K-1 JAPAN'99 RISING SUN

2. 3 代々木第２体育館

　開始間もなく長井の左ミドルに合わせたマナートの軽いストッピングの前蹴りで、長井が後方にゴロンと転がる。単なるスリップではあるが、ちょっと簡単に飛ばされ過ぎるような気もして多少引っかかったシーンだった。その後マナートの方も長井の左ミドルを受けて尻餅を付く。蹴りそのものはしっかりと両手でブロックされていたが、その衝撃力にはマナートも「びっくりした」そうである。前回K-1神風でも敗れたとはいえ巨漢ヤン・ノルキアの腕をミドルキックで骨折させた長井の蹴りの重さは相当なものだ。

　しかしマナートは百戦錬磨である。長井のキック力もその最初の一発でしっかりと頭に入れ、その後は絶妙の距離感で長井にプレッシャーをかける。長井の制空圏の境界付近に身を置き、長井の出す攻撃の殆どを微妙に距離をずらしながらブロックし、あるいはステップで回りながら受け流す。その雰囲気からは相手をじっくり観察していられるだけの余裕すら感じられる。決してマナートの方からガンガン前に出ている印象は無いのだが、そのポジショニングは「いつでも必要なときには攻撃圏内に飛び込んで行くぞ」という気配を常に漂わせ、対戦相手にプレッシャーを掛け続けるものになっていた。そのため、気が付くと長井はロープを背負う形で後退させられ、そして相手がロープ際に下がるとマナートはいきなり距離を詰めて刺すようなパンチや膝を繰り出してくる。それらの攻撃がこれまためっぽう正確でキレがある。そしてマナートの目は攻撃の最中でも、殆ど微動することなく対戦相手の長井を視野の中央に納め続けていた。

（マナート：長井　10-10、10-10、10-10）

　展開的には殆どＲ１から変化無し。相変わらずマナートの落ち着きぶりが目を引く。

　最初の対中迫戦、先のノルキア戦、そして今日の試合。常に長井の試合にある種の悲壮感が漂うのは何故なのだろう。長井本人には非常に失礼な物言いかも知れないが、リング上での長井の姿には、彼の内面の恐怖やそれに負けてはならないと自分を必死に鼓舞している様子などが透けて見えているような気がしてならない。腕に覚えのある偉丈夫が自身の力を誇示しているのでなく、「勝ったらリングに息子を上げて一緒に記念撮影したいです」と語る、いわば「我々の側にいる」市井の人の必死さをそこに垣間見てしまう。

　コーナーに詰まった長井の顎を、マナートが正面から右ストレート一発で射抜いて試合は終了した。昏倒した長井はその後数分間立ち上がることさえ出来なかった。内容的にはマナートの完勝と言っていいだろう。

（高田敏洋）

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