完成者の挑戦。 佐藤選手が、日本のライト級にあって、トップクラスの選手であることは誰しも認めるところだろう。攻守のバランスの良さ。しかも、それがハイレベルに調和し、なおかつスタミナに裏付けられている。紛れもないオールラウンダーである。 不幸な多団体時代にあって、既に、NJKFの中では真にライバルと呼べる相手もなく、孤高の王者と化しつつある。前回に続き、今日の試合も国際戦となった。前回は、フランス王者を冷静に捌いてカウンターで撃破。決して悪くない、むしろテクニカルな好選手だったが、佐藤選手は2RにKOで葬り、自らの完成度の高さを誇示した。 しかし、今日の相手が、容易でないことは明白である。 これは、ただの国際戦ではない。ムエタイとの闘いである。未だその試合を見たことはないが、「元ルンピニー系王者」「現ラジャ系トップランカー」。…この肩書は、それだけで破壊力十分である。クルークチャイ選手の、実力は推して知るべし、といったところだろう。 月並みな言い方で恐縮だが、まさに強豪。この試合、佐藤選手が「挑戦者」であり、その挑む相手は「ムエタイ」、ということにならざるをえないだろう。
首相撲という煉獄。 前半、クルークチャイ選手は、(言葉は悪いが)佐藤選手を子供扱いした。 執拗に、自分の型に佐藤選手をはめ込み、首相撲とヒジ、この最大の武器を繰り出し続けた。 正直な話、佐藤選手の体がいつまで保つのか。いつまで闘争心を維持できるのか…いつ崩れても不思議のない展開だった。クルークチャイ選手のヒジは巧みであり、種類、角度、タイミングなど、どれをとっても佐藤選手のそれを遥かに凌駕した。ヒザも同様。どこからでも、いつでも突き上げられるヒザは、佐藤選手を休ませない。佐藤選手も必死に、組み手を争い、体を入れ替えようとするが、その行く手を阻むように待ちかまえるクルークチャイ選手の巧さ。 常に先手をとり続けたクルークチャイ選手が、完全に前半を制した。 後半に入り、やや攻撃の手を緩めたクルークチャイ選手に、佐藤選手が必死に食い下がる。パンチとローでクルークチャイ選手を追うが、なかなかパンチの距離を保てない。クルークチャイ選手の間合いの妙が、佐藤選手を翻弄した感が強い。結局、佐藤選手はクルークチャイ選手を追いきれなかった。 確かにムエタイの壁は高い。あれほどまでにしつこい首相撲の展開は、今まで佐藤選手は経験したことがないだろう。 佐藤選手はよく我慢したと思う。5Rの試合として組み立てたのならば、前半我慢して後半勝負に出る、という作戦は、当然アリだろう。我慢に必要な体力、そして何より気力は、普段の練習によって裏付けられるもの。きっと良い練習をしているのだろう。 しかし、首相撲は、日本人選手に共通する弱点といわれている。それは、とにもかくにも、経験の差ではないか。そして、経験は、練習だけではカバーできないものといわれている。 必ずしも、首相撲そのものに強くなる必要はないが、首相撲に入る前に封じる術を経験で会得するには、相手が首相撲を挑んでくる事が前提となる。しかし、日本では、首相撲を得意とする選手はあまり多くない。結局、どちらにしても首相撲に対応するのは困難である…。 楽観すれば、ここが克服できれば、ムエタイ越えという福音の瞬間へと大きく近づくことになる。しかし、そこまでに至る煉獄は、果てしなく巨大であり、甚だしく過酷なものだろう。 文 片岡
楽観すれば、ここが克服できれば、ムエタイ越えという福音の瞬間へと大きく近づくことになる。しかし、そこまでに至る煉獄は、果てしなく巨大であり、甚だしく過酷なものだろう。 文 片岡