K-1 JAPAN'99 RISING SUN

2. 3 代々木第２体育館

　しかし既に彼は現在31歳、ピークの短い打撃系選手としては年齢的に後のないところまで来ている。飄々としたキャラクターから見過ごされがちなその内面にはそれなりの葛藤やジレンマも抱えている筈で、今回彼は本気で「負けたら引退」のつもりであったという。ところがそういう重大な決意を秘めていたにも関わらず、実は宮本はこの試合を前に最悪のコンディション調整失敗に見舞われていた。「勝ったから言いますけど...」沖縄合宿から帰った1月末からインフルエンザで41度を上回る熱を出し 、試合当日までその熱が39度を下ることが無かったのだそうだ。

　世界に比べて力量的に差が開いてしまっているK-1日本勢、その実力アップを重要な目的の一つとするJapanシリーズの、今回先鋒役である宮本がもし破れるようなことがあれば、この日の興業自体の雰囲気は一気に暗色に塗り潰されることになる。宮本自身がそのことは一番判っていた筈だ。そうしたプレッシャーに加えて更に引退、風邪といった様々な要因、それらをはね除けた宮本の「根性ファイト」が、この日の興業全体の流れを決定付けたと言ってよいだろう。

　ゴングと同時に、黒人特有の長い手足から非常に伸びのあるパンチとキックを連打して宮本に襲いかかるホワイト。ボクシングの歴史に名を残すトーマス・"ヒットマン"・ハーンズのスナッピーな攻撃スタイルを一瞬彷彿とさせる。「いや、つーッよいですよー」とは試合後の宮本の口から真っ先に洩れた言葉だ。

　そのホワイトの攻撃が勢い余った形で2度の立て続けのローブローになり、ホワイトは1ポイントのマイナス、宮本には1分間のインターバルが与えられた。しかしこのインターバルからの再開直後、一瞬ヒヤリとする場面があった。試合再開の合図にグローブを合わせに行った宮本のテンプルに、いきなりホワイトの右ハイがヒットしたのだ。一瞬ひるんだ宮本に対して、追い打ちのパンチとミドルキックのラッシュ。

　ところがここからが宮本が最も宮本らしさを見せる展開になった。ラッシュを凌ぎつつ反撃に出、それまでどんどん前に出ていたホワイトを押し戻し、逆にロープに追い込んでパンチを乱れ打ちにする。この突貫型のファイティング・スピリットは空手修業の時代に培われたもの、と宮本は試合後語った。「空手やってて良かったと思いました。」ややパンチが大振りな印象は試合後の体調に関する宮本本人のコメントによって原因が分かったが、それにしてもモーションが大きい分ホワイトのジャブをカウンター気味に喰うようなシーンも散見され、ひやひやさせられた。

　しかしこの宮本の反撃によって、攻撃一辺倒だったホワイトは前に出る圧力を失う。その後はどちらかというと前に出ているのは宮本、それを掴まえて首相撲からの膝に持ち込もうとするホワイト、という展開になった。

（ホワイト：宮本　9-10、9-9、9-10、ローブロー2回でホワイトに原点1）

　ホワイトはＲ１に手数を出し過ぎてスタミナ・ロスが激しい。しかしその点に関しては体調を崩している宮本も同様だ。リーチの差の分、離れてホワイト入って宮本という展開だが、体にキレの無い宮本が入り際にホワイトのカウンターを喰らって顎が天井を向く場面がしばしば現れる。既に宮本は体の軸をぶらさずにパンチを打つだけのスタミナも残っていないようで、振り回すようなパンチが空転すると体全体が泳ぎ、ホワイトのパンチを貰うと足がふらついている様子さえある。

　それでも宮本の闘争心だけは全く衰える様子を見せなかった。このメンタルな部分での差が試合を決めたと言ってよいだろう。ホワイトをコーナーに詰めて右ミドルを放った際に、宮本はホワイトの肘に臑をぶつけて脚を骨折していたことが後日判明。それでも彼は試合中その折れた右脚で蹴りを放つのをやめようとはしなかった。

　この宮本の執拗な左右のローと自身のスタミナ切れでホワイトは戦意喪失に追い込まれた。「勝ちに対する拘り」という面で、両者の間には決定的な開きがあった。この試合の結果は、殆どメンタルな部分によってもたらされたもののように見受けられた。

（高田敏洋）

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