K-1 JAPAN'99 RISING SUN

2. 3 代々木第２体育館

第５試合　日本対世界副将戦３分５回戦

　そしてそれに対する一つの解答を、今回武蔵はハッキリと示して見せた。

　ダンカン・ジェームスは事前情報によればパンチラッシュを主体にしたラッシュ型のサウスポー・インファイター。武蔵はこれに対してサウスポー対策としては定法のカウンターの右キックを主体に試合を組み立てる。それにしてもこの日の武蔵の右の蹴りは走っていた。石井館長によると武蔵は蹴りのフォームを若干改良し、腰をぶらさず足先を走らせるようなものにしたという。これは「モンスター・ファクトリー計画」による肉体の大増量の延長線で引き続き武蔵の改造が進んでいることを示していると思われる。パワーが上がったことで、全身の体重を載せるような大きなフォームでなくとも充分な破壊力を伴ったコンパクトでスピーディな蹴りが可能になった。この数試合、体格が大きくなったことをやや持て余している感のあった武蔵だが、いよいよ肉体改造に伴う技術改良の段階に「モンスター・ファクトリー計画」が入ったということだろうか。

　この早い蹴りにジェームスは目が付いていかない。ローキックを何発も喰らい下半身に意識が向かった途端、同じ蹴りのフォームから今度は上段に伸びてきた右のハイを貰ってダウン。「まだインパクトの瞬間の体の開きが早過ぎる。もうちょっとフォロスルーが入れば、一発で相手は立ち上がれないはず（石井館長）」

　序盤のこのダウンで試合の流れは決定的になった。ジェームスが入ろうとする瞬間瞬間に機先を征するような武蔵のカウンターの右ロー、右ハイ、右ストレートが飛んでくる。武蔵は既に余裕を持って相手を見ながら技を出している。こうまで「強い武蔵」の姿が見られるのも実に久しぶりのことだ。

（ジェームズ：武蔵　8-10、8-10、8-10）

　Ｒ１に武蔵の右ローを嫌というほど貰ってジェームスの右脚内股は遠目にも明らかなほど暗紫色に変色している。それでも頭を振って何とかパンチを当てようとするジェームスの試合態度には好感が持てたが、いかんせん実力の開きがあり過ぎた。再び居合抜きのような右のハイでもんどり打って倒れる。しかしジェームスのファイティング・スピリットも大したもので、すっくと立ち上がると何事もなかったかのようにファイト再開。これには観客も色めき立つ。

　だがこの時点で武蔵の心中は対戦相手より自分自身に対する課題に向かっていたようだ。右のミドル、ハイ、そして膝と三連打を出してみたり、右の蹴り脚の引きの反動を利用した右ストレートの追い打ちを出したり、最近の大味なファイトには見られなかった多彩さがこの日の武蔵からは見られた。「練習してたことは...あんまり出ませんでした。」「パンチ、蹴り、パンチ、蹴りっていうコンビネーションを頭に入れてたんですが、最初に蹴りが入ったんで、ちょっと蹴り過ぎました。」武蔵に攻防分離、手足の分離や単発傾向があることは以前から指摘されていたが、本人もその点自覚を持って改善に取り組んでいることがこの試合後のインタビューから伝わってくる。地道なトレーニングの成果はすぐに形になって現れるのは難しいだろうが、元々非常に器用な（ともすれば起用過ぎる）武蔵であるから、早晩そうした欠点は解消されるものと期待したい。

　まるで起きあがりこぼしのように立ち上がってくるジェームスだったが、右フックでこのラウンド二度目、続いて立ち上がった途端に右ストレートで顎を打ち抜かれて三度目のダウンの宣告を聞いた。

（高田敏洋）

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