体がギャンブルになりつつあるアメリカ渡航。まして、行き先はアメリカのエンターテイメントの首都と呼ばれる街だ。NYのテロ直前にアルカイーダのテロリスト達が2度も足を運んで、攻撃目標としての視察を重ねていたという噂もある。でっかいジャックポットを引き当ててしまう可能性だってあるのだ。前の晩は、準備不足でバタバタしたこともあるが、結局一睡も出来なかった。今回は前後の用事もあって、故郷大阪からの出発になる。果たして、俺はこの街生きてに帰ってこられるだろうかと、不気味な思いが頭をよぎる。

午前7時半伊丹空港発の連絡便で9時前には成田着。しかしロス行きの便は16時出発。なんと7時間待ち。こういう生活をしていると各地の空港で過ごすことが多くなるが、日本の空港のホスピタリティの悪さはずば抜けている。アメリカの空港では気の利い
たカフェやバー、あるいは充実したショップなど、そこで長時間人が過ごすことを念頭に置いた空港作りがされていて、この空間で過ごすことが苦痛でもなんでもない。

午前中はここ数日の不在にむけて各方面に向けてメールを書き、空港のデジタル公衆電話から送信。ここで重大なトラブル勃発するのだが、これは割愛。

一時過ぎに展望カフェで、サンドイッチセットを食すが、これが岩のようなミニバゲットに芸のないエッグサラダを挟んだだけの酷い代物。やはり日本の空港の食事は世界一不味くて高い。午後は永井豪の「手天童子」を文庫化されていたので、それを読んで過ごす。名作「デビルマン」直後の連載で割を食ってはいるが、ビジュアル的にもストーリーテリングの面でも、当時脂の乗りきっていた永井豪の勢いのようなものがひしひしと感じられる。もしチャンスがあったら、ジャパニーズコミックオタクのジョシュ・バー
ネットくんに進呈して、意見を聞いてみようと思う。16時、なんのトラブルもなく飛行機は成田を離れる。

昨夜からの徹夜の影響もあって最初の機内食サービスを食べ終えると、すぐ眠りが訪れた。思えば、この眠りがそこからはじまる地獄の三泊四日の旅での、最初で最後の安眠となってしまうのだが、そのことを僕はまだ知らない。


※BoutReview EXpress [Weekly] Vol. 002 (Sat, 10 Nov. 2001)より

投稿者 井田英登 at 01:00