K-1 JAPAN'99 RISING SUN

2. 3 代々木第２体育館

「今日の全体を見渡す限りでは、まだまだ日本人選手団とK-1本戦との間には、大きな実力的隔たりがあるように感じられた。だが結果は3-2で日本人の勝ち越し。K-1は真剣勝負のスポーツなのか、それともショーなのか？」

　自他共に認めるK-1の顔であり、冷徹な理論家でもある鉄人は続いて次のような内容を語った。

「確かに未だに日本人選手団の力はK-1トップからは隔たった位置にある。しかしそうした差を縮める為に企画されているのがK-1Japanであり、恵まれた機会によって差が縮まりつつあるのもまた事実だ。
　しかしそれでも差が一気に縮まることはあり得ない。少なくとも後2年、そのくらいの時間は必要だろう。（そうしてそれまでは自分がK-1の顔を勤め続ける。）」

　それまでの格闘技に無かった「観る側の論理」すなわち観客論を導入してK-1がメジャーのトップに駆け昇っていく過程で取りあえず積み残しにした荷物は、実は非常に多い。正道会館の全日本大会を母胎として始まったK-1が世界レベルの大会に昇華していく過程で、かつて「全日本」大会に出場し「日本一」を目指していた多くの日本人選手層はその拡大スピードに追いつけずに取り残されることになってしまった。そして大男達の一撃必倒の試合内容に馴らされた観客達に中量級軽量級のK-2,K-3の技術戦を理解しようとする意識は育たず、チャンスに恵まれなくなった重量級以下の選手層の存在。K-1のわかりやすさが「観る側」の論理に物の見事にシンクロした結果、皮肉なことに「やる側」の意識がK-1に占める役割は軽くなってしまったとは言えないか？筋金入りの「やる側」で育ってきた角田や佐竹らが、「観る側」の立場からシフトしてきた若手選手層の精神面について辛い点数を付けることは、果たしてK-1という舞台そのものの持つメジャー性と無関係なのだろうか？

　天才プロデューサー石井館長が、そうした落差を逆手に取る形で立ち上げたのがK-1Japanシリーズである。内外の温度差のあるところには対流が産まれ、そして流れのあるところには必ずエネルギーもある。このエネルギーを汲み上げるのがプロデュース側の役割なら、大元になるエネルギーそのものの出所は間違いなく武蔵や中迫を初めとする日本人選手達のファイトにある。そういった意味では、フグが語った2年という期間は逆に彼らに与えられたタイムリミットであるとも言えよう。その間に新たな流れを産み出すだけのエネルギーを彼ら次代のK-1ファイターが養うことが出来なかった場合、K-1という舞台はますます「やる側」からは遠く隔てられる可能性が多分にある。

　こうした幾ばくかの焦燥感を含んだK-1Japanの役割が、戦歴10戦にも満たない日本人達に次々と世界の壁にぶち当たり跳ね返される過酷な試合を要求する。宮本が、タケルが、それに対する一筋の光明を見せ、武蔵が「強い日本人」の仄かな可能性を感じさせてくれた一方で、長井や中迫は現状の厳しさをも同時に示した。しかし今回彼らが示した結果に、先の外国人記者のように納得することが出来なかった者がいた。その疑義が「やる側」からでなく、「観る側」から提示されたという事実は軽くない。

　「日本は再生するか？」答えは未だ出ていない。 　　　　　　　　　　　　

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